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切れぬエニシ→sideT
さすがに乗せられた車は3ナンバーのでかめの車で、黒塗りがカッコ良くて、思わずガキみたく目を輝かせてしまった。
誠士のことは、やはりそんな場所に連れていくわけにはいかないので、俺と親父さんの2人きりになったため、圧迫面接は依然続行中である。
ヤクザの事務所というので、いかにもといった場末のビルなどを想像していたのが、つれて来られたのは見た目はしっかりとした会社のようなビルだった。
最近のヤクザっていうのは、こういう普通の会社っぽいんだなと感心してビルを見上げる。
親父さんと二人でなんとなく話すこともなくエレベーターに乗る。
「君は就職先は決まっているのかな」
「はい。運送業に内定してン……ます」
敬語には慣れてないが、まあ社会人になるわけだし、これから
みっつり練習しねえとなと考えながら、降りたロビーの受付に親父さんは話しかけて、暫くして自動扉の中へ通された。
社員の人らは、見た目普通にスーツを着ているが、目の奥は尋常ではない殺気みたいなものを放っている。
ブラブラ歩いてそうに見えるが、緊張感は半端ねぇ。
額に冷や汗が垂れ落ちる。
「野口さん、わざわざこんなとこまでご足労いただいてすまんかったですな」
部屋に入ると、黒いスーツ姿の男達がずらっと並び、奥に居た初老の男が椅子から立ち上がりもせずに親父さんに声をかけた。
「いえ、こちらこそ時間を作って貰って……」
「高校生相手にウチが恥をかいたって話なら、こっちは処断を下したんだがね。野口さんは少年課も見るようになったのかな」
僅かに探りをいれるような口調で、初老の男はこちらを眼光するどく見やる。
気のせいかな、どっかで会ったような懐かしい感じもするじいさんだ。
「息子の友達なもんでね。危害を加えないでほしいと嘆願に来た」
「野口さんの場合、嘆願というかそりゃあ、圧力ともいうがね。ソレがそこの餓鬼か」
「………詫び入れに来ました。長谷川東流です」
俺は、床に膝をついて深々と頭を下げた。
とりあえず軽く袋にあっても、仕方ねえだろう。
誠士の親父さんもいることだし、殺されはしねえだろうし。
「トール!?テメェ、こんなとこでナニしてんだァ?」
聞きなれた声に驚いて少し頭をあげると、駆け寄ってきた見慣れたオヤジのすっとんきょうに驚いた顔にでくわす。
つか、黒いスーツ姿で、普段とまったく別人のようで気がつかなかった。
「はァ??オヤジこそ、こーんなとこでナニしてンだよ。借金でもしたんか?!捕まったのか?!とりあえず逃げるか」
やべえ、オヤジを連れて逃げないといけねーか、逃走経路はどっちだ。
でも、誠士の親父さんに迷惑かけちまうな。どーすっかな。
俺も、はっきりいってすっとんきょうな声を出していたと思う。
「いや、なに……ええっとな………」
逆にうろたえるオヤジは、いつもの無駄な豪快な勢いがない。
とりあえず、俺を殴るとかそういうことはしてこない。
「佐倉、その餓鬼はおめえの知り合いか?」
「……おやっさん。すンません…………こいつは俺の長男でして。こいつが仕出かしたことってなら、かわりに俺が指詰めますんで……堪忍したってください」
俺は口をぽかんとあけてオヤジを見上げた。
「ええっと、あれ、なに?!オヤジってニートじゃなかったのか……」
いままでお袋のヒモでニートだと思っていたが、どうやら違うようである。
まさか、オヤジは本職のスジの人なんだろうか。
「東流君、君のお父さんは彼なのか。佐倉虎信……」
「サクラって名前はしらねえですけど、虎信はオヤジの名前っす……。なんで長谷川じゃねぇんだ…………?あ、おふくろと離婚してるのか!いつの間に!!」
首を捻ってパニックになっている俺をよそに、誠士の親父さんは何故か合点がいったような表情を浮かべる。
「佐倉のガキなら甲斐がやられても組の恥にはならねえな。まあいい。甲斐をのせるだけの力あるなら、コッチ継がせる気ィはないんか」
「こいつは女房のもんですんで、堅気に生きさせよう思っとります」
つうか、なんだ、これは。オヤジってヤクザだったのか。
どっと脱力して、とりあえず腰をあげて頭をさげる。
「佐倉虎信は、久住組の若頭補佐だ。前組長の息子が工藤甲斐で、今回の失態でおろされたから、次は佐倉が若頭って噂も出てるな」
耳元で誠士の親父さんが教えてくれるが、俺の耳にはちゃんとは入ってこない。
まあ、俺を今だにKOできるわけだし、ただのニートじゃねーよな。
でも、工藤もそれなりに強いやつらを揃えてきて俺がぶちのめしたなら、オヤジの組もたいしたことはねえのだろう。
そういえば、ガキのころは2、3年オヤジの顔をみないとかざらにあった。
オツトメとかしてたんだろうか。
でも、ショックでけえな。
「トール、とりあえず、この話しは俺がきっちりしとくから、オマエは帰れ。それにしてもら珍しく詫び入れようとか、どうしたんだ?」
「ヤスに火の粉が飛んだら、ヤバイから…………」
オヤジに、力なく答えると、納得したようにオヤジはそりゃあそうだなとつぶやき、
「知らなかったのは、オマエだけだったかもしれないが、俺の稼業は、こーいう世界だ。かーちゃんとも結婚してない。ちゃんと話さなくて悪かったな」
だったらニートのほうがよっぽどマシだったなと思う。
しょげてる気分がわかったのか、誠士の親父さんは俺の肩を慰めるようにとんとんとたたいた。
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