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episode‐1

夢を見た。クリアになっていく音を聞く。 どこかの公園のベンチに横になっている。 暖かい日差しが(まぶた)を通して伝わってきた。 「・・・う。・・優。」 微睡みの中でその声に応えようとしても届かない。 もどかしくて変な気分だ。 次第にフェードアウトしていく世界。 どうすることもできずにただ見ていた。 「おはよう!!」 「お、優。おはよう。」 「…はよ。」まだ起き切っていない体を動かし、教室に入る。 高校に入って最初にできた友達である一哉(かずや)那智(なち)にあいさつになっていない言葉を返す。 「今日の現代文、ぐっちいねーから自習になっかな!?」 文字通りの笑顔を張り付けて一哉が寄ってくる。入学した時からこんな感じだから、もう慣れた。 「さあな。」 適当に返す那智もきっとそうだ。 「てかなんでいねーの?」 「さあ。」 「は?あのぐっちが休むとか、絶対病気だろ!」 「…盲腸らしい。」このまま黙っていればずっと騒ぎ続けるであろう一哉に那智が返した。一瞬の沈黙。 「っ、はははははは!!」 あわよくば学校中に響き渡るくらいの声量で一哉が笑う。ここまで笑われるぐっちが可哀そうに思えてきた。 案の定、クラスが静まり返った。のもつかの間、すぐに騒ぎ出した。 盲腸と聞いて何が面白いのかずっと笑い続ける一哉と呆れた様子の那智を見ているうちにチャイムが鳴った。 (自習か、、寝よう) ぼんやりとそんなことを考えながら席に着いた。 やけに大きい音を立てて扉が開く。 「ん、あいさつ。」 気怠そうに教卓に手をつく。 「あ、今日木村先生じゃん」「ぐっちなにしてんだよ」 「せんせー、今日ぐっちはどうしたんすかー?」 あの後もずっと騒ぎ続けていた一哉が木村に聞いた。木村は横目で一哉を見て、自然と静まる生徒たちに言った。 「…病気です。」 一瞬、目が合った。 その瞬間、なぜか胸が締まるような感覚に陥った。 (なんだ、これ・・・) 「出欠とるぞ。相田、飯崎・・・」 よくわからない感情に苛まれたせいで、その日の授業はまるで手につかなかった。 放課後、名前がつかないこの感情を解決させよう。そう思って、なんとなく木村を探した。 校舎を一周してもなかなか見つからず、今日はあきらめようと考えていた矢先、その後ろ姿を見つけた。 「木村!」 「あ?」 まったく教師らしくない返事をして、木村は振り返った。高級そうなスーツを着こなす姿は同性の俺から見ても十分かっこよかった。 呼んだはいいもののなんて言い出そうと戸惑っていると木村は脇目もふらずにそのまま歩き出した。  (っ、もういいや) 「あの、前に、会ったことありましたっけ・・・? 俺、何となく覚えてる気がするんです」 言った途端、木村は一瞬驚いたような表情をしてすぐにまた戻った。 「あるわけない。早く帰れ。」 吐き捨てるように言った後、木村は早足で去ってしまった。 (意味わかんねぇ…) 反対方向に歩き出した、と思った瞬間。 肩を思い切り誰かにつかまれた。 「来い。」 返答も聞かずに木村は俺の腕をつかんで歩き出した。最初から返事なんて求めていなかったとしか思えない。 ふと、つかまれている腕を見た。一哉や那智といる時とは違う感覚が体中を走り抜けた。何となくずっと見ていると木村が振り返った。そしてやや乱暴に腕を離した。 (なんか、違う) そう感じた頃にはもう遅かった。 視界が狭くなって浮遊感を覚える。 (やべ、、) 最近夜更かししすぎたか。ろくでもないことを考えながら意識を手放した。 「…う。…優。」 あの夢に出てきた同じ声が聞こえる。 引き戻されたように現実に戻った。 「いーち、にー、いちにさんしっ」きっと野球部だろう。外からかけ声が聞こえる。  (学校か、、、) ゆっくりと体を起こす。入ったことのない場所だった。少し埃っぽい。 「やっと起きたか。お前、突然倒れんなよ。」木村は座っている椅子を回転させて文句を言う。 「は?」 「覚えてないのか?ついてきたと思ったら倒れてたんだよ。ったく…」 言いながら木村は眼鏡を取り、髪をかき上げた。その仕草に目を奪われる。しかし、ずっと見ていればまたキレられそうな気がしてやめた。 そういえば、誰がここまで運んできたのだろう。170をとっくに超している優を運ぶのは簡単じゃない。 「そういえば、誰がここまで運んできたんですか。」 「俺だよ。バカか。」よく見れば、うっすら汗が滲んでいる。 「何もバカまで言わなくても…」 「あ?」 明らかに不機嫌な声で返してきた。 「何でもないです」 それきり木村は古そうな本を読み始めた。しばらく何も考えず、ただその場にいたが意味がないと思い、出ることにした。 「俺、帰ります。迷惑かけてすみませんでした。」 「ん。気をつけろよ。」 「…はい。」 ドアを閉めて歩き出す。 (あ、理由聞くの忘れた) もう一度戻ろうかとも思ったが、明日にすることにした。 (ぐっち、明日も休むかな) なんとなく、そう思った。

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