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カムアウト→sideY

嫌な予感しかしなかった。 同棲するなら荷物を実家にとりにいくと言って、家に帰った東流が夕方になっても一向に戻ってこない。 俺は受験勉強をやってればいいからと、東流が言うので一緒には行かなかったが、ヤクザの件もあることだし、やっぱり一人で行かせたのはまずかった気がしてならない。 心配すぎて勉強にもまともに手がつかねえなら、ホントに一緒に行っても同じだった。 メールで、【いま、どこだ】と飛ばしても返事は一向にこない。 東流のことだから、そんなに携帯を気にしてみちゃあいねえんだろうけども。 「迎えにいくか」 東流の家は俺の実家の隣なのだが、俺は家族が九州にいっちまったあと、隣町のこのマンションで一人暮らしをしている。 学校も実家からのが近いのだが、その頃の俺は女を連れ込むのに一人暮らしをしたかった。 実家にはじいさん、ばあさんも住んでいるので、顔をあわせたら面倒なのだが。 まあ、今更そんなこと気にしてられねえしな。 ジャケットを羽織ってマンションを出る。11月にもなると本当に寒くなってくる。 愛車のバイクに跨りヘルメットを被ると、エンジンをふかして走り出す。 バイクで飛ばせば15分くらいの場所だが、混むと少し時間がかかる。 イライラしていると赤信号の待ち時間がとても長く感じる。 夕闇の中を久々に飛ばして、たどり着いた東流の実家の家の塀に横付けした。 こっちにくるのは、本当に久々すぎる。 インターフォンを鳴らして、玄関の前で待つ。 東流の両親と俺の父親も幼馴染でずっと仲良くやってきていた。 それだけに、第二の両親と言ってもいいくらいである。 バタバタと音がしてドアが開くと、東流の弟の西覇(セイハ)が俺を見て、何故か一瞬焦った表情をした。 「…………ヤッちゃん、今はちょっと取り込み中で……」 西覇は、東流に似ず成績優秀で、この辺でもトップの高校である一高にいっている2つ年下の高校1年である。 まるで、東流の弟とは思えないくらい出来のいい弟だ。 俺らが暴れまわっていても、弟にはあんまり被害及ばなかったのは東流に似ていないからだろう。 まあ、西覇も自己防衛できるくらいは鍛えているだろうしな。 「トールがおせえから、迎えに来た」 西覇が必死で止めるのも聞かずに、俺は勝手しったる様子で靴を脱いで、玄関へとあがる。 「アニキなら、………オヤジに殴られて伸びてるよ。ヤッちゃん入ったら火に油だから……やめた方が……」 あー、なるほどノックアウトか。 あのオヤジさんは、ホント怪物級だ。 伸びてちゃメールも返せないわけだよな。 「おじゃまします」 居間へと向かおうとする俺の腕を、慌てふためきながら西覇は掴む。 「ちょっと待って、オヤジ、ホントに今やばいから」 東流のオヤジは、現役のヤクザさんである。 東流の本気の腕力でも、オヤジさんには勝てないといっていた。 「セーハ、誰かきてンのか?」 顔を出した親父さんに、俺はぺこりと礼儀正しく挨拶をする。 この辺界隈では、俺はこの顔と態度で爽やか品行方正高校生で通っている。 「こんばんわ。おじさん」 オヤジさんは、腕にすっかりぐったりとして気を失っている東流を抱えてひきずって、俺のところに歩いてくると、東流をぽいっと投げ捨て、いきなり俺の前に土下座をする。 「ヤスシ…………うちの馬鹿がスマン。ヤスシが美人だからって、まさか手を出すなんてアイツには見下げ果てた!金輪際、ヤスシに近寄らせねぇから、イヌに噛まれたと思って許してやってくれねーか」 どうやら、とてつもない勘違いをしているようである。 このオヤジさんも、東流に負けず劣らず、かなり配線がいかれているので、説明が大変だ。 「え………違います。ちょっと聞いてください」 「いや、言わないでいい。つらかっただろ?わかるぜぇ。無理矢理だったんだろ。本当になんとわびたらいいか。孝治にも詫びをいれなくてはいけねえって思ってたんだ」 話を聞こうともせず聞く耳すらもってないようで、俺に詫びるオヤジさんの目の前に、俺も土下座してから、落ち着けるようにオヤジさんの肩をゆする。 「ちょっと…………、おじさん、俺の話を聞いてください」 「コイツは頭おかしい。結婚するから同棲するって、何考えてるんだか。ここまでイカれちまったとは情けねえ。コイツには、一生かかっても償わせるから許してやってくれ」 床に頭をこすり付けて、俺の話を全く聞いてくれない親父さんの横で伸びている東流の体を、俺は引き寄せて抱きかかえると、ぐっと抱きしめ俺も床に頭を擦りつけた。 