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短編:あの日薬を忘れた結果

 別に捨てられたわけじゃないことは分かる。  皆俺の為を思って学園に行けって言ってることも分かる。    でも皆心の中で俺が邪魔だって言うのも分かる。  俺は孤児だ。親の顔なんて知らない。   孤児院はいつでも盛況だ、だから金が必要だった。唯一良かったのは、この街に大きなダンジョンがあった事だろう。ダンジョンの一階層では薬草なんかも取れるので子供の俺でも取りに行くことが出来た。  薬草を取って来る毎日に飽きた俺は、無謀にも少し下の階にもいってみたくなった。実はダンジョンから物資を持って帰る冒険者の人達が使っていた魔法というのも少しだけ使える。本来なら教会で金を払って自分の適性を調べるらしいけど、孤児院にそんな金はない。   たまた魔法が出来ないか試行錯誤していたら出来た、そのおかげで二階層は問題なかった。  ダンジョンは不思議で、地下に在るのに明るい森の中にいる。だから出来るだけ見つからないように事を進めれば俺にも魔物を狩れた。  魔物は様々な姿をしているけれども、俺達を襲うことに関しては一貫している。でも人間だって魔物を襲う。肉が旨いとか、皮がいい鎧になるとか、毛皮が服になるとか。結局どっちが襲い始めたのか分からない状況だ、でも今更そんな事はどうでもいいと思う。俺達は敵対しているそれだけなんだ。  ある時稼いだお金で教会に自分の適性を見に行ったら闇系統の魔法に適性があった。これは知っていたことだけど、他は無かったので少し残念だった。  そんな時、俺は三人パーティーの冒険者と仲良くなった。きっかけは俺が孤児だと分かったからか食べ物をくれたことからだ。俺は自分の影に物を収納できることを伝えて荷物持ちとしてその日は一日行動を共にした。  次の日、彼らは俺を待っていた。なんでも実入りがいいので今後も俺を雇いたいという事だった。なら俺もパーティーに入れてくれと頼んで本格的に冒険者になった。  それから十年俺達はパーティーを組んでダンジョンに入り浸った。そのうちドンドンと強くなり名前を知られるようになった俺達。  ダンジョンの未踏破部分にも切り込んで行く俺達は、文句なしの上位冒険者だった。  だったというのは、俺は今日でこのパーティーから抜けるからだ。  十六歳になった俺は学園に行けるようになった。学園というのは、様々な才能を持った平民や貴族が行くところだ。特に隣の国にある学園は街一つが学園関連の施設になっているらしく、他国からも多くの生徒が入る。実際他国の学園で平民の受け入れをしてるところは少ないので、俺達平民が行くとしたらこの学園だろう。  そのため貴族も此処に入りたがる奴が多い。有能な平民は囲っておきたいのが貴族ってやつらしいからだ。  そんな学園に入るには金を払うか何処からか推薦が必要となる。俺の場合は冒険者の元締めである冒険者ギルドからの推薦が取れている。  俺は別に学園なんか興味なかった。このまま皆と一緒にパーティーを組んでダンジョンに潜って美味しい物を食べていられるのならそれでもよかった。  だけど皆は俺より年上で、そして父親だった。  そして俺以外の最後の一人も先日結婚して子供が出来たらしい。  俺に学園に行けというのは善意だろうことは分かるけど、でも子供の為に死ぬことが出来ないからもっと安全な階層で万全に狩りたい、それが皆の共通認識になったんだと思う。  俺はもっと攻略して強い敵と戦って、そう思っていたから合わなくなったんだ。  結局俺は学園に行くことにした。皆に迷惑をかけるのも嫌だし、かといって孤児の俺には他に行くところも無い。ダンジョンは他にもある、此処じゃなくてもどうにでもなる。冒険者ギルドも各地にあるので、そこそこのランクの俺は何処に行ってもある程度の証明になる。  馬車の旅は結構疲れた。    揺れる馬車は難物だ、尻が痛い。  漸く辿り着いた街は、ダンジョンが無いだけで俺のいた街とそんなに変わらないように見えた。基本レンガ造りの家が立ち並んで、石畳の道を馬車が走る。