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第1話
この景色を見るのは、もう何日目だろうか。
そんなことを考えながら、車の窓に打ちつけられ流れていく雨を視線で追っていた。
6月も半分を過ぎ、本格に迎えた梅雨。
全身にまとわりついてくる湿気は、まるで、汗でびっしょりになった服をずっと着ているかのような不快感を覚える。そして、熱を含んだ空気は重たく、息苦しいとさえ感じた。
雨は好き。だけど梅雨は好きになれないと、この季節がやってきて改めて思う。ジメジメとした暑さに苛立ちを募らせているのも限界を迎え、それを当然のごとく、目の前の存在に向けた。
「おい、暑いぞ。いつも、車の中は涼しくしておけって言ってんだろうが。本当使えねえ、クソ執事。」
「す、すみません!迎え前の業務がいつもより長引いてしまって急いでいたものですから……。」
俺の後に続いたクソ執事の言葉。当然、納得するはずもなく、それは俺の苛立ちを更に煽る。
「……へえ。クソ執事の分際で言い訳とは、随分と生意気だな。」
「…………申し訳ありません。ですが ―― 」
「黙れ。言い訳する前に、どうやったら要領よく仕事がこなせるか、そのスッカスカな頭でよく考えろ。」
俺の言葉で遮られたクソ執事の言葉は、ソイツの口から吐き出されることはなく、悔しげに噤 んでいた。
俺がクソ執事呼ばわりするコイツは、1週間ほど前に雇われたばかりの執事で、名前は確か田中…だったはず。興味がないから覚えていない。……というよりも、どうせコイツもすぐ辞めるだろうから覚える必要がない、というべきか。
父親は某有名大手企業の社長で、物心ついたときから執事の存在があった。同時に、俺の性格の悪さもこのときからで、俺からの罵詈雑言の嵐に耐えきれず辞めていった執事は数知れない。
ㅤ執事達は辞めるとき、口を揃えて俺のことを「子供らしくない」と言っていたと、のちに父親から聞かされた。
「………………馬鹿馬鹿しい。」
そう心の中で呟いてたはずの言葉は、ため息と共に吐き出してしまっていたらしい。
その証拠に、ミラー越しに見たクソ執事の表情が、驚いたような、困っているような複雑な感情を孕 み、瞳が揺れていた。
「……お前のことじゃねえよ。運転に集中しろ、クソ執事。」
「え?あ、すみません……。」
(あー、イライラする。)
治まる気配のない苛立ちを紛らわせようと窓の外へ視線を移す。
降り続ける雨で暗く靄 がかかっていることを除けば、いつもと同じつまらない景色。
“同じ”はつまらない。だから、何日も雨が続く梅雨は嫌い。
何か、いつもと違うことはないかと淡い期待を抱いて、俺は窓の外を眺め続けていた。
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