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虫の知らせは良い知らせ。

虫の知らせというものがある。 まぁ所謂、第六感のようなものだ。俺には少々それが人より鋭く備わっているいるらしく、2度にも渡る兵役でも、危ういところを何度もそれに救われた。 今回は所属する小隊と一緒に死ぬ運命なところを、虫の知らせによって、辛うじて命を繋いだのだったが。現在、別の意味で死にそうだ。つまり。部隊の消耗品たる歩兵の、訓練時における事故調査のターゲットにされているのである。 「つまり君たちは危険を無視し、危険種6等級に分類されるザッハの営巣を横断したと?それも発見報告の一報を先行する指揮隊にも入れずに?」 「・・・その、突然のことで間に合わずと言いますか・・・少佐の判断です」 忠告はしたけど。上官は先を急ぐあまり周りを巻き込み自滅したとしか言えない。しどろもどろに説明したら、超にらまれたので素早く視線を外す。怖ぇ。 そもそもはじめから、このミッションには暗雲が立ち込めていた。軽く自前の危機探知センサーが反応していたのがその証拠。仲の悪いことで有名な小隊長が3人揃い踏みの合同訓練。そんな悪夢通達があった時には、半泣きで思わず「なにそれ。死にに行けってことですか」ってマジで聞き返したくらいだ。俺の同室と友達連中なんかは爆笑していたが。巻き込まれない別小隊所属だから、そんな余裕をブチかましていられるのだと真剣に泣き付いたら、同情のハグで宥めてきた。 結果は推して知るべし。貴族の頭がおかしいのは、その部下である下っ端兵には常識。連中は階級が上にいくほどに振り幅を大きくするものだし。現に我が小隊長殿は絶好の機会、あの混乱の最中にも関わらず、険悪な関係にある指揮隊小隊長の背中を混乱の最中撃ち抜いたからね。よくやるよ。行動が初志一貫し過ぎて、ある意味すごく感心したけども。 邪魔者は消される日常ではあるが、もちろん、そんな派手には殺したりはできない。軍の調査官に睨まれれば出世に響くし、反対に断罪される。奴らもそこをわきまえてか、超小狡く日常茶飯事に事故を装うのだが、今回はウチの小隊長、何をトチ狂ったのか状況判断を見事に誤ったタイミングで一線を踏み越えたため、泥地横断トライアルは最悪の悪夢の惨劇の場となったのであった。 参加者18名中、全員がほぼ負傷者か死者。 当然のように消耗率の半端ない高さは中央の目を引いて、本日めでたくも飛行艇に乗った調査官が、早朝にもかかわらず登場とあいなったワケだ。 顔の左半分を覆う包帯にそろりと手をあて、軍特別調査官のひんやりとした声には無難に応じつつ乗り切れたと思う。もちろん怪我から復帰した上官から睨まれるようなことのないよう、余計なことは口にしていない。事実はみんなが証言すれば補強して支えてくれるだろうとの予想。 調査官は俺のケガの度合いも簡単に確認したのだが、なぜか不満気に鼻を鳴らす。彼が調査書に記載したいのは重体者がする上官批判なのかもしれない。俺では要件が満たせずことに気づいたのか、次の予定を消化するために、せかせかと診察室から出て行った。 そのやたらと真っすぐ伸びた背中を見送るのと交代で現れたのは医務局トップだ。軍医はあいさつもそこそこに鋼色の目を光らせ、衛生下士官による治療、仰々しくも顔の半分を覆っていた包帯に軽い舌打ちし、手早く剥ぐ。軍医らしからぬ鍛えられた肉体に白衣を纏い、その下の術衣は生々しくも点々と血しぶき。そこから目を剥がすことが出来ない俺に、物理的にもジンジン腹に響く甘い声で現状を確認するために話しかけて来た。 「ローグ・ラナン上等兵?遅くなって悪い。今結構立て込んでてね。ミミが大袈裟な治療をしたようでびっくりしただろ。彼女、判断力はあるが無駄に心配性なんだよ」 身内情報によると。この人、腕はいいのにみんなから担当医を外して欲しい軍医ナンバーワンの座を独占しているのだとか。俺はこれまで一度も医務室の厄介になったことがないから、その人となりは詳しくは知らないのだけれど、初見の軍医に首を傾げる。