1 / 1
第1話「親友でいる為に」
「くっそぉぉおッ! 今日もだめだったぁぁああッ!」
寝癖だらけの頭が俺の腕に飛び込んできた。小柄な少年だ。中学生と見間違えてしまうほど、中性的な顔立ちをしている。
スマホゲームを一時中断して、俺は彼の頭を片手で掴んだ。そして、額に青筋を立てる。
「おい……イベント中は邪魔すんなっつただろ……」
「うるせーよ! 課金勢のくせに!」
「してねぇよ! 無課金が俺の誇りだ!」
「嘘つけ!」
大きな瞳が俺を見上げて、頬をつついてくる。その細い指先に、思わず視線を奪われた。
彼の名前は、新田桐雪 。高校三年生にしては小柄で、体の線も細く、色も白い。一見して見てみれば、女子と見間違えてしまうほど。
誰にでも優しくて、男女共に好かれる性格をしている――――所謂、人気者だ。
対して、俺、草原一弥 は第一印象はまず最悪だ。俺の目付きが悪いのが原因なのだろうが、直すには整形手術を受ける他に道はない。そして、『草原 の巨人』のあだ名がつけられた元凶が、二度は振り返られるこの無駄に高い身長だ。
溜め息を吐いて、桐雪を見下ろす。
どこからどう見ても、俺達はしっくりこない。
「……わかったよ。話聞いてやるから、つつくのやめろ」
「さっすが俺の親友!」
――――彼は知らない。
その純粋な声が。
その言葉が。
俺の心の隅まで、殺していることを。
「調子いいな、ほんと」
「あー! またそうやって馬鹿にする!」
「馬鹿になんかしてねぇよ」
馬鹿なのは、俺だ。いつまでもあの瞬間から抜け出せず、叶うことのない願いばかりを唱えている。
「で? 今度はどうした」
「それがさぁ、また彼女に断られちゃったんだ。デート」
彼女のいる親友を俺は中学生の時から想い続けている。高校生になっても、変わらず桐雪を見つめてしまう。
「へえ、また塾だって?」
「いんや、今日はバイトだってさ。俺、バイト先すら知らないんだけど……」
「いやいやお前……それは聞けよ。だめだろ」
「恥ずかしいからやだって言われたら、何も言えねーよ……」
「……はーあ……お前さぁ、それで彼女に何かあったらどうすんだよ」
彼女の肩を持つような発言なんてしたくない。桐雪を放っておくような女だ。どうせ、ろくでもない。塾の次はバイトを理由にして、彼を避け続け、あからさまに距離を置こうとしているのがわかる。だが、それでも俺がこうした発言をするのは、俺が――――醜い思考でいっぱいだから。
「だよな。心配だよ」
桐雪は顔を上げる。
「俺、ちょっと電話して紗菜に聞いてくる! ホームルームサボるから上手く先生に言っといて!」
「おうよ」
俺のたった一言で、こうして桐雪は歩みだす。その先にあるものが『幸せ』ではないと知りながら、俺は彼の背中を押すのだ。
――――紗菜という女は、きっと桐雪に本気ではない。他人の俺から見ても、彼等の気持ちには大きな差がある。いつか、このことに桐雪が気づいてボロボロになってしまう前に、俺が彼を手にしたいが、この願いはどうあっても叶わないのだ。
彼は、ボロボロになっても俺にはすがらない。
心の底から俺を求めることはないだろう。
だから、俺は――――彼が傷つくとわかっていながら、紗菜に彼を近づける。
「紗菜……早く、あいつを壊してくれよ」
親友とは程遠い願いだった。
ともだちにシェアしよう!