こっちには遠くからでも見える立派な学園とやらが見えるが、絵本で見たお城その物のような出で立ちだ。白いし。  行きかう人に若い人が多い。お揃いの緑色のある程度きっちりとした洋服は、学園指定の制服だ。俺もこの後買わないといけない。  推薦を受けていても金はかかる。でもお金ならダンジョンで稼いだお金があるので、普通に生活していく分には問題ない。  取り合えず学園に行かないといけない。そこで入学手続きをしないといけないからだ。  辺りの様子を見ながら丸い形をした街の中心の城へと足を運んだ。そこは同じく今年入学する学生で列が出来ており、俺の番になったのはもう夕方だった。  昼から並んでんのに。  疲れた。  入学手続きは問題なく終了した。元々推薦で入学する奴は学園が把握しているから、簡単な説明と入学証明書を貰って帰るだけだ。後寮に入る事になっているのでその場所を教えて貰った。  寮は街で言うと北の区画が丸まる寮になっている。同じ形の三階建ての建物がずらりと並ぶ場所は、正直異世界でちょっと気持ち悪かった。迷いそう。    それでも何とか辿り着いて寮に入る。 「ん? 新入生かな?」 「ナタールです」 「あぁやっぱり、僕は此処の寮監をしてるユーリスです。君の部屋は三階右奥の部屋だね、同じく新入生のメイナード君と同室になるよ」 「分かりました、お願いします」 「うんうん、学園には貴族の方も多いからね、それくらいの言葉遣いでお願いね。門限は無いけど単位は落とさないようにした方がいいよ、推薦だとしても保証されるのはストレートで学園を卒業する三年間だけだからね、四年目は自腹さ」 「分かりました」  ギルドのランクを上げるのにある程度丁寧な言葉遣いは習ったので使ったみたが、やっぱり正解のようだ。  制服は後でこの寮に届けてもらうように先ほどの手続きの時にお願いしたので、やる事が無い。他の備品等に関しては最初の授業で支給されるし。  割り振られた部屋に行ってベッドに寝転がる。馬車移動で疲れたのもあって俺は直ぐに寝入ってしまった。 「――」 「んぁ」 「もうすぐ夕飯の時間だってよ」  目の前に犬がいた。いや獣人か。  黒い毛並みの犬か狼か、彼がベッドの俺を覗き込んで起こしてくれたようだ。 「ども」 「俺はメイナード、今日から同室よろしくな」 「こちらこそ」 「……良かった」 「何がですか?」 「偏見が無さそうで」  あぁそう言えば獣人は嫌ってるやつもいるって話聞いた事があるな。俺的にはどうでもいいけど。それに一時期獣人の人がパーティーに加わってたこともあったし。 「飯行こうぜ」 「あぁ」  言葉遣いも気にしなさそうなので素にした。なんとなくいつも酒場に居る兄ちゃん達みたいで親しみやすい。  料理はまぁ美味しかった。当番制で今後は俺も作る事になるらしいが問題ない。なにせ俺は孤児院の出だ。皆で分担して料理位するし、パーティーでもたまにダンジョン以外に狩りに行ったとき――冒険者のランクを上げるため――に交代で料理もした。ある程度の物なら作れると思う。  それからのんびり入学式までは過ごした。基本は街をぷら付きながら、なんでも近くにダンジョンがあると聞いたのでそこに足を運んで軽く狩りをしたりもした。  入学式は眠くなって話半分どころか殆ど聞いていなかった。  一応身ぎれいにはして来た。ちょっと伸びてた黒髪をいい感じに切って、少しだけ吊っている目はどうにもならないけど。まぁ式なんて御貴族様の為みたいなもんだし、俺達が出席しようがしまいが関係ないだろうけど。  クラスは基本貴族と平民で分けられている。   だが貴族でも位の高くない奴は平民の商家のやつらと一緒に受けていたりする。  一番上のクラスは貴族でも位の高い奴ら、次が位の低い奴らと平民でも貴族に関わりの強い奴。次がその他の平民だ。  俺がいる三番目のクラスの教室は大人数収容できるようにか結構広い。扇状で真ん中に教師、そして弧を描く長机と椅子が設置されていた。  正直怠い座学なんてやる気にならないので一番後ろの端に腰を下ろして授業を眺めた。やる気がないなら辞めればいいと思われるかもしれないが、辞めて何処か行きたい場所も無いので流されているだけだ。