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第5話
私は運命とはなんて残酷なのだと思った。
私はてっきり、ガブリエル様に看取られながらこの世を去れると思っていたのに。
私の愛する人は、皆、私を置いていこうとするのだ。
2ヶ月が過ぎ、3ヶ月が過ぎ、食が細くなり、動けなくなり、ベッドに寝たきりになったのが6ヶ月目、時折意識が混濁し始めたのが8ヶ月目であった。
屋敷中の皆が、彼が1年を待たずに天へ召されるのだとうすうす感じていた。
どうにか9ヶ月目になったある日、4日の昏睡状態から意識を取り戻し、やけにはっきりとしたお顔をガブリエル様はしていた。
「今日はなんだがお顔の色がよろしいですね」
「…ああ…。頭がすっきりしてるんだ」
「そうですか。それはよろしゅうございます」
「…アラン、お願いがあるんだ」
「はい、何でしょう?」
「お前のショコラが飲みたい…。お前が入れたあの滑らかなショコラが、一番おいしい…」
「ありがとうございます、ガブリエル様。貴方のお口に合うようにと日々、勉強した甲斐がありました」
まるで、元気な時のようなやり取りに、私は内心とても安心していた。
サイドボードの上に、ガブリエル様のご子息が摘んできた花を瓶に差しながら、私は何気なく聞いた。
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