「話とはなんだ、鈴懸」 　二人は人気のない場所までやってきた。白百合は舐めるようにして鈴懸を見つめながら、愉しげに微笑んでいる。彼女のそんな表情の意味をわかってしまっている鈴懸は、苛立ち混じりに舌打ちをした。 「……儀式の内容、おまえわかってただろ」 「なんだ、そんなことで妾に怒っているのか？」 　白百合は儀式に「男が必要だ」と言っていた。それを思い出した鈴懸は、白百合が儀式の内容を知っておきながら鈴懸にあの旅に行かせたのだと、憤慨していたのだ。鈴懸にとって辱め以外のなにものでもないあの儀式をこの女がわざとさせたのかと思うと、腹が立って仕方ない。 「いいじゃないか、まともに人間に知覚もされず、力もなくなって、女と交わることができなかったんだ。溜まってただろう？」 「……ざけんな、あんなくだらないこと俺はしたくない」 「くだらない？　ふふ、いやにあの儀式を否定するじゃないか。ムキになって……そなたらしくない」 　白百合はくすくすと笑いながら、鈴懸ににじり寄る。つうっと細い指先で鈴懸の体をなぞっていき、さらに舌でちろりと耳たぶを舐める。不愉快そうに眉を潜めた鈴懸に笑いかけると、耳元で囁いた。 「重ねてしまうんだろう？　さみしがりやな咲耶とあの青年――それに、自分自身を」 「――ッ」 　白百合の言葉を聞いた瞬間――鈴懸は咄嗟に白百合のことを突き飛ばす。体勢を崩しながらも白百合はにたにたと蛇のように笑って、鈴懸に畳み掛けるようにして言う。 「人間に信じられることもない、姿を認めてもらうこともできない――そなたは、ずっと長い間孤独に苦しんできた」 「――黙れ！　邪神に堕ちてまで人間の信仰を得ようとしたてめえに、俺のことをとやかく言う筋合いはねえんだよ！」 　ぎろり、と白百合を睨みつけて、鈴懸は踵を返しその場を去っていった。白百合はしばらくその後ろ姿を見つめて――がくり、と崩れ落ちる。 「……ふん、消えるよりは堕ちたほうがマシだろう。鈴懸――おぬしは一生善人ぶって苦しんでいればいい」 　恨めしく、おぞましく、そんな瞳で鈴懸の跡を見つめ……そして、白百合は、壊れたように嗤う。 　その姿は、どんな亡霊よりも、醜かった。