単位が足りずに進学できなくなったらまた考えればいい。  同室のメイナードとは部屋にいるときに話すくらいだが、なんとなく構っている。  なんでも村の出で、たまに街に降りて狩りの余りをギルドに渡してランクが上がり、推薦でこの学園に来たらしい。本人は行かなくてもいいと考えていたが、両親が兄も行ったんだからと、適当に金づるでも嫁でも婿でもなんでもいいから人脈作って来いと言われて入学させられたんだとか。  俺とは違うけど、そこまでやる気が無いのは一緒なので少しだけ親近感がわいた。まぁこいつの場合留年すると親に半殺しにされるから絶対にストレートで卒業すると意気込んでいるけど。 「意気込むなら宿題は自力でやれよ」 「やってる!」  やってる……なんで授業は適当に聞いてる俺の方が理解しているのか。宿題は教えながらやってたりする。でも流石に分からないところは他の友人に聞けと言っておいた。  メイナードはこんな性格なので一部には受け入れられていないが、友達も結構多い。それに、ほっといてくれというオーラの人にも一度適当に話しかけて見込みが無さそうなら直ぐに引くのでそこまで嫌われているという訳でも無い。  俺の場合は未だ自分がこれからどうするのか迷走中なので、友達というのはメイナードくらいだ。なぁなぁで複数人と付き合うというのが苦手だからだ。友達ならちゃんと気心の知れた、困ってる時に助けられるような、また助けてくれるような関係がいい。  そう感じるのは、ダンジョンで死線を潜っているからかもしれないが。信用できない友人、パーティーメンバー程怖い物は無いと教えられたし、実際そう言う目にもあったからな。      学園生活は平和だった。なんだか貴族共は騒がしい事になっていたらしいけど、平民クラスは至って平和だ。  基本授業は座学になるが、午後には各推薦に分かれて実習なども行った。生産系の推薦を得ている人に、戦闘を行えというのも違うだろうし、妥当だと思う。  俺は魔法系統が得意というか、剣は微妙なので魔法の単位を取りつつ、剣を習うことにした。この学園に入って初めて良かったと思えるのが、この剣術の授業だけど、実は少し大きな冒険者ギルドにも武器の扱いを教えてくれる人がいるので、学園である理由は特にないんだけどな。  休みの日はダンジョンに行っている、こうも体が訛ると以前のようにダンジョンに入れるか不安になって来るので、必ず行くようにしている。休みは週に三回、近いダンジョンは難易度が低いので、三日ある事を利用して少し遠い所――と言っても馬車で半日程度――のダンジョンに潜っている。  だがそんな時にハプニングは起きた。  翌日から休みという日だ。今日は俺の当番だったので、何人夕食がいるのか確認をしてご飯を作り、食べ終わり部屋に戻って一服して気が付いたら寝てた。外食する人もいるので、そういう時は先に台所にあるボードに書いておくのが決まりなのだ。  それは置いといて、扉が開く音で目を覚ました。ちらりと伺うと、メイナードがフラフラと帰って来たところだった。酒の匂いをさせて。 「飲みすぎない方がいいぞ」 「おぉ~」 「アンチドートいるか?」 「ほしい」  魔法を唱えてかけると、酔いが覚めたようでふぅと一息つくメイナード。アンチドートには酔いを覚ます効果があるので、早々に覚えた魔法だ。使いなれている。 「悪い、起こしたろ、シャワー浴びてくる」  彼はそういって直ぐにシャワーを浴びに行った。この寮のいいところはシャワールームが各部屋についているところだ。水と火の魔石は魔石の中でも安いが、それでもこうして毎日入れるのは凄い事だ。入るとすっきりとしていい気分になるので、今後宿をとる時は必ずシャワールームがある部屋にしようと決めた。  今までは無いか大浴場のある宿にしか行ったことが無かったからな。風呂も悪くないけど、俺は一人でじっくりと浴びられるシャワーが好きだ。  そんな事を考えていると、腰にタオルを巻いたままのメイナードが慌てて出てきて、自分のバッグに思いっきり手を突っ込んだ。  だが探し物が見つからなかったのかバックをひっくり返して探している。