うむ・・・まともそう? 俺の中の要注意人物に分類していたのを取り下げてもいいか。 「左目はちょっと視力が落ちる可能性があるな。現状維持しつつ様子見で行こうか。また医務室には顔を出すように。ほかの傷も・・・ちょっとみよう」 熟練の手は傷を捏ねくり回し。当然俺は悲鳴をあげる。 「うぅッ、い・・・たぁッ」 「うん。骨は折れてないな・・・じゃあ、コレはどう?」 「!ひぃうっ・・・」 引き締まった顔が間違いもなく徐々にニヤけだし。心地良さげな顔に変わって、ドン引。 「きみさぁ、俺好みのイイ声してる」 白のTシャツは捲りあげられ、薄い腹筋を晒す。軽い怪我しかない全身も意味なく触診は続く。そういえば。軍医殿には密かに男色の気があるとの噂もあったっけ。我が身で体感することになるとは。 「こらこら、まだ寝てなさい」 俺は騙されん。 優しい声に惑わされずベッドから跳ね起きてズルズル壁側まで距離を取る。 「アドバイスを無視するのかい?悪い子だ。そんな子にはお仕置きが必要だね」 「えっと・・・冗談ですよね?俺、そっち方面でのターゲットになるような容姿してないですし」 今も目つきが悪いと評判の顔半分は腫れて青斑。お誘いを受けるレベルでは決してないのに、甘さ2割増となった声は大きな手を伸ばして俺の足首を掴んで引き戻す。こてんと天井を見上げ混乱に瞬きを繰り返すそこに、愉悦に嗤うオスの顔を発見。 「確かに容姿は普通だが。なんだろう?そそられる?」 青タンが生々しい肩にわざと齧り付き。白のTシャツの裾から忍んだ手には抵抗空しく、乳首を摘ままれギュッと引っ張られる。 「きゃぁッ」 自分にもそんな声が出るのかとびっくりな、か弱きオンナの子のような悲鳴が喉から飛び出したのを、もちろん間近にいる軍医が聞き逃すワケもなく。ニヤニヤ見下ろされ顔が熱くなる。 「こら暴れない。俺のモノだって乳ピアスしてやるから」 はぁはぁ言いながら取り出されたピアッサーと消毒液。誰だよ!まともそうとか勘違いしたのは!グスンッ・・・俺だよ俺!そうだよ、軍医も貴族だったと頭の奥に仕舞い込まれていた経歴がこんな時に発掘される。マジで遅い。まともなワケがないではないかと、ある意味その珍行動には納得するけどさ。 そして。俺にできるのは、俺の中で仲良く一緒に生活している虫が、ちっとも囁かなかったことに対しての八つ当たりだけ。こんな危機的状況になっても完全沈黙は続く。つまり、助けはない。 じゅるじゅる乳首に吸い付く美麗な男を遠ざけようと振り回した手は、どこからか取り出された結束バンドによって鮮やかに後ろで括られる。 「ホント、勘弁してくださいッ」 執拗に弄られたのは右だけ。赤く通常の倍以上に腫れあがったそれを情けなく見下ろしいると、次に狙われるたのは左。ちろちろ舌で弄られるツンと尖ったピンク。いつ噛みつかれるかとハラハラして見守るしかないのが、男としてなんとも情けない。誰にも許したことがない乳首への躾け。顔を上げた軍医に鼻をグスグスさせて懇願の視線を向け・・・たのは間違いだったね。 「大人を煽るのか?悪い子だ」 俺、終わった。ガチンッ。 このように。時に逃れられない相手に出くわすと、俺の虫は相手に対して腹を見せての全面降伏の屈服ポーズ、卑屈なほど従順になってしまう困ったちゃんに変わるのだ。 レックライン・シュウフロスタ軍医(雲の上の名家の上級貴族)から解放されるには、それから30分もかかった。乳首の貞淑さと常時不足中の輸血用血液500mlを捧げ、おまけとして自尊心を失う。 「ローグ、またおいで」 遠慮させていただきます。どんより濁った眼で晴れ晴れした顔を一瞥し、ふらふらと診察室を後にする。 医務室詰めの当直、衛生下士官や看護師たちの同情混じりの視線で、中でナニされていたことを知られていたことに気づき、すり減った自尊心が増々ガリガリ削られたのは言うまでもない。 ご機嫌な相手から渡された処方箋を手に好奇心溢れる薬剤師から痛み止めを貰い、精神と身体を極度の消耗から「顔が超病人みたいに真っ白だよ!」