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第6話「涙の理由」
「碧 どうした?」
「コウ?……あ、来てたんだ」
いつものように石垣に座り海を見ていた碧人が、今にも風景に溶けて消えていきそうな気がして怖くなる。
「碧、具合大丈夫か?」
別に具合が悪そうに見えたわけじゃない、ただ今にも泣きそうに見えたのだ。島に独りで暮らす恋人にゆっくりと会えるのは長期休暇くらいだ。そして、つれない恋人は自分から島を出て会いに来てはれくれない。
『会いたければいつでもここに来て、僕はどこにも行けないから』と碧人は笑いながら言う。来るものは拒まず、去る者を追わない。だからこの関係は俺が諦めたら終わりになる。
分かっている、想いの丈が違うことくらい。それでも少しくらい求めて欲しい、そう思うのは我がままなのだろうか。
「具合?悪くないよ」
「そうか……何を見ていたんだ?」
「一番星がそろそろ輝きだすかなと思って」
「星に願いをか……碧は何を願うんだろうな」
「知ってるでしょう」
そう言う碧は泣きそうな顔をしている、本当にこのまま空に溶けていきそうだ。見つめていたら、自分んの目頭からつつっと一筋の涙がこぼれた。
「コウ、僕と同じだ」
「え?」
「僕の気持ちとコウの気持ちが呼応している、僕は今、泣きたいくらい幸せなんだ」
どういうことだ、たまに会うだけで幸せ?会えなくて悲しいのはやはり俺だけなのかと、目の前の恋人の顔を見つめる。
「風の中にも花の香りにも、いつもコウがいる。一緒にいる時に、二人で見たこの夕陽にも、僕は泣きたいくらいコウが好きだ……」
ああ、だから。もう、だから、手放すことなど決して出来ないんだ。愛おしいこいつの小さな我がままを聞くくらい、なんてことないと思ってしまった。
自分の涙が、幸せの涙だと知ったから。
「愛は碧より出でて」より
(未公開作品)
昊輝×碧人
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