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調教開始

「やめて、それだけは……」 涙目の僕【白雪 凛人】の目の前には世にも恐ろしい魔王「何か言ったか?」…いや、王様が小さく笑みを浮かべた。 同性の僕でも見惚れてしまう程 その端正な顔立ちに拳をぶちかましたい衝動に駆られる。 「お前に拒否権なんてあるの? 不良達に絡まれてたとこを助けてやったらなんでも言うこと聞くって言っただろ?」 僕は数分前の出来事を思い出す。 頭脳明晰で運動神経も抜群。 おまけに生徒会長で家は金持ち。 と少女漫画から出てきたんじゃないかと思うこの偉そうな俺様な【天王寺 聖夜】。 身長が低くて女顔でよく女と間違えられる事以外全て平凡な僕はなぜか幼馴染みで、なぜか小中高とずっと同じ学校に通ってる。 (聖夜ならもっといいとこに行けるはずなのに) そんな僕の唯一の取り柄はどんな人とでも仲良くなれるところで、相手が先生だろうとギャルだろうと不良だろうとオタクだろうとすぐ打ち解けられる。 で、さっき最近仲良くなったギャルと不良(といっても見た目が派手なだけでいい人)とお昼を食べていた。 『天王寺会長って紳士だよね。素敵! ねぇ、白雪君って天王寺会長と幼馴染みなんでしょ?お願い!今度 紹介して~!』 『えっ、聖夜を?』 『バカだなー、会長はギャル系より清楚系だろ?お前よりユキのみたいな子の方がお似合いだろ。なっ、ユキ!』 『なんでそこに僕を出す!?って重い重い!抱き着くなー!』 …とまあこんな感じでワチャワチャやってたんだけど僕が聖夜を紹介出来るわけがない。 (だってアイツ、普段猫被ってるし) で、困っていたら聖夜がカツアゲされてると勘違いしたらしく、僕をその場から攫うように連れ出した。 そして、冒頭部分に至る。 「あの言葉、嘘だったのか?」 「いや、そういう意味じゃないけど…」 確かにその時 彼女の淡い恋心にヒビが入ってはいけない。イメージを壊したくない。と思って聖夜の勘違いに便乗して、助けて、お礼はするからって言ったけど。 「でもお礼はするって言ったけど、何でもするとは言ってない!」 「じゃあお前のそのちっぽけな頭で俺を満足させるお礼 思いつくか?」 「うっ、それは…」 金持ちで僕より何もかも持ってるコイツを満足させれるものって...何? そもそも全部もってる様な奴って物欲あるの?多分ないよね?あったとしても庶民には手が出せないものだよね?鬼かお前は。 「俺はこれで満足してやるって言ってやってるんだけど?どうせ思いつかないんだから素直に従えよ」 2人っきりの生徒会室で長い脚を組んで優雅にソファに座って、奴は紅茶を口にする。 鍵はコイツがさっきかけて内ポケットに閉まっていたので、逃げるとしたら窓一択だけど 4階から飛び降りる勇気はない。 僕はテーブルに置かれた服を仕方なく手に取る。 「どうして君が、こんな僕なんかと……」 幼馴染みなんだよ。最悪だ。 小さい頃から努力家なところも、 不器用だけど実は優しいところも、 嘘が下手で変に真っ直ぐなところも、 側でずっと見ていたからわかる。 そんな幼馴染みがなんやかんやで大好きだから、こいつのワガママや無茶も出来る範囲内の事は付き合った。 (でも、これはない。さすがに酷い。) 僕は渋々 聖夜から死角になってるところで着替えようとすると呼び止められた。 「俺の目の前で着替えろ」 ...バカ?バカなの?コイツ、バカなの? 男が男の着替えて見て何が楽しいの? (昔一緒に風呂にも入った仲だし、今更見られたところで何も無いけど) 僕は眉を顰めながら、下着や脚とか見えない様に(女子ってこんな風に着替えてるんだろうな)制服を脱いで さっき受け取った黒を貴重とした白のエプロンがついた...メイド服を着る。 ロング丈でまだ良かったと思おう。 「…これで満足?」 奴の向こう側にある窓ガラスに薄ら映る全く違和感がない自分のメイド姿に悲しくなる。 話のネタにしてるけど、今だにこの顔はコンプレックスだし あまり好きになれない。 「……やっぱり可愛い」 「声小さくて聞こえなかった。何か言った?」 