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第2話

寝耳に水な巴弥天の言葉に一瞬だけ間をとってから、大平はもう一度今度は逃さないように力強く腕を掴む。 「本気で言ってるのか」 「俺は冗談で、わざわざ大平を傷つけようとは考えないな」 巴弥天は今度は腕を払わずに、じっと視線を降ろして大平を表情を変えずに見返す。 「大平が外出許可も月に1度で、山を降りても遠距離恋愛する彼女もいないと嘆いていたから付き合っただけだから、山を降りる大平にはもう必要ないだろ」 真剣な表情で諭すように告げて、ベッドの横に座ると弟でもあやすかのように、茶色のとっ散らかったように跳ねる髪を撫でる。 確かに始まりはそうだった。 巴弥天に愚痴って、この寮から脱走しようとしていた大平に、それなら性欲の捌け口くらいにはなると提案してくれたのだ。 てっきり自分に好意があっで付き合ってくれたのかと思っていたが、そう考えていたのは大平だけだったのだろう。 すごく大事だと思っていたぶん、裏切られたという気持ちでいっぱいになり、涙が出そうになる。 「ハヤテ…………ふざけんなよ」 低い声が漏れてカッと頭が沸騰したように熱くなり、大平は掴んだ腕を捻って巴弥天の身体を引き上げて馬乗りになる。 「ふざけてはいない……」 巴弥天の顔は驚いたようでもなく、淡々と大平の憤りを受け止めている。 「必要ないとか、俺には、ハヤテはそういうんじゃねえから」 睨みつける目からはらはらと露が垂れ落ちる。 もっと楽しい付き合いで大事なものだと思っていたのは、きっと大平だけだったのだ。 好意でしてくれてるだなんて、ただの妄想だった。 「でも人は変わるよ。因果が変わるから……ここにいた大平は、山を降りたら変わる。俺には分かる」 「こ難しいこと、俺にはわかんねえ。俺が変わるとか決めつけるなよ」 大平はきちんと締められた巴弥天のシャツのボタンを、そのあわいに指を差し込んで引きちぎるように引き上げて引き締まった身体を剥き出し、首を何度も振った。

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