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月の光・星の光28
「樹……」
「なあに?にいさん。あ、ちょっと、ベッド起こす」
樹は、冷蔵庫から今度はミネラルウォーターを取り出すと、キャップを外してストローを差した。いったんテーブルに置いて、ベッドの脇のボタンを押す。
低いモーター音と共にゆっくりと背もたれが起き上がっていく。
「苦しくない?」
「……ああ」
樹はテーブルからミネラルウォーターのボトルを取り上げると、薫の口元にストローを差し出した。
「ありがとう」
薫は素直に口に咥えると、ごくごくと水を飲む。その口元に樹はそっとハンカチを添えた。半分ほど飲んで、ストローを外す。ボトルをテーブルに置こうとした樹の手を、薫がぎゅっと掴んだ。
「…っ、」
「今日はおまえが、居てくれるのか」
「……うん。朝、まで」
「そうか」
ホッとしたように微笑んだ癖に、薫は強い力で手首を握ったまま離してくれない。
「にいさん、手を、」
「夢を、見ていた」
ポツリと低く呟く薫に、樹はハッとして表情を窺った。
「夢?」
「ああ」
「怖い、夢?にいさん、うなされてた」
薫は気怠そうに首を横に振ると、
「いや、怖くはないさ。おまえが出てきた。夢の中に」
「僕が……?」
「ああ」
薫は頷くと、熱で少しぼーっとした瞳で虚空を見つめた。
「あれは……どこだったんだろうな。多分……おまえと昔行った遊園地かな。よく覚えていないが……どこもかしこも色鮮やかで、賑やかな音楽がずっと聴こえていた」
「遊園地……」
樹はきゅっと頬に力を込めた。
遠い昔だ。懐かしい、思い出の記憶。
薫との楽しかった日々はどれも、今でも鮮明に覚えている。
「最初は一緒に歩いていたんだ。おまえと。でもだんだん、おまえが先にずんずん歩いていってしまって。早足で追いかけてもどうしても距離が縮まらない。追いかければ追いかけるほど、おまえが遠くなっていって……」
薬と熱のせいだろう。薫の言葉は少しもつれてボソボソと低くて、聞き取りにくかった。いつもの快活な兄の声じゃない。
目を覚ましているように見えるが、まだ半分眠っているのかもしれない。
「色のある夢、見る時って、疲れてるんだよ、にいさん」
このまま喋らせない方がいい。寝惚けたままで会話をすると、普通より疲労が増すのだと医者に聞いたことがある。
「ね、にいさん。眠って。大丈夫。僕がそばにいるから」
樹は薫の手にそっと自分の手を重ね、なだめるようにぽんぽんと叩いた。
薫は夢から覚めたように視線をこちらに戻し
「どこからが夢で、何が現実か、よく分からないな。おまえは……夢じゃないよな?」
樹は薫の手をぎゅっぎゅっとした。
「うん。僕はここにいるよ、にいさん。安心して?」
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