と心配された時には、ついほろりと涙がこぼれたものである。 入院させないので軍医は怪我人に対して冷たいって勘違いしたかもしれないが、ベッド数には限りがあるため、自力で動ける兵士には結構この扱いは普通なのだ。だから、なるべく人の少ない道を選んで兵士宿舎を目指しているわけなのだが。 はぁ、一応説明すると。軍医からは東塔の上級士官用のベッドを打診されました。つまり。夜のベッドのお相手としてのお誘い。卑猥にケツ揉みされながらそれに、今度こそ俺んちの虫は騒ぎ。俺はある意味すごく性質の悪い男から逃れるために、自分から進んで献血をし、お尻の穴の貞淑さを失う危機に怯えながら男の勃起してるアレをお口に入れておしゃぶりしたのだった。 「遅かったな」 「・・・色々あったんだよ。・・・色々ね」 「ふーん?それは俺が医務室に持って行った着替えと明らかにサイズの違う服を着ていることと関係があるのか?」 扉を開けてすぐに目に入るローソファから首だけ捻った状態で、同室のゴリマッチョ男のマリック・ラウが尋ねる。 鋭い。 ギクリと身体を揺らし、無意識に手が持ち上がる。 「ロぉーグちゃん?・・・胸がどうした?毎日揉んでやった成果でも出たか」 ホント鋭くて焦るが、おまえにはちっぱいを揉まれたことはない。ちなみに。異性が少ないせいで砦では下半身をすっきりさせるアイテムとして、顔がイイ同性がお手伝いするのが普通だ。一部(軍医とか)は独自のお気に入りに手を出すのでその法則はあて嵌らないのだけれど。 「あんたに揉まれたことなんかないでしょうが。俺がいなくて寂しくて幻覚でも見たか」 誤魔化しが効くことを祈りつつ握り込んだ手を口に当て、目を反らしながら部屋の奥へと入ったのだが。マリック・ラウの視線が離れてくれないので困る。 「ふーん?本当に揉まれたことがない、って言いきれるか?」 ふたり部屋だからといって個室があるわけではない。ワンルームにぎゅうぎゅうに押し込めらるように並んだベッドと収納クローゼット、それと巨人マリックが座っても壊れない頑丈な簡易ベットにも早変わりのローソファだけである。 俺はそのクローゼットからカーキー色の定番Tシャツを選び、背中の視線を気にしつつ、シュウフロスタ軍医の指先しか出ない大き過ぎる薄いブルーのシャツを脱ぐ。 「言い切れるよ。あなたにはお気に入りいるからね」 学校出たての右も左もわからないような、細っこい美少女のような男の子に手を出して、それからずっとその庇護下に置いているのは有名な話だ。 「目は大丈夫なのか?」 「たぶん?ダメなら退役できるから、それの方がいいかも、」 やたらと近いところから落ちてきた低い声に気づくのと同時に、身体を軽々と持ち上げられ、ソファーまで持ち運ばれる。 「マリック?」 その硬い膝に横向きで着地。片腕と首だけを通したシャツを急いでもう片方も通して整えるが・・・とにかく居たたまれないし、落ち着かない。ふんふん耳の裏をしつこく鼻息がたどるのもイヤだ。 「あの子が待ってるよ」 「うん。・・・なぁ、シュウフロスタ軍医になにかされたろ?」 「さ、される、ワケない、だろ」 「ほんとうだろうな?」 疑わしい気な視線。失礼な。・・・あたってるけどさ。 「傷の手当されただけ・・・それと献血した」 なぜかマリックは、あちゃって顔に片手を覆って、天井を仰ぐ。 「おばか!」 「な、なんで?輸血用の血液が不足してるって言われたら普通協力するだろ?」 「しねーよ」 きっぱり。否定。 「リクルートされるとき、軍曹に気をつけるように言われたろ、安易な輸血に応じるなって」 「言われてな、・・・たかも?」 訓練所に向かうバスの中、詳しい訓練日程の説明のあとで軽く言われたからなのか、記憶にうっすらとしか残っていないが、確かに言われたような気もする。 「基本、入隊希望者は王都より辺境出身者が多いから、あの忠告を本気で受け取るするヤツが少ないんだよなぁ。おまえもそうだろ?」 「う、うん?」 