35 / 156

第35話 やるっきゃない!

「うっがぁ……っ!」 低い呻き声が広間に響いた。 それはアーロンたちではなく、魔王のものだった。 どうやらアーロンたちの攻撃がきいたようで、魔王がその場にうずくまった。 やった……! 勝利の兆しが! 暗雲が立ちこめていた俺の未来に一筋に光が差した。 しかし、 「……いや、まだだ。お前はまだいける」 慶介がそう言うと、手の中の闇色の玉から雷のような光が放たれた。 そしてそれは魔王の元に落雷した。 「うがぁぁぁぁ……っ!」 魔王が呻き声を上げた。 とどめを刺したようにしか見えなかったが、光を受けた魔王は何とゆらりと立ち上がったのだ。 「邪神様のお力が……! 漲る! 漲ってきたぞ!」 咆哮のような声でそう叫ぶと、次には今まで以上の速さで大剣を振り回し始めた。 これにはアーロンたちも驚いており、凶暴な大剣の切っ先をかわすだけで精一杯といった様子だった。 そ、そんな……! 希望の光が絶たれたような気持ちになった。 今の状況では、アーロンたちが負けるのも時間の問題かもしれない……。 俺は辺りを見回した。 何か、何か少しでもみんなの有利になるような状況を作れないか。 ふと、慶介の手にある暗黒の玉が目にとまった。 ……あれは一体なんなんだ? そう考えた時に、ひとつ考えられるのは、邪神である慶介の魔力か何かなのではないかということだった。 あの玉から放たれた光を受けた魔王の復活具合がその証拠だ。 つまり、邪神であるアイツは、魔王やモンスターに魔力を与えることができるのではないか。 ここに着くまで簡単に倒せていたモンスターが強くなったのもそれなら納得がいく。 慶介はずっと戦いが始まってから、あの玉を掲げていた。 俺と話す時でさえだ。 しかも、こちらを振り返ることもなかった。 そのことから、もしかすると、魔力の供給は相当な集中力を使うんじゃないという予測に至った。 なら、奴の集中力を乱せば、何らかの隙が生まれるんじゃないか。 そこまで考えて、いやそこまで上手くいくわけがない、と自分の安易な考えに首を振った。 「……っ!」 魔王の大剣がドゥーガルドの腹部をかすめた。 「ドゥーガルド!」 幸いにも致命傷のような深い傷ではないようだが、その表情は苦しげだ。 戦況はますますこちらが不利になっているのは明らかだ。 ……俺の予想が当たってるかなんか分かんないけど、やってみるしかない! 俺はギュッと拳を握った。

ともだちにシェアしよう!