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桜にすむ鬼

 古い神社の境内には、平日の昼間と言うこともあり人影はなかった。  そこは生い茂る木々が道路からの視界を遮り、外界と完全に遮断されていた。  その境内に、大きな山桜が植えられている。  風が強く吹いているというのに、その山桜は花を散らすことなく、そこに立っていた。  癖のある黒髪、黒いパーカーに黒のパンツといういでたちの青年は、じっとその桜を見上げていた。  笠置透(かさぎ とおる)。  それが青年の名前だった。  背はあまり高くない。160センチ半ばから後半くらいだろうか。  手には指なしの手袋をはめている。  春らしい恰好とは程遠いいでたちの彼は、じっとうごかない。  一般的に山桜は花と葉がともに芽を出すというが、この山桜は花だけが咲き誇っていた。  「そんなに見つめるな」  透の頭上で、声がした。  彼がそちらを見やると、満開の桜の中に人がいた。  桜と同じ、薄紅色の着物。白銀色の長い髪が、強風になびく。切れ長の真っ赤な瞳に、額から生えた特徴的な二本の白い角――  鬼だ。  男とも女ともつかぬ容貌のそれは、山桜の枝に腰かけ、透を見下ろしている。  それは、彼を見て笑っていた。 「私を探しているのだろう?」  その問いかけに、透は頷く。 「鬼退治か?」  そう言って、愉快そうに笑う。  透は何も答えず、ただ鬼を見つめた。  鬼は全く表情を変えない青年に問うた。 「お前からは殺気を感じない。何考えている」 「……あなたを殺せば、この木は死ぬ」  透の言葉に、鬼は感心する。 「なぜそう思う」 「鬼の姿をしているが、あなたはこの木の精霊だ」  言い切る透に、また、鬼は笑う。 「おもしろいな、お前」  そう言って、鬼はふわりと音もなく地に降り立つ。  また、風が吹く。  鬼の髪がなびき、桜の枝が大きく揺れる。  鬼は透よりかなり背が高かった。 「お前、名前は」 「……透」 「よく素直に名を教えたな。それがどのような意味か分かっているのか?」 「あなたは俺に何もしない」  鬼ならば、名を知ることで相手に呪いをかけることができる。  ゆえに、鬼と対峙するような人間は、相手に名を知られないようにする。  なのに、透は容易に鬼に名を教えた。そのことが、鬼にとっては不思議なことだったようだ。 「誰かに依頼されてここに来たのではないのか?」  すると、透は頷いた。 「そうだろうな。数日前に、人間どもが話しているのを聞いた。  この桜はおかしいと。毎年毎年、満開のころが長すぎると」 「だから俺が呼ばれた。  鬼を祓えと」 「なのに、お前は私を退治しないというのか?」  透は頷く。  鬼は、声に出して笑った。 「ははは……ならばどうする。依頼人になんと告げる? 失敗しましたとでも言うのか?」 「俺は安易に妖怪たちを祓うことをしたくない」 「へえ」  鬼の手が、透の頬に伸びた。彼は逃げようとせず、じっと鬼を見つめている。 「ではどうする」 「そのまま報告するだけだ。彼らにこの木を切ることなどできない」  この山桜は、市の天然記念物に指定されている。  だから切る、という選択肢は取れるはずがなかった。  鬼は自分をまっすぐに見る青年を面白そうに見つめた。 「気が変わった」  そう言って、鬼は不意に透の頭に手を回したかと思うと、そのまま引き寄せた。そして抵抗しない彼に口づけた。  さすがに驚いて、透は鬼を引き離そうともがくが、鬼は空いている腕で透を抱きしめた。  鬼は舌で無理矢理口をこじ開け、逃げようとする透の舌を絡め取る。 「ん……ふ……っ」  ぴちゃぴちゃという舌が絡まりあう音の間に、透の苦しそうな声が混じる。  