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第32話

 優弥が次に意識を取り戻すと、浴室で千歳に身体を洗われている最中だった。  中のものをキレイに掻き出すという名目で、散々また泣かされ、優弥がぐったりしたころ、千歳に抱きかかえられて千歳のベッドへと連れてこられる。 「大丈夫? 優弥」  うつ伏せでベッドに沈み込んでいる優弥の頭を優しく撫でながら、千歳が心配そうに聞いてきた。 「……腰から下の感覚がない」 「無理させちゃったかな?」  そう言いながら、千歳が腰を擦ってくれる。 「そろそろ、身体起こせる?」  優弥がしばらく心地よさに浸っていると、千歳が聞いてきた。 「うん、なんとか」  そう答えて、優弥はゆっくりと身体の向きを変えベッドの上で身体を起こす。  それを見て千歳は安心したのか、優弥の額に軽くキスをするとベッドから抜け出す。 「ちょっと待ってて。今、飲み物持ってくるから」  そして、千歳はそのまま部屋を出て行った。  しばらくすると、マグカップを持った千歳が部屋へと戻ってくる。  ベッドの端に腰を下ろし、カップを一つ優弥へと渡してきた。 「これ……ミルクティー?」  受け取った優弥は、カップから漂うミルクの香りにそう聞いた。 「うん、常温になってるから。飲んでみて?」  千歳に言われて、優弥は一口カップの中身を口にした。 「……美味しい」  優弥の口から素直な感想が出る。  いつもは缶やパックのミルクティーしか飲まないから、なんか不思議な感じがしたが、そのミルクティーは香りも味も今までで一番良かった。  そんな優弥の様子をじっと見ていた千歳は、優弥の言葉に安心したのか自分のカップに口をつけてから言った。 「美味しいって言って貰えて安心した。紅茶なんて人に淹れてあげるの初めてだから」 「えっ、これ、千歳が淹れたの?」  優弥が驚いて聞き返すと、千歳は何でもないかのように頷いた。 「お袋が割と紅茶とかに凝っててさ。いつか俺も優弥にミルクティー淹れてやりたいって思って、練習してたんだ」 「……俺のために?」  千歳は優弥を見つめ、優しく微笑んだ。 「だって優弥、ミルクティー好きだろ?」  千歳の言葉に優弥は胸がジーンと温かくなった。 (千歳が俺のためにこの紅茶を淹れてくれたなんて……)  嬉しすぎて、涙が溢れてくる。 「優弥っ?」  慌てた様子の千歳に、優弥も涙を拭いながら笑顔を作る。 「バーカ、俺がミルクティー好きになったきっかけは、千歳なんだぞ」 「えっ、俺?」  その優弥の告白に千歳が驚いた声をだした。  あの、二人が初めて会った日……あれが全ての始まりだ。 「初めて会った日に……お前が俺にくれたんだ」  優弥がミルクティーを飲み続けていた理由を白状すると、千歳は唖然としていた。 「俺があげたアレが、きっかけだったのか……?」 「ああ……だから、千歳がミルクティーをくれる度に、初めて会った日を思い出してた……あの日の千歳の笑顔が……ずっと忘れられなかった。でも……」  優弥は昔を懐かしむかのように、そう言うと千歳の淹れてくれたミルクティーを飲み干した。 「……今度からは、今日のこと……思い出すかも……」  さっきまで千歳としていた行為が一気に頭の中を過ぎり、優弥は恥ずかしくて顔を赤らめてしまう。  そんな優弥の手からカップを取ると、千歳は自分の分と一緒にテーブルの上に置いた。 「だったら、今度からは俺の淹れた紅茶だけ飲んでよ。今日のことが忘れられないように」  そして、千歳は優弥の首の後ろに腕を回して肩を抱くと、そのまま強く抱き寄せてキスをしてきた。 「んっ……ふぅ、あ」  濃厚なキスをされ、気がつくと身体の位置が下がり、千歳が覆い被さるように優弥の顔を覗き込んでいた。 「優弥。今日、泊まっていきなよ。俺ん家、誰もいないし……このまま、帰したくない」  甘く千歳にそう囁かれて、優弥はキスとその声に逆上せそうになりながら答える。 「うん……後で、家に電話させて。千歳の所に泊まるって……」  優弥がそう言った瞬間、千歳にギュッと身体を抱きしめられる。 「夢みたいだ。優弥が今、この腕の中にいるなんて」 「夢じゃない。俺は千歳の側に……いるよ」  そう答えて、優弥は千歳の両頬に手を添える。  すると千歳にしては珍しく、イヤらしくもなく、カッコイイ顔を崩してにやけている。 (……なんかこういう千歳……ちょっと可愛いかも) 「幸せ。天国にいる気分だ」 「でも、次からは……もうちょっと抑えて」  優弥の顔の温度が、また少し上がった気がする。 「毎回、こんなじゃ……俺の身体がもたなくなっちゃう……」 「難しいけど、努力します」 「うん」  優しく微笑みながら、千歳が軽いキスをくれた。  と、思ったらいきなり千歳が覆い被さってきて、その身体の重みを感じた。 「……って、ちょっと、言ってるそばからっ! あっ……」 「抑えるのは、次からでしょ?」  そう言うと、千歳は優弥の首筋に顔を埋めてそこに吸いつき、手は優弥の腰から太ももの辺りを撫でてくる。 「んっ……んんっ、もう散々、しただろ! これ以上やったら、本当に……おかしくなる」  半泣き状態で優弥が訴えても、千歳は止めてくれる気配はない。  それどころか、もっと大胆な動きに変わってくる。 「やぁっ、千歳の……意地悪っ! バカ、変態!」  泣きながら優弥が罵倒するのを、千歳は軽いキスで宥めようとしてくる。 「それでも、優弥……俺のこと好きでしょ?」 「む~……」  言葉に詰まって優弥が膨れると、千歳はニコニコと笑顔で頬を擦り寄せてくる。 「あ~、本当に優弥、可愛い!」 「もうっ、いい加減に……」  優弥の抵抗を遮って、千歳はさっきまでが嘘かのように真剣に言う。 「明日は学校、休んじゃう? 俺が1日、看病するからさ」 (看病って……どれだけするつもりなんだよ!) 「優弥……愛してるよ」  優弥の顔も身体も、一瞬にして熱くなっていく。 (カッコイイくせに、そんな子供みたいに嬉しそうな顔するな)  千歳はズルイ。いつも、そうやって自分の心を掴んでいくんだから。  ……でも、自分のこの熱をなんとかしてくれるのは、千歳しかいないわけで……。 「……早く……なんとかしろ」  優弥は諦めて、千歳の首にしがみつきキスを強請った。  そんな優弥に応えて千歳は言う。 「仰せのままに」  そして、千歳の熱い情熱的なキスが優弥の唇……身体へと、たくさん降り続けたのだった。    千歳。俺も愛してるよ。    だから、ずっと俺だけの千歳でいてね。       ~ E N D ~ ______________________________________________ お読みいただきありがとうございます。 この作品に出てくる和彦&亮太メインの「無敵な女王様」も公開中。 まだ恋人関係になっていない優弥&千歳も登場しますので、よろしかったらぜひ。

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