いや、俺の場合ははじめて乗るバスに酔って、意識が向かなかったってのもある。 「もう、献血するな。大丈夫だと思うが。・・・時期的に・・・は外しているから、本当に輸血用に使うだけ、か?」 やたらと、ぎゅうぎゅうされて後半は聞き逃すが、とにかくこれだけはわかった。献血するのはだめらしい。・・・でも、あの軍医を前にして断るなんて、できるのか俺? ぐるぐる迷いながら。戻るまで待っていてくれたのは知っているが、いまはひとりになりたいので、マリックの膝から降りようと腿横をぽんぽん。それに、庇護下にいる子がいるのに、俺がマリックの時間を独占するのもなにか違うような気もするので、それを言ってみる。 「・・・わかった。飯は運んでやるから今日は部屋から出ずに大人しくしてろ」 有無を言わさないグリーンの目に覗き込まれ、縦に首を振ると満足そうに頷く。おまえは俺の保護者か。またもや持ち上げられ、お運び。・・・うん。ちょっと保護者が入っているかも。 パタンと閉じた扉。かさついた唇に触れられた耳がやたらと熱く感じた。 乳首の痛みが徐々に鈍い痛みで落ち着きはじめた療養期の一週間後。俺は新しい小隊に配属された。 新婚ほやほやの第三王子がこんな東の辺境にも、新婚旅行を兼ねた視察を急きょ慣行されると決められたことが発端だが、ボロっちい基地は大騒動だ。掃除、掃除で迷惑だけど、軍医からのお召しを断るイイ理由になるから助かる。 もちろん基地内部のお仕事だけでなく、周囲の魔獣を刈り取るローテーションは3日の野営を含んでいて、結構大変だが愉しい。 今日は3日目で任務の最終日。 野営する地点の間際でゾクゾクする背中。虫の囁きに聞き入り、誰よりも早く銃を構えて、警告を発することで行動に余裕を持たせて部隊を助けたら、隊長から頭を撫でられた。 初対面の時には、みんな酷くよそよそしくて必要最低限のことしか会話がなかったのだけれど、現在はやたらと頭を撫でられる。仲間として認められたのだとしたら嬉しい。辞令をはじめに受けた時は貴族の上官が睨みを利かせる第二から、実力だけがモノを言う平民だけで纏められた第三歩兵への移動は、周りの足を引っ張るお荷物にならないかと不安が先立ったものである。 野営地に予定より順調に進み、日が落ちる前に余裕を持って到着。 もちろん自分たちに割り当てられたセクションの見回りは完了している。出発前にドローンを飛ばして確認された大型種10体や集団行動をとる手強い魔獣たちを掃討。砦基地の中ではエリート部隊と言われていた第二よりも鮮やかなお手並みだったと言っておく。 周囲を警戒するため歩哨担当者が抜け、残りが分担で簡易テントと食事の用意。食事と言っても栄養だけを効率よく吸収するためのレーション中心だが、それだけではショボいので別に持参している固形スープを取り出す。手慣れた様子で火起こしされ、組み合わせた石台に鉄鍋が乗せられる。行軍中に何気に簡易弓矢で持って仕留められた野鳥は血抜きの手間と一緒に、魔獣を呼び寄せる餌の役割を果たした。 「ローグ、ありがとう。きみの参加で俺たちの食事事情はすごく向上した。はじめはそこらの雑草を引っこ抜いて何するのかびっくりしたけど」 「ベラリアの球根はじゃがいもの代わりになるんだよね?見つけたからとってきたよ」 テントを張り終わってどこかに消えていたふたりが戻ってきて、お土産だと渡されたのを両手を上にお椀型にして素直に受け取ったら、飼い犬をかわいがるように、よしよしされた。・・・もう何も言うまい。 小隊は6人編成で頼りなるゼオン隊長とチームのまとめ役リーアン副隊長を中心に冷静な通信兵のコリーン、斥候歩兵で機銃手のケンドゥルとおしゃべりでお調子者の機銃手ネッドである。 ちなみに、俺をヨシヨシしに来たのは、ケンドゥルとネッドだ。こんなに褒められているが、俺がしたことは毎食にスープを作ったことと、朝は湯を沸かして全員に熱いインスタントコーヒーを振る舞っただけだ。侘しい食事を我慢していたみんなの胃袋には、それだけでも御馳走だったらしい。