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「……ッ、クロ!」  俺は半ばパニックになって塀から上半身を乗り出して下を見た。  結構な高さから飛び降りたというのに、クロは少しもよろけることなくしっかりと地面に着地した。  けれど無事着地できても状況は最悪だった。 「グルルルル……ッ」  グーロが唸りながら茂みから姿を現し、クロをあっという間に取り囲んだ。 「クロ!」  身を乗り出しそうな勢いで前のめりになる俺をアーロンが慌てた様子で脇から抱えた。 「ちょっ、落ち着けって!」 「落ち着いてられるか! このままじゃクロが……っ」  言いながら最悪な事態が頭によぎって、涙が溢れてきた。  きっと賢いクロのことだ。俺達の作戦会議を聞いて自分が囮になればと思ったのだろう。 「っ、クロ、死んだらやだ……ッ」  ついに嗚咽を漏らし始めた俺に、アーロンはぎょっと目を剥いた。そしてガリガリと頭を乱暴に掻いてから舌打ちをした。 「……っ、あぁ! もうクソッ!」  苛立った声でそう言うと、唐突に俺の肩をぐいっと強く掴んで後ろへと押し退けた。  勢いよく押し退けられた俺はその場に尻餅をついた。 「いたたた……っ」 「……大丈夫か?」  すぐさま飛んできたドゥーガルドは俺の肩を支えながらキッとアーロンを睨みつけた。 「……貴様! ソウシに何をする!」  しかしアーロンは振り向きもせず、気付けば塀の上に登っていた。  そして、 「ジェラルド、できるだけでいい。援護を頼む」  それだけ言い残して、塀を勢いよく蹴って空中に飛び出した。 「アーロン!」  名前を叫んで塀から顔を出して下を見た時にはすでに着地しており、グーロから少し離れたところで剣を構えていた。  グーロはまた新たに現れた敵に一層警戒心を強め、唸りを低くした。剥き出しになった牙は鋭く、骨さえも簡単に食い砕きそうだ。  二対十二。いくらアーロンとクロが強いとはいえ、あまりに分が悪い。  いつ飛び掛かってもおかしくない緊迫した空気にゴクリと唾を飲む。 「とりあえず、二、三匹ならすぐに仕留められそう」  いつの間にか弓を構えたジェラルドが言った。 「でも僕が攻撃した瞬間、クロとアーロンを残りが一斉に襲うだろうね」  ジェラルドの淡々とした予測に、腹の底がスッと冷えた。  どうにかしてアーロンもクロも無傷で助けられないものかと考えていると、 「ウォォォン……!」  突然、クロの遠吠えが辺りに鳴り響いた。  けれど以前聞いた悲しげなものではなく、鋭くどこか威嚇にも似た響きを持つものだった。

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