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好きの理由 →sideT
体力はかなり消費して疲れちまったのか、やたらに眠ィ。
まったく、あのサディスト野郎、家じゃねーのに気ィ失うまでヤるかよ……。
久々ってのもあって、俺も興奮してもっと欲しいと無意識とか条件反射みたいなもんで言ったとは思うので、康史のせいだけではないけどな。
帰ったらそのままノックダウンだろうな。
俺が横に誰かを連れ立って歩くのは、康史や誠士以外では珍しい。
クラスのスポーツマン、サッカー部のキャプテン東山輝矢である。
キャプテン東山は、サッカーも凄くて選抜に選ばれるほどで、マジ普通にカッケェタイプの男である。
そんな東山が、何故俺と康史のセックスを見たがったのかは謎すぎる。
見た後も、あまり態度は変わらないのも不思議といえば不思議だ。
こっちを見下すとかそういうのもない。
見下す態度をとられても、まったく気にはしないけどさ。気分がよくねえだけだな。
どうでもいいけど、マジ腹も減ってきた。
「なあ、東流。腹減ってる?」
なんだかんだで、下の名前を呼んでくれるがまだ少しビビッている様子ではある。
そして俺の表情を読みぬいたソツのない誘い文句に、俺は頷いた。
「めっちゃ減った。……でも金ねェや」
バイトそろそろしようかとも思うンだが、面接もなかなか通らないし、どうせ長続きはしねえから探すのも面倒になっている。
「そっか、でもハンバーガーくらいならおごるし、帰るまでもたなそうだぞ」
心配そうに横目で見てくる様子は、ちょっと悪くはない。
こういう顔は康史のを見ても、他のヤツのをみてもいいなあって思う。
俺って心配されるのが好きなのかもしれねえ。そう考えると俺ってちょっとうぜえ奴かもな。
「え。いや、何もかえせねえよ」
「意外と律儀だね。そーいう律儀さってスポーツ向いてると思うよ。綺麗な筋肉のつきかただし」
すぐスポーツに結びつけるスポーツ馬鹿なとこも、悪くない。
「そう?部活入ってもなァ、すぐ追い出されたしなあ」
バスケ部に中学のとき身長を活かそうと入ったが、暴力沙汰ですぐに退部処分になった。
「なんで」
「喧嘩しすぎ。暴力沙汰は困るんだってよ。でも、大事なもん守れねえのは、もっと嫌だしなァ。ヤスのそばにいたかった」
中学のときは、本当に康史が遊びまわったケツばっか拭いてた気がする。
そんでもらあの綺麗な顔に傷がつくのは、嫌だった。
「日高、愛されてるんだな」
やや感心したような口調で伝えられ、確かにそうだなと思う。
ずっと、普通の友情とは違った気がする。
気がつかなかったのは俺だけなのかもしれない。
「そういうもん?それが普通だったんだよ。スポーツなんかよりずっとヤスが大事」
「迷いねえな。東流はホント迷いねえよな」
横目で見られて、なんだか不思議と心地いい。
全部知られているのは気が楽だ。
「そうか?考えるの苦手だからな。俺」
ふと膚に違和感を覚えて周囲を見回す。
突き刺すような敵意、敵視。
やっべえな。こいつは戦闘要員じゃねえし……10人か。
「確かに、得意そうじゃないなあ」
俺のことを眺めながらのんびりとこぼす男の腕を引いて体を丸めて耳元でささやく。
「ヒガシ、そこの路地入る前に、あっちの商店街にダッシュで走れ」
サッカー部でもピカイチなこいつのダッシュなら撒けるはずだ。
「え?」
「俺にお客さんが10人ほどきたみてェ」
しょうがねえな、いっちょひと暴れしとくか。…………腹減ってるけど。バイタルすくねーんだけどな。
「1人で大丈夫なのか」
「ヒガシはスポーツ特待決まってるんだろ。俺なら大丈夫、慣れてる」
東山と一緒には暴力沙汰は起こせない。心配そうな表情を浮かべる東山の背中をぱんと叩く。
俺の横で、戦えるのはあいつだけだ。
「しかしな」
「俺の客だからな。キャプテン、きっちりダッシュ決めろよ」
しきりに気にする東山の背中を強く押して首を横に振る。
暴力は東山に似合わない。
綺麗な顔して何のためらいもなく俺の横で戦えるのは康史だけだ。
俺と一緒にいつだって戦ってくれた。
顔以外に好きなところはそこだ。
他の誰にもできないこと。
路地へと足を踏み入れたと同時、一気にバッシュを鳴らして、商店街へと走り出した東山の背中を見送って、俺は軽く伸びをして隠れていた男たちがわらわらと出てくるのを眺める。
「何か用すか?」
高校生ではない。ちんぴらでもない、スジの人たちである。
俺、何かしたか?
思い当たる節もないので、いつでも戦闘態勢に入れるように両脚に力を篭めた。
「北高のハセガワだよな。俺の幼馴染と後輩たちを虐めてくれたらしいんで、仕返し」
その集団を指揮するように俺の前に現れたのは、リーゼントに薄く細いグラサンをかけたいかにもという風貌の男である。
「ハァ?ヤクザに知り合いいねえっすよ」
間合いを計るように、周りを囲む男達を確認する。
一筋縄じゃいかない感じだ。
いつもの高校生相手のあまい感じではいかねえな。
「俺は久住組の若頭、工藤甲斐だ。いい面構えするな、オマエ。ここらへんじゃ、有名なガキらしいが……女を泣かせるヤツは最低だ」
「泣かせた覚えはねぇけどな」
泣かせたのはきっと俺ではない、康史の方なんだが。
「北高の小西弓華、その子が俺の幼馴染でね。オマエを締めるのに、後輩達に頼んだんだが、らちがあかないんで、直々にきてやったのよ」
「ふうんコニシ……か。なるほどな」
泣かせた原因は、俺じゃあねえけどな。
コレが小西の言ってた復讐な。
よおく分かった。
「心当たり、アリだよな、じゃあ、遠慮なくやっちまえ」
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