チョロ過ぎて第二のお貴族様たちとの差を痛感する。そんな流れで自然とスープ作成は俺が担当することになり、やたらと具たくさんとなったそれに、自分でも知らずについついスープ作りに熱が篭っていたらしいと気づくのだった。 夕食はベンマオ鳥とじゃがいも風の温スープとレーションで腹を満たしながら、小隊長から早朝には基地への帰還を目指し移動予定だと告げられるのに神妙な顔を作る。 お楽しみが終わるのは早いものだと思っている横では はじめの歩哨当番を誰にするかという話になっていた。 帰還の道中は本部から連絡してくる魔獣をせっせと狩ることになるので、これまで酷使したロングナイフの手入れもしたいこともあって、俺はさっと手をあげる。死体の腹から取り出される魔石は基地が買い上げてくれるので、マメに収穫する必要もあるため手持ちの刃物は全部研ぐつもりだ。 そしてここでも、みんなに健気ないい子だと頭を撫でられた。....小遣い稼ぎがしたいだけなのに。 歩哨とはいっても、テントを中心に魔獣探知の魔石を配置しているので焚火番である。前の隊ではひとり寝ができないと言う隊長のご指名で添い寝をさせられたり、頻繁にお尻を揉まれたので、貴族と平民の隊の常識の差をしみじみ考えさせられる。 ナイフを研ぎながら、細い火になれば時折枯れ木を投入。誰かのテントに連れ込まれお尻の心配をしなくてもいいのはありがたいと、しみじみ思う。眠気さえどうにかか出来れば概ね平和だ。行軍中にも関わらずはじめて安らぎを感じた。もちろん常に周りへの警戒はしているが。 ナイフを研ぎ終わり、時折、森の奥からの気配に腰をあげて確認しに出歩く。小型の獣ならその場で首を切り落として殺し、事前に堀った穴に内臓を捨ててから、さかさまに吊るして立ち去る。朝には血抜き処理されているだろうから、塩漬けでお持ち帰りする予定だ。これも小遣い稼ぎのひとつ。 そうやって淡々と時間を過ごし、ぼんやり警戒は怠らず焚火を眺めていると、・・・ぽんっと肩に重みが掛かって、ヒュンってなる。 「交代だ。俺の寝袋を使っていいぞ」 まったく気配がなかった。どきどきの心臓で声もなく見上げていると、小隊長が不思議そうに首を傾げ頭を撫でてくる。 「いやなのか?」 「い、いえ・・・使わせていただき、ます」 暗いテントに入って、みんな起こさないように静かに間を抜け、空いた寝袋に手を掛ける。身体を潜らせると自分以外の匂いに包まれ、ちょっと落ち着かない。でも・・・いやではないなぁとか思っているうちに、残された温もりに誘われあっと言う間に眠りに落ちていた。 基地に戻れば任務後の休暇を貰える。同室者のマリックも同じくらいに戻ってきたらしく、戻った時から俺にべたべたして離れないので、マリックの彼氏からは睨まれてしまった。 「恋人よりきみを優先しているみたいで、すごく気に喰わないよ。彼から離れて」 わざわざ呼び出されて言われた。女の子みたいな見た目で大人しそうに見えるのに、実は違ったらしい。俺は震えながら平謝りして、早々とマリックを彼の下に送り出す。 新婚ラブラブ王子様は3日後に満月を迎える微妙なこの時期に、東の首都のご領主館に到着した、らしい。わざわざ一般の、それも下っ端兵士に発表されることはないが、基地の貴族たちがパートナーを連れてごっそり抜けたので、この推察は真実だろうと思われる。 俺の田舎では満月の夜は人さらいに遭うと信じられているし、実際俺も信じているので、今日のように満月近夜にレセプションパーティーとかありえないのだが、貴族は頭がおかしいので、ある意味すごく納得した。 「なぁ・・・・今回は何人戻るかねぇ?・・・」 「乱交・・・、噂でしょ・・・」 「捧げても、・・・気に入るとは限らない・・・」 楽しいお昼ごはんをとるべく食堂に入ると、貴族が抜けたからか、いつもより人が少ない。ところどころで固まって情報交換しているのを横目に、俺はひとり離れた場所に腰を落ち着ける。誰とも話す気分ではなかったからだ。 