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月の光・星の光1

「どういうことだ?逃げた小鳥がわざわざ舞い戻ってくるなんてな」 黒スーツの男たちに囲まれて通された部屋は、昼間なのに分厚いカーテンがひかれた書斎だった。 久我は重厚なデスクの向こうでふんぞり返って、薄笑いを浮かべている。 樹は出来るだけ無表情を装い、ゆっくりとデスクに近寄った。 「動くな」 黒服の一人が鋭い声をあげる。久我は笑いながら手をあげてそれを制して 「まあいい。下がってろ」 樹を取り囲んでいた男たちが、無言で壁際に下がる。 久我はデスクに両肘をついて手を組むと 「で。直接ここに乗り込んできて、どういうご用件かな?お嬢ちゃん」 久我は面白そうに笑っている。 樹はバッグからファイルを取り出した。 「取り引きをしたいのです」 久我が目を丸くする。 「取り引き?誰が、誰に」 「ボクが、貴方に」 くくく…っと久我は声をあげて笑い出し 「これはまた、とびきり可愛い冗談だな。お嬢ちゃんが俺に?」 「ボクは、本気です」 久我はまだ喉を慣らして笑いながら、舐めるように樹の全身を眺め回し 「なるほど。その見てくれなら、取り引き材料としてはなかなかの上玉だな。いいだろう。脱いで見せろ」 樹は首をゆっくりと横に振った。 「違います。取り引きしたいのはボクの身体じゃない」 久我は片眉をあげて 「ほう……。じゃあ、どんな餌を持ってきた。くだらん茶番に付き合ってる暇はねえぞ」 口調は静かだが、声音に凄みが増す。 樹はデスクの上で、周りにも見えるように慎重に書類を取り出すと 「これです。目を通していただけますか?」 久我はふんっと鼻を鳴らし、椅子から立ち上がると、ゆっくりとこちらに回ってきて 「俺が目を通すだけの価値があるのか?」 「そのつもりです」 久我はやれやれというように首を竦めると、ファイルをつまみ上げた。 「そこにあるのは概要です。興味を持っていただけたら詳細を説明します」 樹の言葉に久我はファイルをヒラヒラさせながら歩み寄ってきて、手を伸ばした。 グイッと顎を掴んで持ち上げられる。 「直接、単身で乗り込んで来た度胸は買ってやる」 「ありがとうございます。ファイルの中身を見ていただけますか?」 久我はふんっと鼻を鳴らすと、掴んだ顎をグイッと引き寄せ 「まずは挨拶だ。上手に出来たらご褒美をやるぜ、お嬢ちゃん」 久我の顔がすぐ目の前に迫る。樹はその目をじっと見つめた。 「ん?どうした」 したり顔で促され、樹はゆっくりと久我に顔を近づける。次の瞬間、噛み付くように唇を奪われた。

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