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第1話

 棺が徐々に土に覆われるのを俺は黙ってじっと見つめていた。  シャベルで土を掬い、穴の中の棺にかける。  その単純で厳かな作業を行っているのは人間ではなかった。  銀色の鉄の塊のような二体の人型ロボが、それを黙々と行っているのだ。  20××年。  人工知能の開発と共にロボット産業も目覚ましい発展を遂げ、今や力仕事と言われるもので実際に人間が行っていることなど、数えるほどしかなかった。    ようやく最後の白い部分に黒い土が掛けられたとき、俺は詰めていた息をはっと吐いた。  俺がブルーの葬儀中に見せた唯一の感情らしきものはそれだけだった。  10年以上も付き合った恋人の葬儀だというのに俺は涙の一つこぼさなかった。  葬儀が全て片付くと、誰の姿も見えなくなった墓地を俺はぐるりと見渡した。  自宅からほど近い丘にある小さな墓地。  生前、人型の人工知能ロボットを完成させ、巨万の富を築いたブルーの最後の住処にしてはずいぶんと地味だ。  本人が選んだ場所だが、ここで本当に良かったのだろうか。  ぽつりと冷たいものが頬に落ちた。  見上げると分厚い灰色の雲から、氷の粒のような冷たい雨が落ちてくる。  俺は踵を返し、通りに出るとタクシーを止めた。  ブルーと俺の出会いは大学時代に遡る。  その時俺は同性愛者ということを大ぴらにしていたせいで、周りから軽く浮いた存在だった。  ブルーはその頃から人工知能。いわゆるAIの研究にしか興味がなく、AIオタクとして周りから俺と同様変人扱いされていた。  ブルーは有名人だったから、俺は以前からブルーのことを知っていたが、ブルーの方は俺と話すまで俺の存在なんて知らなかったように思う。  なんせ彼は24時間研究のことしか頭になく、不要と思う情報は最初から覚える気さえないようだった。研究に没頭する彼にとって、世界はいらない情報ばかりだっただろう。  そんな俺たちの運命が最初に交差したのは大学の食堂だった。  俺はその頃毎日のようにニックというひょろっとした赤毛のそばかす野郎から、性癖について揶揄われていた。  ニックはわざわざ俺の居場所を探しだしては、俺がどんなに無視しても話しかけてきた。  その日も俺が食堂で音楽を聴きながら本を読んでいると、ふいに目の前の椅子が引かれた。ニックだった。 「よう、ウィル。調子はどうだ?」  にやにやとしたその顔にパンチをお見舞いし、奴が血だらけになる妄想に浸りながら俺はイヤホンを外さず答えた。 「別に普通」 「そうか。そう言えばお前今日もヘンリーのことを授業中じろじろ見てやがったんだろ。あいつ鳥肌が立っちまうって言ってたぜ」  俺はニックの言葉を無視し、目を伏せると熱いコーヒーを一口飲んだ。

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