「おじさん。トールを俺にください…………一生大事にします…俺の全部をかけて幸せにします」 「ヤスシ……なにを…………」 驚きの表情で俺を見下ろすオヤジさんの視線を感じる。 「ごめんなさい。詫びるのは俺の方です。俺がトールをずっと好きで、無理矢理、俺のものにしました。それでも、トールは許してくれて…………俺たち、好き合ってます。お願いします」 東流が話したことは決して嘘ではない。それを、分かってもらわないと。 「……うちの馬鹿がヤスシに無理強いしてるわけじゃないんだな」 オヤジさんの声はまだ半信半疑だが、俺は胸に抱いたトールの体を再度抱き寄せる。 「あたりまえです。ガキの時からトールは俺を守ってくれてました」 「あらあら、ヤッちゃんほどの美形ならモテモテじゃないの。それでも、うちのトールがいいの?」 居間から顔を出す、ちょっと派手で美人なトールのお袋さんは、繁華街で高級クラブを経営している。 「トールしか、俺は駄目なんです」 「おばさんはいいわよ。どーせ、この子が女の子とうまくやれるわけないわ」 適当な感じで、長男を簡単に手放してくれる。 おもしろがるように、母親の横からぴょこんぴょこんと中3の双子の紗南(サナミ)と北羅(キタラ)が顔を出す。 二人ともそろって東流にそっくりな顔をしている。 「……ヤッちゃんさ……このアニキのこと抱いてるの」 紗南は、面白がるように東流を指さして臆面もなく聞く。 「……ああ」 「ふうん。最近、アニキの癖に妙に色気あるなって思ってたけど、そういうわけか。へえ……まさかアニキに先こされるとは」 紗南はふふふと笑い、意味深な面白そうな表情を浮かべている。 そういう直感は敏感みたいである 。 「荷物はまとめてたみたいだから、宅配で送ればいいわね。同棲とかいってたけど、じゃあ、生活費は卒業までヤッちゃんに渡すわね。この子に預けられないし」 おばさんの言葉に頷いて、まったく反応がない東流を見下ろす。 「はい。トールが気がついたら帰ります」 「まさか、嫁にください的なこと言われるとは」 オヤジさんはまだ信じられないようすで、俺の顔をじっと見ている。 「ヤッちゃんを嫁にもらいたいってよく言ってたじゃない」 「そうだけどなぁ、まさかなあ」 適当な両親とは言っていたが、まさかここまでオープンに適当とは思ってなかった。 トールの配線がずれてるのも仕方がない。 「怒ってたんじゃ………」 「いや、うちのがヤスシに無理矢理力づくでやっちまったのかとな。」 「いえ、それは俺がスタンガン使って無理矢理やりました」 正直に自分の卑怯なことを告白すると、おじさんは首を振った。 「そりゃあ、仕方ない。油断したアイツの自業自得だな」 …………身内には厳しいな。 つか、俺をあまつさえ許してくれる時点で、かなり間違ってるんだが。 「……く………っ…い……ッてえ……」 漸く目を開いた東流は、俺の体を振り切って目の前にいる親父さんにいきなり食って掛かる。 「ざけんな、オヤジ。俺ァ、反対されても…………ぜってェヤスと結婚する」 ぐわんと引いた腕で繰り出したトールのパンチを、おやじさんはいともたやすく受け止める。 まったく、相手にされてもいない。 「いいぞ」 「ハァ?」 あっけらかんと軽く答えたオヤジさんに、今度は東流があっけにとられていた。 「いいぞって言ってんだ、好きにしろい。で、オマエ。ウエディングドレスは着るのか」 「着るか、くそじじい」 掴まれた腕を引いて、捨て台詞を吐いて振り返った東流は俺と目が合いびっくりした表情を浮かべる。 「あれ……ヤス。来てたのか」 「おそっ」 思わず突っ込むと悔しそうに自分の腕をトールは眺めた。 「一発でノックダウンさせられた……」 「オマエが起きねえから、俺はおじさんに、トールをくださいっつったぞ」 軽く眉をあげてかなり驚いた顔をしたが、すぐにうれしそうな表情を浮かべる。 「……マジか」 うれしいのか。 もしかして言って欲しかったのか。 凄く本当に可愛いと思う。こいつが。 「アニキって、抱かれるほうだったんだなあ」 ニヤニヤと双子が詰め寄ってくるのに、トールはげえっと呟き俺を睨む。 「オマエ、余計なことまでカムアウトした?」 「そこが大事なとこだったみたいだぞ」 すくなくともオヤジさんには、大事なトコだったはずだけど。

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