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第25話 灼熱

 寝る前に、後ろの孔に軟膏を塗った。一度裂けたら、治るまでしばらくお勤めが出来ない。いや、出来ない事はないけれど、出血する。  血液を(けが)れと感じる参拝者様は多くて、幼い頃失敗をすると、先代にきつく叱られた。  今日はもう遅いから、明日早く起きて、先代に許しを乞おう。  笹川さんの敷いてくれた布団に入って、複雑な気持ちで瞳を閉じた。     *    *    * 「何。お勤めが出来ない、と?」 「はい。申し訳ないです」  僕は深々と平伏し、先代の怒りを思って悲しくなった。 「昨日のお勤めは、政臣さんとだけだっただろう。かの人に、血の穢れを見せたのか?」 「いえ」 「では何故、そのような事になった」  笹川さんの事が知られたら、政臣さんに嘘を吐いている事を明かされてしまう。  一度吐いてしまった嘘は、どんどん膨れ上がっていくばかりだ。そう知りながら、僕は先代にも嘘を吐いた。  先代にだけ聞こえる小ささで、告白する。 「その……張型で」 「何だと?」  先代の顔が、醜悪なものでも見るような表情に歪む。  ああ、寝所以外でのお勤め、しかも夫や参拝者様とでないお勤めは、穢れなんだ。  僕は少しずつ飲み込めてきた。 「何て事だ。充樹。お勤めは、結婚したら普通は夫とだけするものだ。参拝者様を思う、お前の気持ちを尊重してきたが……やはり、普段のお勤めは廃止しよう。慣れなさい。普段のお勤めがない事に。それを寄越しなさい」 「えっ」  思わぬ言葉に、一瞬ためらう。  先代は、厳しい口調で繰り返した。 「出しなさい。没収する」  普段のお勤めがなくなって、張型も没収されたら、どうやって自分を慰めたら良いんだろう。僕は青くなって俯いた。  三たび、先代は口にする。 「早く出しなさい。お前はもう、人妻なのだ。そんなもので遊興にふけっていては、いつまでも入籍は許さないぞ」  その言葉で、決心がついた。  政臣さんと、早く本当の夫婦になりたい。  僕は震える手で、白い木綿(もめん)の巾着に入った張型を出して、座卓の上に置いた。  先代はさっとそれを奪い取り、小袖の袂にしまってしまう。 「政臣さんには、お勤めが出来るようになるまで、吉日が出ないと言って来ないで貰う。治るまで、お勤めはさせない。心しなさい」 「はい」  僕は平伏して、出て行く先代を見送った。  ああ、ついにお勤めがなくなった。そう思うと余計に、後ろの孔が、微かな痛みを伴ってひくつく。  治るまで五日はかかる。それまで、政臣さんとも会えないなんて。  僕は座卓に伏した。 「充樹様。大丈夫ですか?」  肩がびくりと跳ねてしまう。僕はのろのろと顔を上げた。 「十分後に、厠に来い」  そう囁いてから、再度訊かれる。 「如何されました?」 「大丈夫、です。笹川さん」 「は」  短く返事して下がり、笹川さんは部屋を出ていった。厠に行ったんだろう。  今、疼く身体に蓋をしてくれるのは、笹川さんだけだという皮肉に、僕はすぐに立ち上がってお勤めの間に向かった。  木枠の部屋に近い所にあるそこには、普段は誰も控えていない筈だと、見当をつけて。     *    *    * 「んっ……ふ、ん」 「ああ……充樹様」  笹川さんが、頭を撫でてくれる。  政臣さんの時みたいに、心が暖かくなる事はなかったけれど、袴を脱ぎ落とした下肢の先端は潤った。  立て膝を着いて、僕は笹川さんの雄を銜えていた。吸い上げながら出し入れし、幹を両手で扱くと、笹川さんもすぐにしょっぱい先触れで先端を濡らす。  少々荒っぽく首を左右に振ると、快感の吐息が漏れた。 「充樹様……飲んでください……っ」  そう言うと、後頭部に手が添えられ、喉奥を突き出す。 「ぐっ・んっ」  幸い昼餉の前だったから、せり上がってくるものはない。  僕も喉奥を締めて、きつく吸い上げた。 「っく……充樹様っ!!」  先端から独特の匂いと味の精液が溢れ、僕はその慣れたものを飲み下す。  条件反射で、達してもなお萎えぬ雄を見ては、後ろの孔が期待にひくつく。  我慢出来ない。張型もないかと思うと、余計にそこが求めていた。  僕は蓋の上に手を着き自らお尻を向けて、笹川さんに強請(ねだ)っていた。   「挿れてください……っ」  笹川さんは、鼻で嗤った。 「傷が治らなくては、先代が怪しむだろう。飲ませてやっただけ、有り難いと思え」 「いえ。潤滑油で、たっぷり慣らしてあります。血で穢す事はありません」  喉の奥で、可笑しくて堪らないといった風に、くくと嗤いが漏れた。 「そうか、そうまでして男が欲しいのか。さすが予備様だな。良いだろう」  言い終わらない内に、背後から灼熱が荒々しく突っ込まれた。 「あっ・あん・ひ」  政臣さん……! 脳裏に政臣さんを想い描いて、僕は絶頂を目指して腰を振った。

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