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第2話

今までこれ程までに50分という時間を長くそれでいてあっという間だと感じた事はあっただろうか。 隣の存在を意識するだけで心臓がばくばくと音を立て、二階堂に聞こえていないか不安になった。授業の内容はいつも以上に頭に入って来ず、この50分間で学んだ事と言えば、二階堂からワックスと香水の混じった男らしいいい匂いがするということだけだった。 ようやく待ちくたびれたチャイムの音が鳴り、ほっと一息をついたがこれがあと4コマ分続くのかと思うと気が遠くなりそうだった。 ましてやこれから1ヶ月毎日これが続くと考えると、早急に慣れなければ心拍数の上昇のしすぎで俺の命が危ない。 なんて有らぬ所に考えがトリップしていると左肩をぽん、と軽く叩かれた。振り返ると綺麗な顔のドアップが此方を見て軽く微笑んでいた。 「見してくれてサンキュ。」 「ああ、全然。」 「次の授業なんだっけ。」 次は確か化学で教室移動だった気がする。となるといつもの二人を探さなければ。 「化学だから多分教室移動。」 「そっか、一緒に行ってもいい?」 急なお誘いにどきっとしたが、平常心を保つよう自分に言い聞かせる。二階堂は転校初日でたまたま隣の席だった俺に教室の場所を教えてもらおうとしてるだけなのだから。 「あ、うん。俺の友達も一緒だけど。」 二人は何処にいるのかと辺りを見回すと既に俺の後ろに控えていた。この二人は去年からクラスも一緒で学校にいる間はずっと連んでいる。 一人は同じ写真部で眼鏡に短髪の畑中隆宏(はたなかたかひろ)。もう一人は隆宏の中学からの同級生で帰宅部の濱翔平(はましょうへい)。 「こっちの背高いのが畑中で、こっちのちっこいのが濱。」 「おいっ、誰がちっこいって!」 濱がいつもの様に条件反射で言い返すのにつられ、先程までの緊張が少し和らいだ気がした。濱は反応が面白いからついいじりたくなってしまう。そしてそれを宥めるのはいつも畑中の役目だ。 「落ち着け翔平。二階堂、よろしくな。」 「よろしく。」 「俺もよろしく二階堂!ってか二階堂ってやっぱハーフ?」 「ああ、一応アメリカとの。」 やはり先程の予測は当たっていたようだ。あの色素の薄い灰色の瞳と横から少し眺めていて見えた高い鼻を見れば納得ではあるが。 「すげーかっけー!やっぱイケメンだもんなー優太もそう思うだろ?」 「は?俺?そりゃまあ…」 っていうか誰が見てもイケメンと思うっしょ普通、という言葉は呑み込んでおいた。 「やばい、そろそろ行かないと遅れる。」 時計を確認した畑中に急かされ、俺たちは教室を後にした。 俺より前に居た二階堂が此方を振り返って微笑んだ理由を考えると、せっかく収まった心拍数がまた上がりそうだったのでやめておいた。

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