「...何でもない。」 「そう?じゃあもうお礼は出来たから着替えるね」 僕は今度こそ 死角になった場所に移動しようとすると いきなり聖夜に腕を掴まれた。 そしてさっきまで聖夜が座っていたソファに押し倒された。 「はっ?」 聖夜は怒った顔をして僕の上に覆いかぶさる。 「…誰がこれで終わりだと言った?」 「...えっ!?」 ま、まさか一日中 この姿でいろと!? 本当に鬼だなお前! 僕はクラスメイトに見られたら...と想像して恐怖で震える。 そもそもなんでコイツ怒ってるの。 いつにも増して不機嫌だなって思ったけど。 「なんで他の奴には笑うんだよ」 「...聖夜?」 「なんで俺にはいつも困った顔か怯えた顔をする?どうしたらお前は俺に笑顔を見せる?」 女装をさせた時点で僕が笑顔になる確率は0だけど? 「聖夜?なんかいつもより変だけど大丈...」 いきなり唇に冷たくて柔らかいもので塞がれる。 「...っぷはっ、な、何やってんだよ!バカ!」 僕はドンと力の限り 胸を叩いて突き放す。 「何って、キスだけど」 「そうじゃなくて何でしたの!僕は男、お前も男!わかってんの!?いくら僕が嫌いで怒ってるからって、しかもファーストキスだったのに、あんまりじゃない!?」 「わかっているが、冗談でやったと思ってるのか?」 「そうとしか思わないだろ!」 聖夜はますます不機嫌な顔になる。 不機嫌になりたいのはコッチだよ! 「まさかここまでとは...お前、バカか?」 「バカなのはお前だろ!?」 「言わないとわからないんだろ?なら特別に言ってやる」 「はあぁっ?なんでそんな上から...」 「お前が好きだ」 あまりの衝撃に一瞬、呼吸の仕方を忘れた。 「小さい頃からずっと」 「ちょっ、ちょっと待って!さ、さすがにそれは、冗談だよね?」 動揺のあまり声が震える。 「お前の幼馴染みはこういう事を冗談で言ったりしたりする男か?」 いや、全く。 だってコイツ、嘘 ヘタクソだもん。 「...僕、ずっと嫌われてると思ってた」 「何をどうしたらそう思う?」 「だって普通 好きな人に嫌がる事させる?」 「...お前が他の奴にあんなに可愛く笑うのが悪い」 聖夜は首元に顔を埋めて、 宝物の様に優しく丁寧に僕を抱きしめる。 可愛いと言われて、普段はどうってことないのになぜか頬に熱が集中する。 「凛人、もう一回 キスしてもいいか」 「はいっ!?」 僕は聖夜を突き放そうと胸に手を置く。 「...凛人が俺の事を嫌いなら、突き飛ばしてくれ。そうしたら、もう関わらないようにする」 僕の手が止まる。 「それは、ずっとって意味?」 「...こんな事したんだ。ただの幼馴染みとして側にはいれないだろ。それに、俺がツライ」 もうそばにいれない。 そんな事、想像した事もないし できない。 だってずっとそばに居るのが当たり前だったし、これからもなんやかんやで関わりがあるって思ったし...。 「聖夜の事は...恋愛対象として見た事ないし、この先も見れないかもしれない」 「……そうか」 「キスも、普通なら気持ち悪いって思うんだろうけど 正直今もパニックで驚き以外の感情が出てきてない」 「……悪かった」 「でも、何年も聖夜の幼馴染みやってきたと思ってるの。今まで散々 ワガママで俺様なアンタに振り回されてきたんだよ。そんな事されても今までずっと一緒にいたんだよ?いきなり嫌いになったり、離れたり出来る訳ないじゃん」 「……」 「イヤならとっくに離れてる」 聖夜はゆっくりと離れて僕の頬に手を添える。 大きくて、温かい。 「なのに、そういう聞き方するの...ズルい」 「ズルくて結構だ。」 「……本気にしてもいい?」 僕は恐る恐る聞く。 自信に満ちた笑みを浮かべる聖夜は、今まで聞いたこともない様な優しくて甘い声で言う。 「本気にしろ。すぐに俺無しじゃいられない様にしてやる」 胸の奥の奥できゅんと鳴った様に感じた。 僕はそれを誤魔化すように、目をぎゅっと瞑る。 「調教開始だ」 唇が再び触れる前に 聖夜は小さく呟いた。

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