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第4話

 冷房の効いた本屋に入った途端、二人してホッとため息をつく。 「生きた心地がする」 「確かに」  何処に向かうのかと思えば、度道府県の旅行ガイドブックが置かれた棚だった。 「土日に遊ぶところを決めよう」  と一冊の本を手渡される。地元が紹介されているガイドブックだ。  背後に立ち、少し横へとずれた所でピタリとくっついてきて、何事かと高貴を見れば、 「ほら、ページ捲って」  どうやら一緒に一冊の本をみるようで、驚きつつも友人同士はこういうものなのかと素直に頁をめくる。 「お、美味そう」  遊びとグルメと書かれた文字と、食べ物の写真。  丁度、お腹がすく時間帯だ。食べものについ目がいってしまうのは仕方がない事だ。 「ここの喫茶店って夏限定で、ふわふわなかき氷が食べられるんだって。女子に聞いた」  隣に移動してきたが、その距離感は相変わらず近くて緊張してしまう。 「……そうなのか」  きっと彼はもてるのだろうなと思う。女子に優しくしている姿を思い浮かべ、なぜか胸がモヤっとしてしまう。  自分には出来ない事を彼は普通にこなしてしまうだろう、きっとそれを羨ましく思ったのだろう。 「駅とは反対側なんだよな。今度、食いに行こうぜ」  女子でなくていいのかと口にしそうになりやめた。折角、自分を誘ってくれたのだから素直に返事をしよう。 「あぁ、今度な」 「これも夏の楽しみの一つかな」  と、話題は次へとうつる。  頁をめくる度に、小さな頃の思いでからつい最近の事まで、表情をコロコロとかえながら話聞かせてくれる。  それが楽しくて、クスクスと声をあげて笑っていた。 「えへへ、なんか嬉しい」 「ん?」  何が嬉しいのだろうかと、小首を傾げれば、 「巧巳が俺の話に笑ってくれて」  と、指で口角を上げてニッコリと笑う。 「あ……」  それは自然とでた笑いであり、高貴に気を許しているということだ。 「もっと笑顔、みたいな」  そう、ふわりと微笑む彼は、天然のタラシではないだろうか。ただ、相手が女子でないのが残念だと思うが。 「そのために、夏休みの楽しみ方を教えてくれるのだろう?」  わざとぶっきらぼうに言うと本を彼の方へと押し付けた。 「そうなんだけどね。あ、そうだ。プールとか、どう」  泳げるのかと聞かれ、小学生の頃に水泳スクールに通っていた事、今も勉強の息抜きに泳いでいる事を話す。 「へぇ、だからか……。じゃぁ、地元でメジャーなトコだけど、行っちゃう?」  とスマホを取り出してホームページを開いた。プールへは遊ぶ目的で行った事はなく、そこは名前だけは聞いたことがあるという程度だった。 「ウォータースライダーがあるんだな」 「ここ、去年、リニューアルしたんだよ」  泳ぐだけならジムのプールで十分。だが、遊びとなるとウォータースライダーや波のプールは興味がそそられる。 「楽しそうだな」 「楽しいよ。あ、そうだ。他の奴等も呼ぼうか?」  大勢も楽しいぞと言われ、やはり自分だけではつまらないのだろうかと、楽しいという気持ちが一気に落ちていく。 「あ……、嫌だった?」  顔に出ていたのだろうか。  中学の頃、クラスメイトに、空気が読めない奴と言われたことがある。それを思い出して顔が強張っていく。 「すまない、あまり大勢で行くのは慣れていないから」 「そっか。俺こそごめん。二人きりなら、良いかな?」  プールが嫌なんじゃないよね、と、心配そうにこちらを窺っている。 「あぁ、プールは嫌じゃない」 「よかった。じゃぁ、二人で行こう」  土曜に駅前で待ち合わせをすることになり、楽しみだねと高貴の言葉に頷いた。

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