流石にランプの明かりだけでは寂しいだろうとライトの魔法を唱えるが、どうやら探し物は無かったようだ。  素早い動きで自分のベッドや机を探すが見当たらないようで、見つけた小瓶に何も入っていないと見ると、段々と落ち着かなくなっていった。 「逃げ」  逃げる? それとも逃げろ? 若しくは逃げたい? よく分から無いが小さく呟いたメイナードはその格好のまま部屋を出て行こうとして、ドアノブに手をかけたところで止まった。  ゆっくりとした動作で棒立ちに戻り、そしていつもと違う雰囲気を醸し出した。  思わずベッドから飛びのき武器を出すほどに異様な雰囲気だ。殺気も怒気も感じられないが、何かがにじみ出ているような。  ガンと音がした次の瞬間に、俺は武器を叩き落とされていた。驚いて後ろを振り向く間もなく後ろから投げられベッドに逆戻り。 「ぐッ」  上手く受け身が取れずに激突した、幾ら柔らかいベッドと言っても痛い。  それにしても、これでも結構な腕はあると思っていたが、まさか一瞬で武器を落とされて後ろに回られるなんて、人に可能な動きなのか? 「……」 「……」  メイナードは俺に覆いかぶさるようにして俺が着地してから逃げないように囲い、俺をじっくりと見つめてくるので俺も見つめている。いつもの笑みのないメイナードは結構端正な顔立ちをしていてびっくりした。勿体ないと思ってしまったのは仕方のない事なのか。  まぁ何かやられそうなら闇を伝って逃げればいいだけなのでそこまで心配はしていないが。  メイナードはゆっくりと俺の服に手をかけて、裂いた。 「おまっ!」  それはもう一気にビリッと、どれだけの力があるのか知らないが、まさかこうも簡単に力だけで服を裂くとは。  だがこの症状にはなんとなくだが心当たりがあった。それは以前いたパーティーメンバーの獣人から聞いた話だ。  獣人は人のようにいつでも生殖活動が出来るので万年発情期であるが、しかし月に一回呪いかと思うぐらいに高ぶってしまうことがあるらしい。獣人たちの発情期と呼ぶそれは、自分でコントロールできるようになるまでに何年もかかり、それまでは薬で無理矢理抑え込むらしい。  先ほど探していたのがその薬で、そして空瓶を持っていたのなら、答えは発情して目の前の俺に襲い掛かっているわけだ。  こんな状況ではあるが、実はちょっとワクワクしている。仲間は俺にはまだ早いとどっちもやらせてくれなかったが、ずっとしてみたかったのだ。でも店に行くのは恥ずかしいし、恋人は作る気になれなかったので機会が無かったが、こうして巡ってきたわけだ。    発情したんじゃ仕方ないと無理矢理納得させながら、テスティナークと唱えた。これはあれだ、お尻の中を綺麗にしてくれる魔法だ。一番エロかった仲間にこっそり教えて貰ったのだ。  メイナードは上着だけでなく他の部分も裂いて、俺のあそこと尻を出してしまった。相手はシャワーから出てきたままの格好なので既に布も取って裸だ。触ってみると結構な筋肉質である、身長は獣人的には平均なのだろうが人間からしたら高い。ぐっと腕を押さえつけられてしまって直ぐに身体強化の魔法を使ったが、ものすごい力だ。 「おい、流石に慣らして!」  奴は俺の股を開かせてそのまま入れようとしたので流石に抵抗したがそれが良くなかった。奴は逃がさないためなのか一気に入れてきた。ある程度中も入りやすいように先ほどの魔法で整ってはいるが、一気に入れられれば痛い。 「ぐぅぁあ」  うめき声が漏れるが奴はお構いなしだ。一気に広げられた中は快楽よりも痛さで、知らずのうちに涙が出てしまった。  メイナードはそんな事はどうでもいいとでもいうのか、俺に覆いかぶさってそのまま腰を振り続けた。 「うぁっ」  どれくらいたったのか、段々と痛みにも慣れてきて、初めて体に走る気持ちよさに気が付いた。ぐっと押し込まれると背中をビリビリとした快楽が走る。俺も知らずのうちに自分のを扱いていた。 「あっ、うぁ、きも、ちぃ」  これがセックスなのか。そんな事を考えている暇があったのは此処までだった。  メイナードは俺が嬌声を上げて更に火が付いたようで、先ほどよりも深く激しくついてきた。