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prologue.

 冷たい風が頬を撫でた。  冬がもうすぐで訪れるのを知らせるかのようにほのかに、雪の匂いも混じっていた。早いもので、一年もあと一ヶ月と少しで終わりを迎える。 「あっという間だなぁ・・・・・・」  草木の葉が散ったどこか寂しい公園。そのベンチに腰掛けて、白い吐息混じりに誰へというわけでもなく発した言葉は風が攫ってどこかへ去って行く。  この時期はすごく寂しい思いになる。自然の彩りが少ないせいかもしれいないが。  ちらり、と公園に設置してある時計に目を遣ると時刻は既に15時を過ぎていた。だんだんと辺りが暗くなっていく。茜と鈍色と、遠くからやってくる群青色。 「バイト行かなきゃな」  冷たくなった尻の埃を払いのけ、近くにあったゴミ箱に先程まで飲んでいた缶コーヒーを捨てる。うん、とひとつ伸びをしてから最後にひとつ白い息を吐いてから、公園の出口へと向かう。 「――・・・・・・」  ちょうど公園を出ようとしたところでふと、誰かに呼ばれたような気がして足を止めた。  静かで、寒さもあるせいか誰もいない公園。風の吹く音と、時折聞こえる鳥の声。少し耳をすませてみれば遠くには車の音。  しかし確かに聞こえた気がする声は、聞き覚えのあるもの。冷たさと、鋭さと儚さと、自分だけが知っている優しさ。  ゆっくりと振り返る。嘘だとは思うが、賭けてみたかった。 「なんで・・・・・・っ」  厚い雲に覆われていたはずの空から、微かに残る太陽が顔を覗かせ眩く光が降り注ぐ。視線の先にある黒。  溢れる涙は熱くて、冷たくなった頬には強すぎた。涙で視界が歪んでも、確かにあるそれは間違いのないもの。  走り出して掴んだそれは酷く酷く冷たかった。

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