長い口づけの間に、透は抵抗をやめ、ぐったりとし鬼に抱きかかえられた。 「……なに、を……」  口づけの後、息も絶え絶えに透は言うと、鬼は笑った。 「生気を吸っただけだ。これで、2,3日は動けない。なあ、透、その間私を楽しませてくれないか?」  そう言って、鬼はその場に透を横たわらせた。  ***************  風が吹くたびに、桜の枝が大きく揺れる。桜の香が辺りに漂い、透の身体を包み込んでいた。  彼は今、服を脱がされ、鬼にされるがままになっていた。  頭の上で鬼が着ていた着物の紐で手首を縛られ、肌には桜の花の如く口づけの跡がついていく。  鬼の手が、自分の肌を這う。  胸の突起に口づけられ、吸われ、歯を立てられると、自分の声とは思えない声が口から洩れた。 「あ……はっ……」 「可愛い声じゃないか」  言いながら、鬼は胸を舐め、突起を吸う。 「ははは、乳首が立ってきたよ。まるで女のようだな」  何を言われても体を動かすことはできず、与えられる快楽に酔いしれていった。  手が、下半身に触れ、撫で上げ、扱きあげていく。  慣れない感覚に体がのけ反り、嬌声を上げてしまう。 「は……あぁ……ん……」 「あまり使ったことがないようだな。まさか、女としたことないのか?」  笑いを含んだ声に、透は何も答えず目を閉じてその行為に耐えようとした。  鬼は透のそれへと舌を這わせ、裏筋を舐めあげる。鈴口を割るように舌が入り、強く吸い上げられると、いっそう大きな声を上げた。 「あぁ! ……ん、はぁ……はぁ……」 「……どうやら、したことないらしいな」  鬼は楽しそうに笑った。  手と口でたかめられ、快感が体を走る。 「や……め……でる……!」  鬼に与えられる刺激により、透のそれははちきれんばかりになっていた。  先走りを鬼が音をたてて吸い上げる。 「はぁ、……あ、あ、あ……」  身体を大きくのけ反らせ、透は鬼の口の中に欲を吐き出した。  ゴク……  という、透が吐き出したものを飲み込む音が、卑猥に聞こえた。  透は大きく息をし、自分に覆いかぶさる鬼を見た。 「たくさんでたな」  鬼は妖艶に笑った。  鬼は桜色の襦袢姿になっていた。  前がはだけ、妖艶さを増している。  鬼の手が、透の内股を這い、尻を撫で回す。  これから何が起きるのか容易に想像でき、透は身を強張らせた。 「そう怖がるな。  痛いことはしない」  そう言って、鬼は透の足を抱え上げた。  鬼の指が、秘所に触れたかと思うと、何か冷たいものと共に中に侵入してきた。  初めて感じる圧迫感に、足がガクガクと震える。 「ぅあ……あ、あ、ふ……」 「じきによくなる。媚薬を塗り込んだからな」  鬼の指が、中でうごめく。  鬼の言うように、身体が徐々に熱を帯びはじめ、一度出したにもかかわらず、透のそれはたち上がりだしていた。 「い……あぁ……」  自分の声が甘美な色を纏うのを感じ、透は唇を噛み締めた。  力が入りすぎ、鉄の味が口の中に広がる。 「血に塗れた唇というのもなかなか淫靡なものだな」  鬼はそう言って、指を透の中に入れたままペロリと、唇を舐めてきた。 「う……んっ……」  舌が唇を割り、口の中に侵入してくる。  血とともに口の中をなめ回され、舌を絡められる。 「人は食わんが、食ってしまいたいくらい綺麗な顔をしているな」  口が離れたかと思うと、耳もとでそう、囁かれた。  その間も鬼の指の動きは止まらない。  くちゅくちゅという音とともに、中を広げていく。  ある箇所に指が触れると、透の身体に強い快感が走った。 「あっ……ふ、あぁ」  今までと違う嬌声を、鬼は聞き逃さなかった。 