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片恋→フラグレンス
ドキッ、とした。
屈んだ時、先生から漂ってきた香りに…………初めて心臓が痛いくらい跳ねた。
相手は同性……"男"……なのに……。
「せんせー、俺、コーヒーが飲みたいです!」
「……はぁ? ……ったく、紅茶なら良いぞ」
「紅茶?」
「俺が紅茶を飲んでるから。お前のはバックの二番目な」
「ぅえええええ!?」
そう言いながら先生は紅茶だけど、新しいティーバックをセットして一番目のをくれた。
手渡される時平然とお礼を言いながら、俺は近づく先生の香りに常に心臓を跳ねさせている。
そして俺は渡されたマグカップの紅茶を「ふーふー」と冷ましながら、ハムスターの檻に近づいた。
切られた細い紙の山がモゾモゾ動いて、その存在を隠している様で隠していない。
「ハムハム~~今日も来たぞー」
「野分はハムスター飼わないのか?」
「俺んち、ペット飼えないし、動物は好きだけど飼育は大変でしょ? だから……ここで癒しのハム補給です!」
「ふ~ん? ま、良いけど」
放課後、俺は生物準備室にハムスターが見たいからと言って通っている。
まぁ、ペット欲しいけど飼えないのは事実なのだが、真の目的は先生だ。
生物の先生達は何だか自由で、ハムスターの他にリスとトカゲを飼っている。
ちなみにハムスターは触らせてもらえるけど、リスは凶暴だからお触り禁止だと言われている。
実際、リスは二匹居るけど檻は別々で、一匹の尾は短い。……噛み千切られたからだ。
「今日は出てきてくれないのかぁ? ハム~~」
紅茶を飲みながら待っていたが、面会拒絶を食らってしまった。
やはりこの前無理矢理掴んで柔肉を堪能した事が、響いているのだろうか?
んでも俺はハムに振られても、先生の下に通う。
ハムより俺は先生に触れたいし、真の目的は先生だからだ。
そして俺は飲み終わったマグカップを返し、生物準備室を出た。
変わらない日常、距離、匂い……俺は満足していた。
しかし俺は卒業間近の春が近づく夜、職員駐車場でやらかしてしまった。
この日は生物準備室のハム檻やリス檻やトカゲのガラスケースの掃除を手伝っていて、遅くなったから特別に先生に送ってもらう事になったんだ。
俺の家は徒歩圏内だから断ったんだけどさ……。
俺は先生の後ろを着いていき、先生が車のキーを開けている為に立ち止まった時、闇にあの香りが強く混ざった気がして……
理性がトンで先生の背中に身を寄せて、閉じ込めていた心の檻が開いた。
「―……先生が……好き……」
「……のわ……き?」
……俺は……逃げた。
「嘘だ」も「冗談」も「忘れて」も……何も言えなかった。
先生が俺の事を呼ぶ……確認する様な声に、動揺と羞恥と後悔が混ざって……混ざって混ざって……。
夜の闇の中一人、家まで全力疾走して自分のベッドに潜り込み、頭から布団を被り震えた。
バクバクとして冷たい、嫌な汗が噴出して……
次の日から、俺は一人で生物準備室に行けなくなった。
そして何も修復出来ないまま……
俺は高校の卒業式を終えた。
手に持つ卒業証書が入っている筒は軽い筈なのに、俺には重い……。
「―……聞けなかった……なぁ……」
証書を緩く振りながら思わず呟いた言葉は、俺の告白に対する先生の答えか、使っている香水の名前なのか……。
「香水、探してみようかなァ……」
聞けないからさ、内緒で探し……
「……卒業、おめでとう野分」
「せん……せ……」
考えの途中で俺は後方から突然掴まれた手首に驚き、身体が跳ねて無意識に振り向いた。
俺を掴んだのは、先生……で……。
現状に体温を上昇させるより、降下した俺の顔面を見て先生が緩く笑い……俺を掴む手が強くなる。
逃亡を許さない気だ……。
そして先生の口がゆっくり動いて…………
「……あ~~……俺も……野分の事、好きだ……ぞ」
「!?」
言い終わると先生は強く引いて、腕に……匂いに俺を閉じ込めた。
「今度……生物準備室じゃなくて、俺と動物園に行かない……か? 動物、好きだよな?」
「……~~せんッ……せ! 行く!! 俺、どこでも行くから!」
―……俺は先生に閉じ込められた事で香りが移らないかなと……同じ香りを纏いたく、強く抱きついた。
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