ってか更にでかくなっていた。入れるところは殆ど見ていないし、ライトは探し物が終わったと思ったので消しているので殆ど明かりが無い状態だ、元の大きさなど分かるわけがない。分かるのは、俺の中に入って暴れていたら更に膨張した事。 「ッ」 「あっあぁぁぃっ」  行くのは殆ど同時だった。相手の息遣いが荒くなり、何度も俺の中で跳ねながら射精している。俺も自分で出したのが嘘のように気持ちよくて、最初は訳が分からなかったが段々と一気に突き抜けた快楽がにじみ出て体を支配してくる。  出し終わったメイナードはまた腰を振った。俺も気持ちよくてどうでもよくなった。  翌日、目が覚めるとメイナードはベッドに居なかった。  終わりは唐突で、腰を振っていた動作が止まり、俺に全身の力が抜けて寄りかかって来たので何だと思ったら寝ていたのだ。俺も綺麗にしてからそのまま寝た。  よく見たらいた。普通に服を着て土下座をしていた。 「……なんて言ったらいいか分からないが、すまん、本当に申し訳ない」 「あれなんだろ? クスリが無くなってて意識無かったんだろ?」 「それは言い訳にしかならない、本当に悪かった」  昨日とはまた違った真面目な顔に、思わず吹き出してしまった。 「いいって、逃げようと思えば逃げられたけど、興味があって付き合っただけだし。それにかなり良かった、今迄禁止してた仲間に恨み言を言ってやりたいくらいさ」 「……それでもだって。責任とらせてほしい」 「嫌いいから本当に、それに俺獣人と付き合う気は無いし。差別とかじゃないけど」  それは決めていたことだ。獣人とは付き合わないと。  獣人の特性には発情期ともう一つ番というのがある。運命的な番、まるで世界が決めたようなそれが獣人にはどこかに居るらしい。元仲間の獣人もそうやって出ていった。その時付き合っていた酒場の知り合いを置いて。  獣人的には大切なことかもしれないが、そんな意味の分からない感覚で置いて行かれた知り合いは泣いていた、それを見て俺も獣人と付き合うのは止そうと決めた。だってそれまで愛していた人がいきなり知らない相手のところに行ってしまうのだ、そんなのは悲しすぎる。それに、まるで番が出来るまでの代替じゃないかって思ったその考えは今もまだ変わっていない。確かに全員が全員番に会えるわけでもないので難しい所でもあるわけだけど。  まぁ俺は付き合わないと決めているのできっぱりと断った。  その後も何度か謝ってきたり、責任を取らせてほしいとか言われたけどきっぱりと断った。別に教会で祝福を貰っているわけでもなし――祝福を貰っていると子供が出来る――、別に初めてではあったけど貴族では無いのでそこまで純潔にこだわる事も無い。  一か月言い続けて漸く諦めてくれたがしつこかった。実際は薬が無くなっていたのではなくて、新しい薬を貰って教室に忘れたらしいがどうでもいい事だ。ちょっと抜けてるところがある事なんて同室で一月もすれば分かったし。まぁ本人的に此処まで致命的なミスは初めてだったらしいけど。  そんなハプニングもあったが、夏休み前のテストは問題なく終わった。  あと数日で夏休みという日、なんでも俺の部屋にお客が来ているという。客間で待っていたのは獣人だった。どうやらメイナードにお客人の様だ。 「初めまして」  と思ったら声をかけられた。 「初めまして」 「私はナレシュと言います」  同じ黒い毛並みの彼だが、メイナードとは全く雰囲気が違った。落ち着いていて、しっかりとした感じだ。 「貴方が愚弟と同室と聞きまして、ご迷惑をおかけします」 「いえ特に」 「そうですか、優しい同室者の方の様で安心しました、宜しければどうぞ」  そういって出されたお菓子、断るのも悪いので受け取った。 「あの子もましになったとは言え、ひと時は荒んでいましたからね、何かあればいつでも部屋から追い出してくださいね」 「……」  なんと応えていいか分からないので無言を貫いた。それにしても荒んでいたとは何かあったのだろうか。 「気になりますか?」  どうやら少し顔に出ていたようだ。 