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きっかけ→sideY

「ナズと別れた」 東流がそう切り出したのは、3月の終わり、街での喧嘩のあと少し痛めた腕を缶ジュースで冷やしていたときだった。 そんなに打ちひしがれた様子でもなく、諦めているでもなく事実を俺に伝えたといった様子である。 東流のカノジョの金森波砂は、俺の叔母にあたる人で性別以外は俺にそっくりな容姿をしている。 たまに双子かときかれるが、叔母さんだということを言うと波砂に怒られるので、親戚ということにしている。 嘘ではないしな。 「急にどうしたんだ」 もうかれこれ3年は付き合っていたのに。 まさか……。 「トール、別に好きな人ができた?」 波砂も東流が好きでしょうがない様子だった。別れるならそれくらいしか思いつかない。 俺にそっくりな波砂だから、ギリでなんとか許容できた。 叔母だし、波砂と結婚したら、東流とは親戚になれるし、繋がりも深くなるとは考えていた、でも、それ以外だったら……。 俺はずっと東流のことが好きで仕方がないのだ。どんな手を使っても手にいれたいと思うほどに。 「……いや。俺ァまだ、ナズが好きだけどよ……。フラれた」 「なんで?」 本当に心から波砂のこころが分からなかった。 「喧嘩やめろって……。もう、ヤスも小さくねーんだから、始終一緒にいねえでも自分の身くらい守れるからって。」 多分、波砂には俺の気持ちは見抜かれている。だからと言って彼氏を譲らないという宣言のつもりだったのか。 「……で?」 「喧嘩が好きってわけでもねえけどよ、今更、喧嘩やめましたから、襲わないでくださいとかムリだろ?オマエ独りのときに大勢に狙われたらやべえし」 トールはごくごくとコーラを飲みながら、ふっと笑い口元を緩める。 「それに、付き合ってるとナズにも被害及ぶ可能性あるしな。今のところ、デートはズボンできてくれっていってたから、ヤスだと思われて被害あってねえけどさ」 そりゃ、波砂もデートも普通に可愛い格好でいけなかったら辟易するだろう。 女子高生だし、彼氏がそんな学校でも恐れられる不良っていうのも、友達になかなか紹介しずらいし、色々考えた末なんだとは思う。 でも、東流は俺を選んだのだ。 俺の安全?を選んだ結果なのか、俺と一緒にいることなのか……。 いや……波砂が狙われないように遠ざけたのか……。 どちらにせよ、波砂よりも俺を優先したのは確かなのだ。 「トール、欲求不満なら俺んち新しいAVあるから、こないか?」 「ヤスのAVなあ……。ちょっとなあ、アレだ、変態くせえのばっかだぞ」 笑いながら腰をあげて、いつもと変わらぬ快活な口調で言うと東流は俺の腕を引いた。 「まあ。夕飯作ってくれんならいくぜ」 トールの飯の好みは、中学から弁当を作り続けているので、すべて俺の頭の中にインプットされている。 好きな人を落とすには、まず胃袋から……というのもあるらしい。 離れる前に、手に入れよう。 もう。遠慮はしない。 初恋はかなわぬものというけれど。 「じゃあ今日はハンバーグ作ろっか」 変わらない風景なんて、きっとないけど。 手にしたいものは、ちゃんと手を伸ばさなきゃいけない。 それが、きっかけだ。 この、計画を思いつく、きっかけ。

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