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第4話

二階堂が転校して来てから二週間。 二年にイケメンの転校生が来たという噂は瞬く間に広がり、今では他のクラスや学年から二階堂を一目見ようと思いウチのクラスにやってくる女子もいる程だ。俺がゲイだと全校にバレた時も殆どの生徒が気にしなかったからか、二階堂がバイだという事実も大方肯定的に受け取られている。 俺はというと、二階堂の本気なのかどうか分からない気を惹くような態度に惑わされている。ふと二階堂の方を見ると此方を見てにこりと笑って来たり、浅倉の髪ふわふわで可愛いなと言って頭を撫でて来たり、俺が毎日飲んでいるカフェオレを覚えていたのか俺の分まで買ってきてくれたりと、俺は毎日二階堂のそういった一挙一動に振り回されっぱなしである。 二週間も経てば流石に慣れてきて二階堂の顔を見ても心拍数が上がる様な事は減ったが、今度は二階堂の振る舞いに一喜一憂する日々だ。 二階堂は人当たりも良いためきっと誰にでも同じ様に接しているだろう。だから一々こうやって考える意味もないというのは分かっているのだけれど、それでも考えずにはいられず、毎日二階堂の事を知れば知る程どんどん自分が惹かれていっているのを感じた。 *** 「そういえば次の部会今週の土曜に決まったんだけど二階堂行けそう?」 「あー今確認する。ん、大丈夫っぽい」 スマホでどうやら予定を確認したらしい二階堂がそう答えた。 「今回は浅草らしい。ってか二階堂って浅草知ってんの?」 「聞いたことはある程度」 「東京なんだけど寺とか神社とか結構あってさー、食べ物も和食とか色々あるから楽しめると思う。」 部の皆も居る上にあくまで写真を撮りに行くのがメインとはいえ、二階堂と浅草を回れるのかと思うと今からワクワクしてきた。 「へーいいな楽しそう。そういや浅倉今週時間ある?部会行く前に一回カメラの事教えてもらえるとありがたい」 「丁度今日なんか撮りに行こうと思ってたとこだけど、二階堂も来る?カメラは俺の貸すし」 「行く行く。場所は?」 「んー学校の前の通りが紅葉が満開でいい感じだからそこかなー。」 「了解。」 これはデートではない上にただ学校の前の通りに行くだけだと分かっているのに、初めて二人で何処かに出かけるというだけで嬉しくなった自分がなんだか恋する乙女みたいで気持ち悪いな、と苦笑した。 *** 二階堂がトイレに行っている間教室で待っていると、案の定まだ教室に残っているのが俺とバスケ部の奴等のみになってしまって、早く二階堂来てくれと心の中で懇願する。二階堂の前では大人しいこいつ等も、俺だけで居る時には絡んでくる事があった。あまりにも振る舞い方が三下すぎて逆にお前等はそれでいいのか、とこんな状況下に似つかわしくもないことを考えてしまう。 俺の願いも虚しく、いつものように奴等は俺に絡む事を決めたらしく此方に近づいてきた。もうここまで来るとお前等俺のこと大好きなんじゃね?なんて皮肉めいたことを思う。 「二階堂のこと待ってんの?」 「もしかしてデキちゃった?」 「うわっこの学校初のホモカップルじゃね?」 こういう奴等は相手にしないのが一番だ、と今日も無視を決め込む。 「ほら、昭もなんか言ってやれよ。」 それでも、昭の名前に条件反射で奴等のほうを向いてしまった。 「………キモいんだよ、ホモ」 いつものように罵倒を浴びせられる。慣れはしたがいつまで経っても怒りと失望であい混ぜになった感情が収まることはない。 けれど、こうしてちゃんと昭の顔を見るのはまともに話さなくなってから初めてかもしれない。だから今迄は気づかなかった。 罵倒されているのは俺の方なのに、なんでお前がそんな苦しそうな顔してるんだよ。 「何してんの」 扉の方から声がし、教室に居た全員が一斉に目を向けるとそこには二階堂が立っていた。 「言いたいことあんなら俺にも言えば?」 「いや、別に俺等は…」 「なら黙ってろよ。」 綺麗な顔が怒ると迫力も凄いと何処かで聞いたことがあるが、本当だなと思った。怒りの矛先を向けられていない俺でも背筋が凍るのがわかった。 奴等も同じ事を思ったのか三下よろしく一目散に荷物を持って出て行った。 「ごめん今まで気付かなくて。あいつ等がまだ絡んで来てるなんて思わなかった。」 先程までの迫力はもう既に消えていて、此方を申し訳なさそうに見ながら二階堂が謝って来た。 「まあいっつも無視してるし俺もそんな気にしてねーから。」 一人を除いては、という言葉は胸にしまっておいた。先程見たあの顔がまだ頭から離れない。 「でも二階堂がきっぱり言ってくれてスッキリしたわ、サンキュ。」 半分は二階堂自身の名誉のためであるという事は分かっていても庇ってくれて嬉しかった。そしてまた確実に二階堂に惹かれていくのを感じた。

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