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第1話

10階以上の高層マンションが聳え立っている。東京のとある地域、高層ビル群が並び車も絶えず行き交い建物の光で夜も絶え間なく光っている。そのマンションの中でおれはある恋人の帰りを待っていた。その人はおれよりずっと年上で出会った時は35歳、当初より5年の歳月が流れひしひしと時間の流れを感じている。恋人の帰りを待っていると1DKのマンション内がとても広い。おれのバイトはファミレスの店員で年収は余りよくない。  そして恋人の職業は塾講師で、そこそこ同僚にモテモテ、因みにフェミニストときている。それで嫉妬するなと言われも無理があるだろう。今日は10月31日で『ハロウィン』だ、恋人が早くに帰ってくるから待っていろと言われた……。パーティーでもするのだろうか……、そういう陽気な人ではないと思っていたけど。そうしている間に恋人が帰って来た。  「ただいま、一矢。今日は女子の同期の子達から面白い話を聞いてきたんだ」  チャイムが鳴った後、手にはお酒が入っているだろう袋と何故かケーキを持っていた。  「お帰り、将吾さん。手に持っているのは何ですか?」  「今日は『ハロウィン』だろ? 女子達が嬉しそうに話ていてね、『ハロウィン』にはやっぱりお菓子が必須だろうって、そこでお菓子にはケーキが一番良いって事になったんだ。その時にケーキに一番合うお酒が何が良いかって言う話になったんだよ」    「なるほど」    それでお酒にケーキか……合うのか?    「あれ、反応が薄いなぁ。若い子達はこういうイベント喜ばないのかい?」    「おれはそういう事にはしゃいでる将吾さんの方が好きですけどね」    「……………はぁ、君もモノ好きだなあ」一瞬驚いたような顔をして項垂れてしまった。いつもの事なのに。  広いクローゼットの中にコートを入れてお酒に合う料理を二人で並んで作った。将吾さんはシャツにズボンというラフな格好に着替えてきた、因みに買ってきたお酒はスパーリングワインの甘口でケーキはチーズケーキだった。出来上がった料理をリビングのテーブルに並べてシャンパングラスにワインを注いだ。それから数十分位経ち、料理も全て食べ終えた後買ってきたケーキに手を出した。       ******    ガヤガヤ騒ぐファミレス内である一際目立っている酔っ払い達のグループがいた。それは明らかな周りの人達に対して迷惑行為をしている。一人は会社の同僚らしい、もう一人はその男の付き添いなのか宥めるように辺りを気にしていた。「赤羽ぇ~~、お前ちょっと会社の同期の女の子達にモテるからっていい気になってんじゃねぇぞ~~~~~~?」  さっきからしきりに同じ事を繰り返し、その人に絡む。その人は困った顔をして周りにフォローを入れていた。「貴方は昔から酒が入ると強気になるんですからあれ程控えろと言ったのに…………」そんな事はお構いなしに周りの女子達に絡んでいく。    あれは他の客に対して迷惑行為だよな…、嫌だけど止めに行ってあげるか。おれはその客達の前に行き、注意を促した。「お客様、他のお客様にご迷惑がかかるので声色を控えて欲しいのですが宜しいでしょうか?」  「ああ~~~~?何ウエイターが生意気に絡んでくるんだよ、引っ込んでろ!」ドスンと肩を叩かれ、弾かれてしまった。慌てて隣にいた冴えない同期の人が止めに入る。「御免なさいッ、大丈夫ですか?」「いえ、小突かれただけですので…………」  「貴方ちょっとさっきから飲みすぎですよ!? 店員さんにまで絡ないで下さいよ!!」その人が酔っ払いを押さえ込んでいると尚おれに向かって絡んできた……酒くさい。  「お前の名前何だよ……? 穂高一矢ぁぁ~~?? お前じゃ話にならん、店長を呼べッッ、店長を!!」  ドンッッと今度は強めに叩かれてしまい、倒れ込んでしまった。会社の人達も慌てて止めに入る。  「ぅわッ!? 本当に御免なさい!! 大丈夫ですか?」「この人も悪いヒトじゃないんです~~、酒癖が悪くてこんな感じになってしまうんです。御免なさい!!」しきりにサラリーマンのごとく深々と謝ってくる。別に構わないんだけど。  「……構いませんよ。どうしてもというなら、貴方のフルネームを教えてくれませんか?」  そう聞くと相手が青くなっていった……、そういう事じゃないんだが。  「そうですよね…、誠意も無しに謝られても困りますよね。私の名前は赤羽将吾といいます」「後日謝りに行った方が……」  「ですから構いませんよ?ただ僕と付き合ってくれたら嬉しいです」  「はぁ…………? それはどういう意味ですか??」  ーーーーーーーーー最初の頃は本当に鈍感だった………………。    **********    酒もだんだん進み酔いも十分に回っていた頃、何故か昔話に花を咲かせた。「お酒を飲むとなんか昔一矢と出会った頃を思い出すよ~」「若かったよね~キミ。5年位前だっけ?」  「将吾さんも若かったですよね。おれは余り印象に残らないと思いますけど」  「え~~残るよ。23歳位だよね。本当に若かったよ。…………見えなかったけど」  「よく言われるんですよね、それ。年の割に若く見られないとか」  空っぽのグラスにワインを注ぎ直しながら最後のつまみ料理を食べ終えた。そして手を付けてなかったケーキを開ける事にした。  「紅茶かコーヒーの方が合うと思うんですが…………」  「え~~、そう言わずに食べてみようよ」  この人は酒が入ると幼くなるようだ、……別にケーキはいらないんだが。  「………………………………」  「…………」  終始無言になった。……ていうか甘い。これは本当に美味しいのか?  「ケーキは美味しいですよね」  「………………甘いね………」  一口ケーキを含んで将吾さんの口を塞いだ。  「ん、ふうっ、ふぁ…………」    酒で酔っているせいか、抵抗も少ないようだ。元から顔が赤いのが益々真っ赤になる。  「……ッ何するの、味全然分からないじゃないか」  「そうですか? 甘いと思うんですけど」「もう一口食べます? 今度は酒と一緒にどうですか」  「もしかして怒ってるのかい。……顔が近いんだけど」  ふむ、何故そうなるのか分からないがそれは違う。やっぱり鈍感なのは変わらないようだ。…………続きは寝室でしたい。  「このケーキが甘いのか……スパーリングワインが甘いのか分からないね」  「多分両方だと思います」  「もっと食べます?」続きは寝室になりますけど。何かを確信したかのように気づかれたようだ。ガックリと項垂れた姿がまた良い。

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