貴族連中が出発したあたりから、人が減ったのと比例するように残された兵士たちは落ち着きがなくなったが、基地司令の一声で当直を除いた兵士たちには、本日王子様降臨記念として臨時休暇が与えられた。 俺の背中に朝から抱き着いて離れなかったマリックはかわいい恋人に引っ張られて、街でお泊りデートが決定らしい。(去り際にマリックに見えない背中側から見た目だけ清楚な恋人ちゃんの右手中指が一本立っていたが、・・・たぶん見間違いだ) 満月の日は気分的に落ち込む。いや、別に前日の夜に軍医に呼び出された挙句に、シンプルなフープリングに乳ピーが、豪華な特注ダイヤモンド乳ピーへとグレードアップしたからってのもある。 またもや千切れそうなほど引っ張られ、噛んだり舐めまわされたりと、じっくり躾けされたので、今日は少し服に触れるだけも飛び上がるほど痛い。愉しい食事が味気なくなるくらいのダメージだ。 乳ピーのない無事な右もぷっくり2倍に腫れてヤツの歯型で囲まれている。右もつけたいのだという変態の手から逃れるために、俺の保護者で同室者のマリックからきつくダメだと言われた献血に応じる羽目になったのだが。 「甥にいい土産ができたよ」との謎発言で、ご満悦なシュウフロスタ軍医に俺の虫が騒いだのは言うまでもない。 『上位貴族の間では、血というのは特別な意味を持つ。まぁ、あれだ。わかりやすく言うと魔法使いのなかにある魔力の源だな』 身体が熱い。 『魔力の底上げに魔法使いの間で時にお気に入りとなった魔力持ちが血を捧げるのが習わしらしい』 ゾロリを首をなぞったそれが、コツンと歯にあたった胸の飾りを噛み、気に入らないとでも言うように何度も捻っては引っ張る。 『我々には彼らのような魔力はないから、彼らの嗜好からすると美味しくない。それでも、万が一のことがあるので、血の扱いには注意しろ』 上半身を後ろから抱えられ、きつく襟足を噛まれて足の指先が丸まる。涙で滲んだ視界に見知らぬ美丈夫が映り込んで震える唇を舐められる。 『血を渡す意味をその存在に隷属することと思え。一度でも捧げれば逃げることは出来ん。時に逃げることが出来ようとも、夜空が月で満ちることで最大に増幅される魔法使いの力には、距離など一瞬で意味がなくなる』 強引に膝を割る手を退けようと手で押し戻しても、周りからの密やかな忍び笑いが上がると同時に、いくつもの手でもとの恥ずべき姿にさせられる。 ぐちぐち身体の内側を広げる手に許しを求め、はしたなくも上に反って震えるあれを、口に含んで舐められれば、涙を零しながらも腰を揺すってしまう。 「お強請り上手ですね。叔父上、私も彼が気に入りました」 「いいだろ。コレ俺のだから」 上から強引に吸い付く唇が粘り勝ちし、酸欠に少し開いた隙間から侵入した。それだけで前を濡らすほど濃い力は甘く暴れまわる。 離れていく赤い舌が名残惜しくて、みっともないほどに大きく口を開き、見せつけるように溜まった唾液を喉を開いてごっくんする。 「・・・かわいいです」 「ビアンヌが妬くぞ」 「彼女はいま妊娠中なので、私にお相手が出来ることには寛大なのですよ」 身体の中を広げていた指は引き抜かれ、代わりに太い塊が押し入ろうとヌプヌプ前後して、あまりの大きさに息が出来ず、ぐっと近いた人間離れした美しい人のシャツを掴んでたどたどしく無理だと言い募る。宥めるようにむき出しの肩にそっと唇が触れ、それが心地の良い場所を探っていて、一瞬力が抜けるのを見逃す、灼熱で奥深くまで満たした。王族の底なし沼のような魔力に頭の中がぐらんぐらん揺れて自分の核が塗り替えられるのを幻視する。 「ふはは、新婚のくせに嫁の意見を曲解しすぎだ。誰に似たんだ?悪いやつだな」 「こんなイイ子を目の前にぶら下げる、貴方のほうが性質が悪いと思いますが」 どろどろした濃い魔力は腹の中にとどまり続け、苦しさに喘ぎボロ泣きすると、唇の上に覚えのある乾いたそれが重なってきた。 「では結婚祝いだ、俺の贄を愉しんでくれ」

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