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今は、

肉と肉がぶつかる音。 くちゅくちゅとイヤラシイ音が耳に堪え難い。きっと素面の時だったら、目をつぶり耳を塞いでいるだろう。 けれど、今の僕には官能を増大させるスパイスだ。 「…ん…」 掴んでいる彼の首を軽く自分の方へ寄せ、唇を突き出し、酸素を求める溺れた人の様に口づけを求める。それに気付き、彼はクスリと掠れた甘ったるい笑みを漏らし、余裕有りげに口の端を上げそれを与えてくれる。 チュッと幼い子供の様なキスに僕は不満そうに彼を見つめ、自分から口を開き、舌を突き出し、彼のいやに整った形の良い口をペロリと舐めた。 一瞬、彼の瞳が波色に揺れ、僕を抱く大きな手が強張った気がした。 それでも僕がぺロペロとまるで子猫の様に彼の唇を舐めていると、彼は求めていた以上の獣が獲物に噛み付く様な激しい口づけを与えてくれた。縦横無尽に生暖かいモノが咥内を掻き回すと、体の方では足の先から頭のテッペンまで快楽と言う蛇がのたうちまわる。 足や手が痺れるような甘い熱いキスだ。 隙間なく埋まったそこから酸素を取り入れたくなって、少し顔をずらすとそれを許さないように彼が追い掛けてくる。 隙間が空けばそこに噛り付き僕の唾液を飲み込み、酸素までも奪う様だ。 だが流石に苦しくなって頭が快楽以外でクラクラすると彼の背中と綺麗に引き締まった脇腹を叩いたり蹴ったりして意思を伝えようとしたのだが、余計に舌は動きを速め上顎、下顎、歯肉、舌の裏をはいずり回る。このままじゃ…と身の危険を感じ思いっきり彼の腕を抓ると「イタ」と呻き、離した隙に僕は彼からベッドの淵に離れハァハァとまるで全力疾走したみたいに息をした。 悪態をついてやろうと彼に視線を向けようとしたらいきなり足を引っ張られ、まさに狩られた動物みたいに引き寄せられると彼は僕の首筋に噛み付いた。 結構痛かったからきっと痕がクッキリ浮かんでいるだろう。 そのままそこを愛おしそうにねっとりと丁寧になめ回していると、不意に彼の下半身が密着したかと思うといきなり彼自身が僕を貫いた。 「ひぃっ」 悲鳴じみた声と抵抗はすぐに彼に奪われた。そして口づけを離すとゆらゆらと律動が始まる。 「ん…ふ…」 鼻から漏れる女性のソレになんら変わりない声は彼だけでなく僕自身も追い詰める。 「んぁっー」 彼の切っ先が、中の膨らみを引っ掻き高らかに僕は啼く。 頭の中が真っ白に彩られていく。 「ぁ…ぁ……んぅ…」 「…っ……」 何も考えられなくなる。 自分の喘ぐ声。 彼の息を飲む音。 激しく打つ音。 結合部の泡立つ音。 ベッドの軋む音。 内部(ナカ)にいる彼の感覚。汗ばんだ彼の背中。 汗ばんだシーツを握る自分の手。 今はただ…… ただ 目の前の感覚だけが現実で… 「やっぁ…も…う…っ」 限界が近付いて、過ぎた快楽から生理的な涙を流しながら、虚ろな瞳で彼に訴える。 彼は汗の為、前髪やサイドの髪を額や頬にくっつけているくせに、涙や唾液、汗でぐしゃぐしゃの僕とは逆に今だ清潔感さえ感じる顔で、フッと口の端を上げ、訴えを受け入れた。 より激しく、ウィークポイントを何度も擦り、僕を追い立てる。 「…っは…ぁ…ぃや…っだぁ……ぁ…ぅ…ん…」 とめどなく涙を流し、既に、肺に息を送り喘ぐ事しか出来ない。 言葉は殆ど紡げない。 思考は奪われている。 けれど 「よ…んでっ……はっんん…っ」 「……」 「僕の…ぉ……ぁ…なまぁ…はぁ…え…っ」 「………愛してる…」 違う。 違う。 名前を。 僕の名前を言って。 『僕』を見て。 「ぁ…ぁ…っやぁーーっ」 最後まで、彼は言わなかった。 そうだよね。 言ってしまったら、貴方は気付いてしまうから。 『僕』は貴方の愛する『彼』とは違うって。 どんなに容貌(かたち)が一緒でも、遺伝子が同じでも… 『僕等』は違う二つの個体。 僕が『彼』とは違う一面を少しでも見せれば、貴方は戸惑う。 自分の腕の中に居るものに気付いてしまうから。 だから、いつも貴方はきつく、激しく僕を無茶苦茶に抱こうとする。 僕が『彼』とは違う一面を見せないように。 見させないように――。 目を覚ませば、彼はいなかった。 汗やら涙やら精液などで濡れ、汚れ、ぐしゃぐしゃになったはずの僕は、いつもの様に綺麗に清められ、青いパジャマを着て、シーツが換えられたベッドの上で眠っていた。 ぼんやりと時計を見る。 まだ深夜だった。 それでも、ネオンや電灯よって外は明るい。薄いカーテンから光が漏れる。 ばんやりと 時計は形を崩す。 良いと… 思っていたのに………。 思っていたいのに。 今は もう… 街の喧騒が煩い……。 ●END●

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