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 驚いて、地面に突き刺さった刃に映る自分の間抜け面から剣の柄、そしてそれを持つ手を伝い剣の持ち主を見上げる。  そこには不機嫌な顔をしたアーロンがいた。   「……ッ、あ、あぶねぇじゃねぇか! なに目の前に剣を刺してんだっ」  こちとら異世界の一般人だぞ!    こっちに来て見慣れたとはいえ目の前に鋭い刃物があるというのは心臓に悪い。 「うるせー、目隠しだ。お前はあいつの姿を見るなっ」 「はぁ? なんだよそれ」  意味が分からず俺は顔を顰めた。 「言葉の通りだ。あの犬を見るな。お前はすぐに絆されて流される。絶対さっき『クロ、かわいそー。おれがよしよしなでなでしてあげるねー』って思っただろ」 「思ってねぇよ! というか変な声を出すな!」  器用に裏声を使って全く似ていない俺のマネらしきことをするアーロンに苛つきつつも、絆されていたのは事実なので内心ドキッとした。  アーロンがハッと吐き捨てるように鼻を鳴らした。 「変な声って、お前があの犬に話し掛ける時の声をそのまま真似ただけだ。さすがにあの鼻の下を伸ばしたデレデレの不細工な面までは真似できなかったけどな」  ひどい言われよう! 「不細工な面とか言うな! つーか、そんな気持ち悪い声出してねぇし!」  かつてはクロの可愛さにデレデレしていた自覚はあるので表情のことは完全に否定できないが、声は絶対あんな気持ち悪いものは出していないと断言できる。  しかしここまで悪意しか感じないものまねを見たのも初めてだ……。 「うるせぇ、事実なんだから仕方ないだろ。というかお前本当に流されやすすぎ! 昨日あの犬にされたことを忘れたのか? 馬鹿なのか? 学習能力ってものを身につけろ」 「う……っ」  ひどい言い様だが確かに一理あるので言い返せない。  可愛いモフモフ姿のクロに心が絆されているのは事実だし……。  反論できない俺に、アーロンが大きく溜め息を吐く。 「しっかりしろよ。そんなんだから川にもチンコにも流されるんだよ」 「いや、チンコに流されるってどんな表現だよ!」 「言葉の通りだ。チンコを入れられたらすぐにアンアン啼いてとりあえずなんでもかんでも頷いて相手の要求を受け入れるだろ」 「え!? 俺そんなすげぇ頭悪い印象持たれてんの!?」  心外なんですけど! そんなことねぇし! ちゃんと毅然と断るし! アンアン啼いてとりあえず頷くとか……、うん、たぶんない、はず……。  記憶を思い返せば思い返すほど断言できなくなってしまう自分が情けない。

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