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358日の徒花

おそ松が吐いた。 ある時期になると、必ずおそ松は体を壊す。 本人は血の気のない顔で、いつもの飄々とした笑みを無理矢理作りながら、「またかよ~」なんて軽く言って、トイレへ逆戻りするのだ。 本人以外は、その理由を知っていた。 幼い頃、松野家に強盗が入ったことがある。 気立てのいい青年の振りをした男だった。名前は東郷。無事に捕まり、殺人の罪も見つかったため、今は刑務所の中にいるはずだ。 おそ松には、その時の記憶がない。 事件が終わり、世間も事件を忘れた頃、そのことに家族全員が気づいた。しかし、それも仕方がないことだと、皆が思った。家族の中で唯一、東郷に脅迫され、仕事を手伝わされ、拉致されそうになったのが、おそ松だからだ。 東郷の事件は、おそ松に強烈なトラウマを残したのだ。 そうして、記憶がないにも関わらず、未だ傷の癒えていない長男は、律儀に毎年同じ時期に体を壊すようになった。 「ほんと、この時期はやっかいだなぁ。俺、なんか呪われてんのかねぇ」 冗談めかして本人は言っているが、冗談と言うには真実すぎる言葉に、カラ松は一瞬口許をひきつらせた。 「…フッ、呪いなんてこの俺様の魅力で、すぐに吹き飛ばしてやるぜ?ブラザー」 「あ、いいですー。もっと意味わかんない呪いが降ってきそうなんでー」 サングラスをきらりと光らせ、最高にセクシーで格好よくポーズを決めた(と勘違いしている)カラ松の言葉に被せて、抑揚のない声音でおそ松が言う。 「まぁ…けど。気持ちいいことしたら、別かもしんないけど?」 布団の中からノソリと起き、カラ松に向けて意味深な瞳をおそ松は送った。ろくに食事が取れなくなって3日目。やや力のない手が、胡座をかいて看病していたカラ松の太股にそっと触れる。 「もう皆出掛けたんだろ?……しようぜ…?」 ボサボサの髪で色のない顔なのに、少し潤んだ瞳に見つめられると次の行為を思い起こし、カラ松はごくりと喉を鳴らした。 「あぅっ!んっンン…っ」 おそ松の後孔に、カラ松のぺニスがゆっくりと入っていく。向かい合わせになって、少し腹が薄くなったおそ松の体を抱き締めるようにしながら腰を進める。 たっぷりのローションと丁寧な前戯に甘く緩んだ穴は、温かな肉でカラ松を迎え入れた。 「くっ…相変わらず、なんて気持ちいいんだ、おそ松…っ」 「は、っあ…あぁ…っ」 「大丈夫か?ブラザー。痛くはないか?」 カラ松の鍛え上げた背中に爪を立てながら、とろんと蕩けた表情でコクコクとおそ松が頷く。その愛らしさに、カラ松の顔はだらしなく垂れ下がり、汗をかいて真っ赤になっているおそ松の顔にチュッチュッとキスの嵐を降らせる。 「ん、…は、やく動け、よ…」 しばらく動かないカラ松に焦れたのか、ねだるようにおそ松が腰を揺らす。気持ちのいい感覚に気をやってしまいそうなのを我慢し、カラ松は首を降る。 「ン~?だぁめだ、おそ松。ちゃんと馴染んでからじゃないと」 「もう…っ、充分馴染んで、っだろ…」 「だめだ。俺はお前を傷つけたくない」 その言葉通りに、まるで割れ物を触るかのようにカラ松の指が、おそ松の頬を優しく撫でる。 ※※※※※※※※※※※※※ 体を合わせるようになったのは、おそ松が体を壊すようになって 5 年目の時だった。 その日、両親は町内会で当てた旅行に行っており、他の兄弟も部活や遊びで家を空けていた。たまたまカラ松ガールの予定が合わず、デートが出来ずに家に戻ってくると、おそ松の悲鳴が聞こえた。恐怖に怯えた、今まで一度も聞いたことのないおそ松の声だった。 