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勇者は突然現れました。
「この大魔王エルフィに逆らおうとは身の程をわきまえぬ者だ。だが度胸だけは褒めてやろう……!」
そう虚勢を張る俺(21歳魔王)の足はふるふると震えていた。
おい! しっかりしてよ俺の足!
あ、でもよかった……。勇者は気づいてないみたいだ。俺、演技だけは上手いからな。
「お前の今までの悪事、許すことは出来ない! お前を倒して盗んだものは全て返してもらう!」
仕方ないんだよ!
魔王って強盗して民を怖がらせるのが仕事なんだから!
俺だって出来るならそんなことしたくない。
だから出来るだけ裕福な貴族しか襲わないようにしてる。
でも魔王の義務だから止めることは出来ないんだよ……!
まあ、俺は弱いから全部部下にやってもらってるけどね!
だ、だからそんなに睨んで来ないでよ!勇者怖いよ家に帰りたいよもう!
だってあれどうみても190cmは超えてるよ!
俺なんて163cmしかないのに勝てるわけないよ!
……こんなことなら部下に任せて家で大人しくしていればよかった……!
「さすがにまだ勇者来ないでしょ」とか思ってた今朝の俺のばかやろう!
「さあかかって来るが良い。私が魔界の王たる所以を見せてやろう……!」
「望むところだ!!」
「ファイアーソードブレーク!!」
うわわ、わわわわ、勇者斬りかかってきた!! しかも技名叫んでるし!
俺も闇魔法唱えないと!
ああもう間に合わない!
ああ、天国の残酷無慈悲で魔王の鏡であったお父さま、この世で一番の美貌を持つ悪女と名高かったお母様、俺はこれまでのようですーー
俺は全てを諦め目を閉じた。
そしてーー
ーーバタンッ
あれっ?
なんか倒れるような音と衝撃が…
目を開けると勇者は俺にのしかかって苦しそうにしていた。
どうやら斬りかかる途中で倒れてしまったみたいだ。
な、な、なに!? どうしたの!? 体調悪いの!?
……う……お、重い。とりあえず俺の上から退かそう。
「う〜〜!! む、無理だ」
持ち上げようとしてもピクリともうごかない。
「ううううう〜!!」
ジタバタ暴れても無駄だ。
ほぼ21年間引きこもり生活を送ってたんだからそりゃそうかな……。
でも仮にも魔王なのにちょっと虚しい……。
「は……っ……はぁ……」
あ、勇者大丈夫かな……苦しそう……。
見ると勇者は頰を蒸気させて熱に浮かされたように俺を見ていた。
ん? この症状、本で読んだことあるぞ……?
確かサキュバスの呪いだったっけ?
サキュバスに噛まれた者は激しい欲情に駆られる、とかいう……
「……もう……我慢出来ない……」
勇者は熱を持った視線でこっちを見てくる。
……ん?…………てことは俺、相当まずい状況に置かれてるんじゃないか?
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