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愛しさの先にあるもの13
そんなある日、街中の本屋で樹によく似た青年を見かけた。思わず後を追いかけて声をかけ、振り返った青年は別人だった。
だが、そのことがきっかけで、薫はまた酒に手を出してしまった。
ほんの少し、気を紛らわすだけ。
そう思っているうちにどんどん酒量は増えていく。仕事中はなんとかおさまっていたが、1人で過ごす夜がダメだった。
ある日冴香と食事に行って、またアルコール依存症に陥っていることに気づかれてしまった。冴香はハラハラと涙を流し、恋愛感情なんかなくてもいいから、そばに居てせめて貴方を見守らせて欲しいと言った。
薫は今度こそ酒を断つと決心し、自分に心を砕いてくれた冴香との結婚を決意をした。
これ以上情けない生き方をしていたくない。いい加減、ケジメをつけるべきだと思ったのだ。
冴香はよき理解者でいてくれた。
2人とも自分の仕事への夢があったから、生活を共にし互いに協力し合えるパートナーとしての結婚生活は順調だった。
樹に対する想いは心の奥底に封じ込めた。だが、無理やり押し込めてしまうこともやめていた。必死に忘れようとするから余計に苦しいのだ。
冴香に対して、後ろめたさがないわけではない。結婚はしたが、実は夫婦生活はしていない。夜、そのつもりでベッドを共にしても、どうしても最後までは出来なかった。性的に興奮して身体は反応しても、冴香を抱こうとすると萎えてしまう。
こればかりは焦ってもどうにもならない。
時が解決してくれるのを、待つしかなかった。
……樹……。
樹を思う時、悔やみきれない自責の念とは別に、せつないほどの愛おしさに満たされる。血の繋がった弟だと分かっても、あの子を愛したこと自体を後悔はしていない。
自分にとっては今でも、樹はこの世でたった1人の恋人だ。
今、どこで何をしているのか。幸せに生きてくれているのか。
それだけがいつも気がかりだった。
誰かに腕を捕まれ歩かされている。揺らめく視界がいっそうグラグラと回り始めた。
ここにいてはいけないと、漠然と感じている。だが、それが何故なのかは分からない。考えようとしても、意識が、集中力が霧散していく。
時折、昔の記憶の情景が浮かんできて、ぎこちなく微笑む樹の笑顔に胸を締め付けられた。
……樹……。おまえに、会いたいよ。
記憶の中の樹は、初めて会った時のまるで少女のような少年の姿だったり、背が伸びて落ち着いた雰囲気の青年だったりした。だが、微笑むその顔は昔のままの愛らしさだ。
……樹……何処にいる?樹……
極彩色の光が強くなってきた。
薫は眩しさに目を細めながら、樹の姿を探して視線を彷徨わせた。
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