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第10話

「待ってた……ずっと。死にたいって、そう思いながら、柊一が引き止めてくれるのを……その腕で、引き上げてくれること」 「亨」 「うれしかった。僕だってわかってくれたこと……抱きしめてくれたこと」  夢、ではなかったのだ。亨も、あの場所にいたのだ。今野はそっと口付けをして微笑んだ。 「早く元気になってくれよ。そうしたら……一緒に暮らそう」  亨は、息を呑んだ。首を振ろうとして、それから、静かに頷いた。涙が止まらない。 「大事だから……何よりも」 「柊一」  点滴の管を繋げたままの腕から、指へと今野は手をすべらせ、そっと指を絡ませた。慈しむように亨を抱きしめながら、愛している、と誓約のように耳元で囁いた。  その瞬間。今野の腕時計の秒針が動き始める。それは、二人にかけられていた魔法がやさしく解かれて、同じ時が刻まれ始めた証だった。   了
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コメント
6件のコメント ▼

あの場所で二人の魂がすれ違ったのは偶然ではなく運命だったのでしょうか。 相手への好意が高まる瞬間が現実の世界では重ならなかったことも物語の切なさを後押しして……しかし、最後には気持ちを交わすことができて本当に良かった。 切なくも美しいファンタジーでした。素敵なお話をありがとうございました。

あじさいさん、どうもありがとうございます! ファンタジーと仰っていただけて本当に嬉しいです。もっと二人の現実での繋がりを書き込みたかったのですが、伝わっているのなら幸いです。温かいお言葉、どうもありがとうございます!

まさに黄泉比良坂。時の流れも体感とは違うその場所へたどり着く意味。情景と色の浮かぶ素敵な物語でした!

莉楓さん、情景と色の浮かぶ、というお言葉、身に沁みて嬉しいです! 貴重なお時間をどうもありがとうございます。そしていつもいつも気にかけていただきありがとうございます!

honolulu 2017/12/16

黄泉平坂物語 不思議な空間に迷い込んだその先にお互いの心を通わせる場所、そこが黄泉へ降りる坂。なんとも不思議な格調高い始まりに思わず引き込まれました。止まった時の間に起こる、腕時計というもよく効いています。

honoluluさん、お読みいただきありがとうございます! 腕時計は意識して書いていたので、そこをお褒めくださり、とても嬉しいです。 初めてのファンタジーなので苦労したのが、honoluluさんのお言葉で報われました。 いつもありがとうございます!(*^^*)

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