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月の光・星の光18
「そいつも樹さんと同じ赤の他人なわけ?どんな人さ」
「和臣くん、もうそれぐらいで…」
月城が気遣って和臣を制するより先に、樹が答えた。
「僕より2歳下の、男の子」
「男か、やっぱ。なるほどね」
和臣の意味ありげな答えに、樹は真顔になって首を横に振る。
「違うよ。和臣くん。君が考えてるような、人じゃないから。朝霧さんは」
和臣は残りを一気に飲み干して、包み紙をクシャッと丸めると
「樹さんってさ、こないだの変なじじいに飼われてたり、巧っておっさんにもいいようにされてたわけじゃん。それなのに、人を疑うってこと、しないよね?なんで?」
樹はきゅっと眉を寄せ、キツい目をして和臣を睨んだ。そんな樹にはお構いなしに、和臣はテーブルの上に頬杖をついて
「俺ならまずは疑うね。こいつ、なんか変な下心、あるんじゃねーの?ってさ。男ってそういうもんじゃん。特に金と力のある男ってさ、澄ましこんだ仮面の下に、醜い劣情とか支配欲とか、隠し持ってる」
和臣はす……っと目を細めた。
「あいつら、別にゲイってわけじゃないんだよね。自分と同性の男を、金や力でねじ伏せて屈服させて、薄暗い欲望をそうやって満足させる為に、俺らを抱くんだぜ。俺は見返りを求めない施しなんか、絶対に信じないね」
和臣の瞳に、狂気じみた怒りと憎しみと哀しみの感情が揺らめいている。
樹は苦しくなって、自分の胸にそっと手をあてた。
和臣の言ってることは、間違っていない。自分も、ずっとそういう環境の中で生きてきたからだ。
自分より地位も財力もある大人の男たちはみな例外なく、金や力で自分をねじ伏せて、己の欲望を突き立ててきた。
あの世界で何の力も持たない男は、ただ狩られ、踏み躙られる為にだけ存在する、憐れな獲物だった。
でも……。
和臣には、自分と同じ地獄に堕ちて欲しくなかった。こんな絶望を携えた目をする子に、なって欲しくなかった。
和臣の綺麗な瞳を、こんな風に濁らせてしまった原因は、自分にある。
彼もまた、犠牲者なのだ。
樹は身を乗り出し、黙って和臣に手を伸ばした。意表を突かれ怯む和臣の頬に、そっと指先で触れて
「僕は、君を救い出す。もう2度と、同じ思いはさせない」
「……っ。なに、言ってんだよ。俺は別に、」
「失った時間は、取り戻せないかもしれない。君が負った傷も、治ることはない。でも、僕は、君たちを守るために、あの時、朝霧さんの手を選んだ。僕は彼を利用してるんだよ。施しを受けてる訳じゃない」
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