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溢れて止まらない18
「それで……あのね、にいさん」
樹がちょっと言いにくそうに切り出した。
「ん?なんだ」
「僕を養子にしてくれた、朝霧さん。朝霧恭也さんっていうんだけど……」
「ああ」
「明日、仕事が終わったらこっちに来てくれるんだ。それで……にいさんにも、会いたいって言ってるんだって」
薫は目を見張り、まじまじと樹の顔を見つめた。
「おまえのお義父さんが……俺に?」
「うん。……あのね、朝霧さん、すごくいい人なんだ」
「ああ。そうだろうな。おまえの話を聞いてたら分かる」
樹は微妙に目を逸らして
「うん。そうなんだけど……わりと思ったことをズバズバ言う人で」
「……?」
「その……にいさんにも、遠慮なく言いたいこと言うかもしれない……から、」
薫は微笑んで
「俺は構わないぞ。何を言われても」
樹は心配そうにちろっと横目でこちらを見ると
「ほんと……ハッキリ言う人だから、もしムカついたら……ごめんなさい」
樹は何だか酷くせつない表情を浮かべている。薫は首を傾げた。
……そんなに……怖い人なのか?
月城や樹の話を聞く限りでは、樹のことをよく考えてくれる人のようで、今回の件もその人が手を回して助けてくれたのだという。
何より、樹はその人のおかげで今は自立して仕事もしているわけだから、やはり恩のある相手だし、筋の通った人格者なのだろうなと思う。
「樹。会ってみなければおまえが何を心配しているのか分からないが……大丈夫だぞ、にいさんは。多少、キツいことを言われたって別に気にしたりしない。それより、もし会えるなら、俺も会っていろいろお礼が言いたいと思っていたんだ」
樹は目をまん丸にして、じーっとこちらを見ると、ぎこちなく微笑んだ。
「うん。じゃあ……会ってもらってもいい?」
「もちろんだ」
樹はホッとしたように吐息を漏らした。
「じゃあ僕、今日はちょっと仕事があるから、少し出てくる」
「えっ、帰るのか!」
思わず声が大きくなった。薫は慌てて口に手をやり
「あ……いや、そうか、仕事があるんだよな」
樹はまた目をまあるくして、こちらを見ている。つい不安になって縋るような声が出てしまった自分が恥ずかしかった。
「うん。でも、夜はまたここに戻るから」
「あ……。そうなのか。うん、分かった。気をつけてな。また変な奴に絡まれたりしないように」
バツが悪くて早口になる。
樹は、手を伸ばしてきて、こちらの腕に触れると
「うん。ありがとう、にいさん。なるべく早く、戻って来るから」
そう言うと、くるりと背を向けてカーテンの向こうへと消えた。
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