「あまり人様に話す事でもないのですが、同室の方にそのせいでご迷惑をこうむらせるわけにもいきませんし、軽い概要だけは話しておきますね。弟の番はとある商家の息子なのですが、道中魔物に襲われて……その知らせを受けて荒んでしまったのです、自殺しなかっただけましだと思いますが」  これも、なんとも言えなかった。獣人にとって番とはそれほど大切な者だと、その片鱗を見ているから。  その後、メイナードが帰って来たので話は終わったが、折角なので席を外して外をぶらついて帰ったらメイナードが凄い形相で、いや形相にさせられていた。打撲痕だろうか、毛並みで地肌が見えなくても分かってしまう程の。 「先ほどはご迷惑を等と軽く言ってしまい申し訳ございませんでした。本当に心からご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」  深々と頭を下げるナレシュさんに話を聞くと、どうやら俺を襲った事を指しているらしい。まぁそのことに関しては全然気にしてないので、と言っておいた。それに一回断っているし、さっきの話を聞いてやっぱりなんて言えない。  あれからちょっとメイナードの事が気になりだしたとも。実際優しいし一緒に居ても楽しいし、それにあの時の顔がかっこよかったのだと気が付いてからは特に。でも今更な感じがするし、番がいないと分かって手のひらを反すのも浅ましく感じて嫌だと思った。 「どうか夏季休暇は私どもの村にいらしてください、せめてものおもてなしをさせてください」  と言われ、まぁいいかと受けてしまった。これできっぱりと終わるだろうと思ったからだ。  宿も気にすることなく同室にして、ナレシュさんは別の部屋だ。流石に夜一緒に他人と寝るわけにはいかないらしい。 「あの時襲ったのが俺でよかったな」  なんとなく呟いた言葉に、メイナードの耳がピクリと動いた。 「嫌味とかではなく」 「……もう脈が無いって分かったから言うけど、あの状態でも誰も彼も襲う訳じゃないんだ、お前の事が実は気になってて、って言うか好きだったからあんなに自制が効かなかったんだ。勉強を教えてくれてる時の笑顔とか、普段はツンと澄ましてるのに、俺には優しくしてくれるし、そのギャップが……な。良かったらそこまで頑なな理由聞いてもいいか?」  流石に驚いた。  誰でもよかったわけじゃないのか。    俺も話してみた。獣人の知り合いがいた事と、そして番の事。    それから、メイナードに番がいないと知って、それで自分にもと思ってしまった事。でもなんというかこんな浅ましい考えが嫌で、そんな奴と好きになった人が付き合うのは、たとえ自分でも嫌だと。 「……それでも、いやその話を聞いてもっと好きになったな。俺には番もいないからそんな事にはならないし、幾らナタールが自分がダメだと思っても俺は好きなんだ! だから付き合って欲しい、あと結婚して!」 「あとがおかしいだろ、だけど本当にいいのか? だって」 「俺の事好きなんだろ! だったらいいだろって言える立場じゃないのは重々承知だけど、責任とか関係なく君が好きなんだ、だから」 「……分かった。俺も好きだから」 「じゃあ!」 「付き合う」 「よっしゃあああああ」 「煩いぞ」 「ごめん……あの、キスしていいか?」 「今更キスで口ごもるなよ」 「……あの時の記憶ないから」 「あー、でもそう言えばキスは初めてかも、あの時はしてなかった気がするな」 「じゃあ」  腰に手を回されて、上を向くと唇が触れ合う。 「嫁に来て」 「取り合えずお付き合いからで」  その後、家に帰ったメイナードは家族総出で俺を犯したことをボコられて、普通に付き合うことになったと知れたら盛大にもてなしてくれた。  学園には三年間付き合うことになったが、俺よりも卒業が危なかったのはやっぱりメイナードだった。  その後は俺も村に行って、そのころには嫁になる事も受け入れて、仲間にも報告した。村の近くの街のダンジョンにもたまに足を運んでいる、勿論メイナードと一緒に。    まぁなんだかんだと幸せだ。

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