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月の光・星の光9
ハラハラと見守る樹の前で、2人は和やかにお互いの仕事の話や世間話を続けていた。
薫にしても朝霧にしても、自分とは違って社交性があるし話が上手い。
しばらく経つと、初対面とはとても思えぬほど2人とも打ち解けて、薫の今の仕事の状況や起業の話題で盛り上がり始める。
樹は内心、感心しながら黙って2人の会話を聞いていた。
そして、起業の計画内容を目を輝かせて話す薫の表情に、思わず見とれていた。
……よかった……にいさん。お仕事、順調なんだ。
まだ大学生だった頃、自分に将来の夢を語ってくれた兄の、いきいきとした笑顔が大好きだった。大学を無事に卒業して希望していた仕事につき、順調に夢に向かっているのだ。こんなに嬉しいことはない。
心が張り裂けそうな思いをして、薫の側から離れたことが無駄じゃなかったのだから。
樹は込み上げてくる喜びに、ゆるむ頬を必死に堪えていた。
「……あれ?そうすると、大学を出てから、君は1年間、就職はしなかったのかい?」
不意に、朝霧が首を傾げながら問いかけ、樹は驚いて薫の顔を見た。
薫はちらっとこちらを見て、何故か気まずい表情になり
「ああ……それは……」
薫は言いよどみ、テーブルの上のコーヒーをひと口啜ると
「実は、在学中に1年ダブったんです。身体を壊して……入院してまして」
樹は目を見開いた。
その話は初耳だった。
身体を壊して?勉強しながらハードスケジュールでバイトもしていたからだろうか。
「身体を?どこが悪かったんだい?」
朝霧の問いかけに薫はまた口ごもった。酷く言いにくそうな様子だ。
「あ……いや。お恥ずかしい話ですが……酒をやり過ぎてちょっと……依存症に」
「ああ……なるほど、そっちか。しかしちょっと意外だな。君は酒に溺れるタイプには見えないがね」
「すみません。若気の至りで」
酷くバツが悪そうな様子の薫に、樹は思わず口を挟んだ。
「お酒を……飲みすぎたの?にいさん」
「あ……ああ……ちょっとな。自分でも気づかないうちに酒の量が増えてしまったんだ」
「今は?今もそれで具合悪い時、ある?」
「いや。症状は改善したし、今はほとんど酒は飲んでない。内蔵がやられたわけではないから大丈夫だ」
樹はほっと胸を撫で下ろしたが、朝霧は逆に身を乗り出した。
「それは、いつ頃のことだい?原因は自覚してる?」
薫はますます困ったような顔になり、こちらをまたちらっと見ると
「あ……や、家族のことで、ちょっといろいろあって……精神的にかなり不安定になっていたんです、あの頃は。ちょうど酒が飲める歳になっていたので……」
「そうか。若い頃はね、自分をコントロールするのはなかなか難しいものだよ。君は真面目そうだから適度に息を抜くことが出来なかったんだな」
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