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第1話
屋上に、上がる。
温かな黄蘗色の空間が、僕を待っていた。
光の中の彼は、悔しい事に男の僕からみてもかっこいい。
目と、目が合う。
形のいい唇が開き、言葉を紡ぐ。
「いらっしゃい、マイエンジェル♡」
ああ、また始まってしまった。
諦めにも似た感情に浸る僕をよそに、彼の足元のイケメンも同じ言葉を重ねる。
やっぱり僕には、彼が愛する物を理解することは出来ないらしい。でも、たった一つの事だけは分かった。
僕の幼なじみは、今日も絶好調です。
幼なじみこと、藍川輝はまごうことなきイケメンだ。艶やかな黒髪に、すっと通った鼻、目はキリッとしていて、今流行りの俳優に似ているとクラスの女子が騒いでいた。
しかし、彼はとんでもない爆弾を持っていたのだ。その爆弾は入学から1週間で大爆発。女子はどん引き、男子は身の危険を感じ、彼から離れていった。爆弾は彼らと彼の間にマリアナ海溝クラスの溝を作り上げてしまったのだ。
その大爆弾の名前は、『乙女ゲーム愛好家』。
彼は乙女の為のゲームをこよなく愛していたのだ。キャラクターへの愛と、イベント達成への執着心から耐えきれず教室で乙女ゲームをおっぱじめるぐらいには。
さらに、彼にはそのキャラがセリフをどんな気持ちで伝えてようとしているのか理解する為に台詞を復唱しながらプレイする癖があった。
静かな教室に、ゲーム機から流れるイケメンボイスとイケメンの興奮した声だけが響いていたのを覚えている。
美しいバラには棘があるというが、棘、大きすぎである。
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