慌てて部屋に上がると、おそ松が布団の中で丸まって震えていた。 そっと掛け布団を取ると、ガチガチと歯を鳴らして、涙を零し、真っ青になっているおそ松の顔がそこにはあった。 「どっ、どうしたブラザー!?どっか痛いのか?救急車を呼ぶか?!」 あまりの光景にカラ松も真っ青になり、あわあわと手足をばたつかせる。 その中で、視線の合わない長男が小さく呟いた。 「…しよう?」 意味が分からずに、問いかける。 「な、何をだ?」 「なにって、えっちに決まってんだろ?」 予想だにしない答えが返ってきて、目を丸くしカラ松の動きがピタリと止んだ。 冗談かと口を開きかけたところで、おそ松の瞳を見やり、口を閉じる。 目が座っていた。 本気だ。 「おそ…っン!?」 名前を呼ぼうとした瞬間に胸ぐらを掴まれ、押し倒された。そのまま、唇を塞がれる。 勢いのまま生暖かい舌が、カラ松の咥内に押し込まれ、危うくおそ松の舌を噛みそうだった。 性的な経験なんて、一人でスるくらいだったため、何もできずにカラ松は固まっていた。 その中で、おそ松は性急で、乱暴で、けれど、ーーやけに慣れた手つきで、カラ松を裸に剥いていった。 何の抵抗も出来ぬままでいると、あっと言う間に二人とも一糸纏わぬ姿になっていた。混乱する頭の中でも健康なカラ松の体は、おそ松の手の中で元気に主張していた。 「お、おそ…松…っ」 快楽と羞恥と混乱で震える声音で相手を呼ぶが、返事はない。その代わり、獣のように荒い息づかいが部屋の中に飛び交う。 ずくっと、今まで感じたことのない感触が、カラ松のぺニスを包んだ。 「!!?」 「んうっ…っ」 バッと上半身を上げると、おそ松の後孔にぺニスの先端が消えているのが見えた。 「なっなななっ!!!」 ゆっくりとぺニスが根本まで飲み込まれていく。快楽よりも痛みさえ感じる狭さに、カラ松は眉間にシワを寄せて呻いた。しかし、自分でさえ痛みを感じるのだから、おそ松はもっと痛いのではないかと相手を見やる。 やはり、おそ松も眉間にシワを寄せて、痛そうに顔を歪めていた。 「なぁ、おそ松、痛いんじゃないのか?」 「っく、ぅ…痛、くない」 心配するカラ松を尻目に、まだ馴染んでもいない内におそ松は腰を振りだした。狭すぎたそこが、少しずつ緩んでくると快楽の方が勝り、カラ松はすぐにおそ松の中に射精した。しかし、おそ松は止まることなく腰を振り続ける。白濁で滑りがよくなった中はとても心地よくて、すぐにカラ松は元気になった。 そうして、カラ松も快楽に流され出すと、我慢できずにおそ松を組強いて余裕なく腰を打ち付け始めた。 「っ、おそ松っ、おそ松っっ」 「くっ!っん、ンうぅっ」 カラ松は新しい快楽に声をあげているのに、おそ松の声は苦痛を伴ったままだった。おそ松の中心も力のないまま、ぶら下がって、ただ上下に揺すられていた。 襲ってきたのは相手なのに、まるで自分が無理矢理犯しているようだ。どうしてこんな行為をしているのか、カラ松には分からなかったが、今更止められない。 せめてどうにかおそ松が気持ちよくならないかと、がむしゃらに腰を動かす。 不意に、カラ松の切っ先が一部を突くと、ビクンッとおそ松の体が反った。 「ひぁっ!!」 その声に煽られて、甘い声が上がった箇所を更に激しくカラ松は突く。 「あっあぁっ!ひぁ…っんん!」 「ここか?ここがいいのか?おそ松っっ!!」 ようやく気持ち良さそうな反応を示したおそ松に嬉しくなり、何度も何度もソコを抉った。 苦痛に歪んだ顔は徐々に緩み、真っ赤に染まって蕩けた表情で、快楽に泣いていた。 おそ松の中心もカラ松の腹に当たる程反り返り、擦れる度にダラダラと先走りを溢した。 「んぁっあっあっイ、くっ!