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月の光・星の光22
「養子にしたのは、樹1人だけですか?」
薫はさりげなく話題を変えた。
「いや。樹くんより2歳下の男の子がいるよ」
「その人も、やはりアメリカで?」
「そうだ。樹くんの義理の弟になるね。日本人ではないが」
薫は目を細めた。
「その子は今、アメリカに?」
「私と一緒にスウェーデンで暮らしていたがね。今回の帰国で、日本に連れてきている」
「……スウェーデン……?」
「あの子はまだ学ぶことがあるからな。私と生活を共にして勉強させているんだ」
薫は溜息をついて目を伏せた。
「すごいな。貴方はいったい何者なんです。日本人でしょう?」
「母は日本人で、父はアメリカ人だ。生まれたのは日本だが、子どもの頃は日本に住んだことはなかったな。技術研究員だった父に連れられて、アメリカや他の国々を転々としていた」
なるほど。朝霧は一見すると日本人だが、意思が強そうなその眼差しの奥にある瞳は、光の加減で黄色や緑がかって見えるヘーゼルアイだ。薫の職場の同僚だったアメリカ人が、これとよく似た瞳をしていた。体格もがっしりしていて背も高い。
初対面で日本人離れした印象と妙な威圧感を覚えたのは、そのせいだったのか。
「では、国籍はアメリカなのですか?」
「いや。数年前に日本に帰化している。母がずっと日本にいるのでね」
「じゃあ、貴方の養子になった樹も、日本国籍ですか」
朝霧はにこっと笑って
「うん。樹くんを日本で養子にする為に、帰化したんだよ」
話を聞けば聞くほど複雑すぎて、混乱してきそうだ。
「質問は終わりかな?」
こちらの困惑を察したのか、朝霧が苦笑しながら顔を覗き込んできた。薫は思わず目を逸らし
「いえ。まだまだ聞きたいことはあります。でも、情報量があまりにも多すぎて、ちょっと頭がぼーっとしてしまって……」
薫が弱音を吐くと、朝霧は声をあげて笑いだした。
「……何が、おかしいんです」
ムッとすると朝霧は笑いを噛み殺して
「や、失礼失礼。なるほど。そうか。樹くんが以前言っていたことが、少しわかった気がするよ」
「樹が?何て言っていたんですか?」
朝霧は何故だかすごく優しげな笑みを浮かべて
「君のことを聞いたんだ。樹くんに。お兄さんはどんな人だい?ってね。そしたら彼は、すごく懐かしそうな表情になって……可愛い人です……ってひと言、ぼそっと答えた」
「か……可愛い……」
朝霧は頷いて
「うん。だから私は、君のことを子どもっぽい所のある男なのかな…って想像していた。感情が表に出やすいタイプのね」
薫は思わず、自分の顔を手のひらで撫でた。
「可愛い……って。俺のことを…樹が…」
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