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第870話
俺はそのままフニャけた顔のままで、暫くボーっとリビングのドアを見つめてた。
さっきの光景を何度も頭の中で思い出してた。
いつものミキと違う行動に、何度も確認してしまう。
‘行って来ます’と言って……キスしてくれたよな⁉︎
いつも通りリビングのドアの前で振り返って
‘行って来ます。戸締まりお願いしますね‘と言われると思ってただけに………不意打ちと恥ずかしがり屋なミキらしからぬ行動で、一瞬頭の中が真っ白になった程だ。
たぶん……キスされた時には、ポカンッとし間抜けな顔をしてたのかも知れない。
そんな顔を見られたかも……そう思うと、少し恥ずかしいが……たぶん見られては居ないと思うが取り敢えず……落ち着こう。
未だに、頬が緩む顔でコーヒーを飲み落ち着こうとしたが、口元がニヤけて上手くコーヒーが飲めない。
それ程、俺にとって衝撃的で嬉しい事だった。
ゴクンッ!
やっとコーヒーを飲み、少し時間が経つと ‘あの恥ずかしがり屋のミキが…‘ そう思うと、心の底から嬉しさがどんどん溢れてきた。
マジ‼︎ 嬉しい♪
どんな心境の変化なのか?いや、そんなのはどうでも良い!
昨日から……名前呼びから、ミキ自身が変わろうとしてくれてる事が嬉しかった。
どちらかと言うと従順で受身のミキで、俺はそんなミキも好きだが、今日みたいにほんの少し積極的なミキも凄く良い‼︎
沙織の言葉が、余程ミキの心に響いたんだろうな
俺がそうできなかった事は残念だが ‘他人に言われて、初めて解る事もある’と祐一も言ってたしな
朝からミキの事ばかり考えてたら、仕事に行く準備をする時間になった。
「そろそろ用意するか」
洗面台で歯を磨き顔を洗い鏡を見た自分の顔は、まだニヤニヤ…と顔が緩みっぱなしだった。
だめだな。
今日一日、ニヤけてしまいそうだ。
朝から、あんな可愛い事されたら……嬉しいが、折に触れて思い出し顔が緩んでしまうな。
会社では、割と厳しく仕事が出来る男として通ってると自負してるが……俺の会社での威厳が……困ったもんだ。
そう思いつつ、ニヤニヤ…が止まらず顔が緩みっぱなしだ。
明日もしてくれるかな⁉︎
明日と言わず、ずっとしてくれねーかな。
朝から、幸せな気分で起きられるし、今日一日良い事がありそうな気がする。
それにしても…可愛かったな~。
‘おはようのキス’ も ‘行って来ますのキス’も、自分からしておいて俺の顔も見ずに恥ずかしさで、そそくさと逃げるように離れて行ってしまう姿も
……逆に “萌え“ なんだよなぁ~。
本人は、そんな計算なんか出来ないのは解ってるし、素なんだろうけどな。
たぶん、ミキの性格なら相当な勇気がいったと思う。
あ~、思い出したら可愛い過ぎてたまんねー。
‘明日もして欲しい’って言ったら、逆に、恥ずかしがってやらないかも知れねーし……しなかったら俺から ‘おはようのキス’と ‘行ってらっしゃいのキス’をすれば良いか!
そうだ! そうしよう!
そして、それが俺達の朝のルーティンにいずれなっていけば良い。
いや、絶対にそうしてみせる‼︎
我ながら良い案だと……鏡に映る緩みっぱなしの顔が笑顔になってた。
ミキのちょっとした行動で、こんなに幸せを感じるんだからな。
俺って……マジで、ミキに骨抜きだな。
ミキが居ない俺の生活は考えられないな。
そう考えるだけでゾッとする、いや狂うな!
……ネガティブな事は考えるな。
あり得もしない事を考えても仕方ない。
‘今の現状に満足しろ。地盤を固めろ’って、祐一に言われたしな。
焦る事は無い!
俺の生活にミキが居る!
それだけで充分幸せな事だ!
そして、そのミキが少しずつ自分からも変わろうとしてる。
これから長い人生を2人で居る為に努力し俺も出来る事から……そうだな、直ぐに不安になるミキの為に……言葉と行動で表していこう!
いつも安心出来る場所が俺の所だ!と帰って来る場所は俺の所だ!と……もう、不安にはさせない‼︎
いつも ‘ありがと’と感謝の言葉と‘愛してる’と愛の言葉を送ろう。
先ずは、そこから初めよう。
あとは……寝る前に ‘おやすみのキス’は殆ど毎日してるしな~。
ミキが先に寝てしまっても、こっそり頭のてっぺんにキスをして寝るのが、俺のルーティンでもある。
そうしてミキを抱きしめて寝ないと1日が終わった気がしない!
ま、色々とあるだろうが、小さい事から少しずつ俺に出来る事をやって変わっていこう!
‘ミキと出会って変わったな’と驚きながら祐一と龍臣に以前言われた事があった。
俺を変えられるのは……ミキだけだ‼︎
ミキの為に、今もまた自分の出来る事から変わろうとしてる。
愛する人の為にそう考える自分は……好きだな。
良し!