イっちゃ…っ」 「ハッ、俺も、出そうだ…っ一緒に飛ぼう、おそ松…っ」 中がヒクヒクと痙攣し出し、締め付けが強くなり出すと切羽詰まったおそ松が、カラ松にしがみついてきた。おそ松のぺニスを握ってやり、上下に擦りながら腰を大きく動かす。 「やっあ、ぁああーーっ!!」 次の瞬間、嬌声が上がった。 きつい締め付けに中で絶頂を迎え、快楽で頭が真っ白になったと同時に、次のおそ松の言葉に全身が冷えた。 「あ、あっ…っおじ、さん…っ」 やけにクリアに、その言葉は耳に届いた。 行為が終わった後、おそ松にそれとなく聞いてみたが、自分が呟いたことを全く覚えていなかった。「俺、なんか言った?」とあっけらかんと言っていた。 あの男への恐怖で体調を壊し、あの男への恐怖で混乱し、気持ちよくもないセックスを求め、あの男を呼びながら果てた。 嫌な想像が頭を過る。 ーーーおそ松は、東郷にレイプされていたかもしれない。 幼い頃、体にそんな傷はなかったはずだが、仕事を手伝わされていた間のことを、おそ松は詳しく話したがらなかった。 だから、その間にあったことを誰も詳しくは知らない。 東郷とおそ松だけの秘密なのだ。強要された秘密だ。 一度肌を合わせたせいか、体調が悪い時期の次の年もその次の年も、カラ松が一人になる時を狙って、おそ松は体の関係を望んだ。 カラ松もあの快感が忘れられなかったこともあったが、それよりもヘラヘラ笑いつつ小さく震えているおそ松が放っとけなかった。 この行為でおそ松が救われると思わなかったが、自分に出来るのはこのくらいだとも思った。 その内、庇護欲は愛情の真似事をし出し、家族愛以上におそ松を愛し、東郷を憎むようになった。 東郷との記憶を体からも消すように、丁寧にキスをし、細心の注意を払って愛撫し、体を繋げるようにした。 ーー自分とのセックスでは、おそ松が安心をし、気持ちよくなるために。 ※※※※※※※※※※※※※※ 「マイハニー、大丈夫か?」 「ハニーじゃねぇし…ん。ねみぃ」 家族が帰ってくる前に体を清め、おそ松は布団に潜り込んだ。少し痩せた体には一度のセックスで充分疲弊したようで、うつらうつらと目が泳いでいる。 「あとは全部やっておくから、寝て良いぞ?」 「ん~…」 生返事をしたまま、おそ松は寝てしまった。 熟睡する相手の顔を見やり、乾かしてやった前髪を軽く撫でる。気持ち良さそうに表情を緩ませるおそ松に、カラ松も自然と笑みを浮かべていた。 5年前のあの日から、随分と無防備な顔を自分の前で晒すようになった。 自分の行い続けた甘い行為が、功を成したのだとカラ松は思った。 このまま続けていけば、いつか東郷に植え付けられた恐怖は消えるのではないか。 そして、いつかおそ松の中の東郷に勝てるのではないか。 (でも…) 不意に、カラ松から表情がなくなった。 あと4日程すれば、おそ松は元気になる。 大体、いつも1週間程で体調が戻るのだ。 そしたら、今まで通り。 6つ子の1人として、松野家の1人として、おそ松と関わらなければならない。 体調を崩した間の行為について記憶があるようだが、おそ松は一切触れてこない。 何もなかったようにしてしまうのだ。 つまり、365日中たった7日間だけ。 しかも、あの男からのトラウマのみが、カラ松とおそ松を繋いでいる。 おそ松があの男に怯える度に、自分は愛しい人間を抱くことができる。 はやくあの男のトラウマからおそ松が解放されればいいとカラ松は願う。 それと同時に、もっと長くあの男のトラウマに苦しめばいいとも思った。 end

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