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第10話

「どうした? 深海。身体、キツいか? それともそのミルクティー、不味いか?」  優弥の動きが止まっていたからか、千歳がそんなことを聞いてきた。 「いや……」 「そっか、それ初めて買うやつだったから、どうなのかわからなくてな」  ホッとしたように笑う千歳に優弥は聞いてみた。 「お前、なんで最初の時、ミルクティーを持ってきたんだ?」 「ん~……」  優弥の問いに、千歳は考え込んでいる。 「深海、普段からミルクティーよく飲んでたからかな。一年のころから、見かけるたびに持ってた印象強くて」 (一年のころって……そんな昔のこと、覚えてたのかよ) 「相手の好みはチェック済みってことか?」  嬉しさで泣きかけた優弥は、誤魔化すように皮肉を言う。 「まっ、ご機嫌取りは大事だからね」 (……ご機嫌取り?)  優弥は動揺を悟られないよう、努めて冷静な声を出す。 「そうやって今まで何人の機嫌を取ってきたんだ?」 「さあね……忘れちゃった」  そう言って、千歳はいつもの笑顔で笑う。  ……悔しい。  学園の生徒会長になって地位も権力も金だってある。優弥に告白してくる女だって大勢いる。 (昔から、手に入らないものなんて何もなかったのに。高瀬の身体だって手に入れた……なのに……)  優弥は千歳のネクタイを引っ張り、自分に引き寄せた。 「ふんっ、お前は、この俺だけのご機嫌を取ってりゃいいんだよ」 「はいはい」  こんな言葉で、千歳を束縛出来ないことくらい優弥は最初からわかっている。 (高瀬が俺を抱くのは、身体の相性がよくて、女と違って後腐れなく終わることが出来るから。そんなこと、高瀬を誘ったあの時から覚悟していたことじゃないか)  堪えきれなかった涙が、溢れてくる。 「ちょっ、深海! どうした? どこか痛むのか?」  千歳が慌てたように聞いてきた。 「……痛い」 「え?」  ずっと、胸が苦しくて痛い。 「高瀬……痛みを忘れさせて」 「深海……?」  静かに目を閉じた優弥の唇に、戸惑いながら千歳が唇を重ねてきた。  そのキスはとても優しく、涙の味がした。 (なぁ、高瀬。どうしたら……お前の心が手に入る? 俺だけのものになってくれる? 身体だけじゃない。高瀬の全てが欲しい。他は何もいらない。お願いして手に入るなら、いくらでも願うから)      だからお願い……      高瀬千歳の全てを俺にください

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