「ここが、前立腺というやつか」  そう言って、重点的にそこを責め立てる。透はたまらず声をあげ続けた。 「いい声だな」  笑いを含んだ鬼の声が聞こえる。 「いぃ……あ、あ、あ、もう、むり……」  すっかりたちあがった透のそれから、先走りがとくと流れていくのを感じる。  鬼が指を引き抜くと、透の秘所に鬼の怒張があてがわれる。  なんの加減もなく、一気に鬼は透の身体を貫いた。  透の息が詰まり、身体がおおきくのけ反る。 「あ、あ、あ……」 「息をしろ、透」  鬼の甘い声が遠くに聞こえる。  荒く息をして、透は自分を犯す鬼を見た。  鬼の白い顔が僅かに紅潮しているようで、妖艶さがいっそう増して見える。 「いい子だ」  鬼は、少しずつ腰を動かし始めた。  痛いはずなのに、媚薬のせいか快楽しか感じなかった。鬼が動くたび、口からは嬌声がもれ、更なる快楽を求め、自ら腰を動かしていた。 「そんなに気持ちいいか?」  鬼の問い掛けに何も答えられず、ただ与えられる快楽に溺れていた。  鬼が腰の動きを早めていく。  前立腺や奥をつかれるたび、透は身体を震わせた。 「い、あぁ……あ、あ……」  鬼のものが透のなかで大きくなるのを感じる。  鬼の吐き出した欲で中が満たされていく。  中に入れたまま、まだ反り返っている透のそれを鬼は上下に扱いた。  脳が痺れるような感覚に襲われ、透は鬼の手で達した。  白濁した液に塗れた手を、鬼がぺろりと舐めとった。    何度、鬼と繋がっただろう。何度、鬼の精を受けただろう。  朦朧とする意識のなかで、透は鬼に抱きしめられた。 「このままここに置いていきたいが、もう時間だ」  鬼に口づけられ、舌が入ってくる。透は自ら舌を絡め、鬼を受け入れた。  聞き慣れた声が、知っている匂いが、透を包む。 「……さん、透さん!」  誰かが身体を揺さぶる。  透がゆっくりと目を開けると、目の前に心配そうな顔をした幼なじみがいた。  5つ下の、今年で18歳になる幼なじみの顔が、あの鬼の顔とダブって見え、透の口から自然と艶っぽい声が漏れた。 「あ……」  その声に驚いたらしい幼なじみは、目を丸くして透を見つめた。 「透さん? あの、大丈夫ですか。こんな所に座って……一体何が」  自分の名を呼ぶ声が、鬼のそれと重なる。  透は熱に浮かされたように彼の首に腕を回し、口づけた。  すぐに顔を離し、彼の胸に顔を埋める。 「ちょっと、透さん?」  戸惑った声が耳元で聞こえる。  もやがかかる頭で、何があったのか考えた。  今、透は桜の木を背に座っているようだった。  あれは夢だったのか、それとも現実なのか。  身体の中に、確かに残る鬼に貫かれた感覚。  顔をわずかにあげ、手首を見ると赤い跡がついていた。  どうやら現実らしい。  やられた。  まさかあんなことをされるとは思わなかった。  男であるし、レイプされたところでダメージはたいしたことないが、初めてが鬼なのはやりきれない気持ちになる。 「透さん、あの、二日も帰ってこないので探しに来ました」  二日も鬼に好き放題されたのか。  透は小さくため息をついた。 「緋月(ひづき)」 「なんです」 「キスして悪い」 「……って、忘れようと思ったのに、何なんですいきなり。僕だって余りしたことないんですよ?」 「緋月」 「……はい」 「寝る」 「えー? ちょっと、寝ないでください、こんな所で。  せめて車の鍵下さい。車まで抱えていきますから」  そんな幼なじみの非難の声を遠くに聞きながら、透は眠りにおちた。  二人の頭上では葉だけになった桜が、枝を揺らしていた。

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