緩んでる顔を鏡で見て両頬を軽く両手で叩く。
パチンッ‼︎
気合いを入れた。
良し! 今日も頑張るか‼︎
少し引き締まった顔で、寝室に行きクローゼットからYシャツとスーツを取り出し、ネクタイを適当に取ろうとした時に、以前にミキからプレゼントされたネクタイが見え、それを迷わず手に取った。
Yシャツにミキからプレゼントされたネクタイを身に付けスーツを着て、そして去年のクリスマスにミキからプレゼントされたコートとビジネスバックを持ち寝室を出た。
戸締まりを指差し確認してリビングを出て玄関に向かい革靴を履き、もう一度気合いを入れ俺達の愛の巣を出た。
今日一日良い事がありそうだ! そう思いながら、いつもと変わらぬ日常だが……ほんの少しいつもと違う日常……同じ毎日って無いんだな。
そう思うと……ミキの些細な変化を見逃さないようにしようと思った。
変わろうと努力してるミキだが、性格は早々変わらないだろう。
何かあると1人で抱え悩んでしまう。
家族を失って、ずっとそうやってきたからな。
でも、これからは俺が家族だ‼︎
時には、ミキの父にでも兄でも何でもなってやる!
ま、夫夫だから……夫と言う立場が1番良いが。
ミキが話し易い環境を作るのも、今後は俺の役目だな。
これからはミキが話して来るまで待つ事はせず
嫌な事や面倒事でも何かあれば、俺から聞こう!
ミキが ‘大丈夫だから’と言っても ‘俺達、家族だろ?悩みがあるなら2人で考えていくのが夫夫だろ?’と、家族と夫夫を強調すればミキの性格では話さずに居られない筈だ。
そして俺の方からも普段からミキに些細な事でも相談したり話す事で、ミキも何かあったとしても話し易くなるだろうし。
そうしてこれから長い人生を2人で歩んでいこう‼︎
俺には明るい未来しか見えない‼︎
駅までの道をそんな事を考えて歩いてた。
電車に乗ったら会社モードに切り替え、会社と言う戦場に向かった。
いつもと変わらぬ混んでる電車内、車窓から流れる風景。
変わらぬ日常たが、今日の俺の気持ちはいつもと違い幸せな気分だった。
ミキのお陰だな。
そして仕事で疲れた俺に待ってたのは…ちょっとしたサプライズだった。
いつも通りリビングに入ると良い匂いが部屋を充満してた。
ガチャッ!
「ただいま~、良い匂い」
キッチンに居たミキが料理の手を止め、ミキがわざわざ俺の側まで来て俺の目の前に立つ。
ん?何?
「お帰り~、お疲れ様!」
いつも通りの労いの言葉とふわりと俺の好きな笑顔をくれた。
あ~癒される‼︎
思わずミキをハグして抱きしめようとした時に、ミキの方が先に動いた。
少し背伸びをして、チュッ!と唇にキスし、直ぐにバタバタ……とキッチンに向かいコンロに火をかけた。
朝同様に、俺は暫くボーっと突っ立ってた。
キス⁉︎
……もしかして今度は ‘お帰りのキス’か⁉︎
キスした後に、逃げるようにバタバタ…と立ち去ったミキ………だから、その行動が “萌え“なんだっつーの‼︎
可愛い過ぎるだろうってーの!
「伊織~、ご飯出来るから着替えて来て~」
俺の顔を見ずにいつも通りに話すが、照れて恥ずかしがってるのが丸解りだって~‼︎
ミキがそうするなら、俺も何事も無かったように振る舞うしかねーな。
「ああ、腹減ったー。着替えて来る」
着替えに寝室に向かう間もニマニマ……と頬が緩みっぱなしだった。
朝もそうだったが……疲れて帰って来て、こんなプチサプライズがあるとは……疲れが一瞬でぶっ飛んだ!
あ~、幸せだ~‼︎
飯食ったら、絶対にイチャイチャしてやる‼︎
ミキが嫌って程甘やかしてやる‼︎
それも俺の楽しみだ‼︎
そんな事を画策し勝手に決め、ミキが待ってるリビングに向かった。
美味そうな料理が並んだテーブルを見て
「美味そう! ありがとな、ミキ」
感謝の気持ちを忘れずに
「そう言ってくれると嬉しい。さ、食べよう」
「ん、愛してる‼︎」
愛を常に囁く。
「俺も愛してます」
ふわりと俺が好きな笑顔と愛の言葉が返される。
幸せだ‼︎
ずっとずっと…この先も、こう言う2人で居たい‼︎
年を重ねて縁側で2人でほっこりしてるあの夢のように………それまでは2人でこれからの人生の困難や荒波を乗り越えていけば……遠い未来の夢だが、それもいずれ現実になり……その時には笑い話でもしてるだろう。
君と出会って俺の人生が色鮮やかになった。
そんな相手に出会えた事に感謝してる。
自分の強運にもな。
愛する幸せをくれて、ありがとう。
いつまでも愛してるよ‼︎
〜 fin 〜
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