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眠らぬ街

この街の住人たちは、眠れぬ呪いをかけられている。魔物によるもの、呪いなどの様々の噂がある。しかしその呪いというのは、奇妙なもので眠らなくても心身ともに健康ということだ。 朝も昼も夜もどんちゃん騒ぎ。 働いても、どんちゃん騒ぎをしても疲れなんて感じない。 それをいいことに、街の住人たちは働きどんちゃん騒ぎを繰り返す。 しかしこの街の住人は、多少他の街より寿命が短いらしい。 この街には、2匹魔物が住んでいる。その魔物たちは人型で、普段はこの街の住人たちに紛れて生活している。 眠気を食べる魔物のハクバ。彼は、遊ぶのが大好き。ずっと遊んでいたいために、食事のために眠気を食べる。 健康を与える魔物のコウサ。彼は、優しくお人好し。ハクバが眠気を食べてしまうため、人間たちは不健康となってしまう。それを補うために健康を与える。しかし、その代償として与えた人間の寿命を食べる。 魔物は人間には見えないため、人間たちは呪いだと騒ぎ立てた。 それをいいことに、魔物たちの食事は加速していく。 ・・ 今日も人間たちはどんちゃん騒ぎ。 ハクバは人間の姿で街中をスキップしながら、陽気に歩いていた。 街中にいる人間たちに、ハクバは見えない。ハクバもさほどそれを気にしてはいない。 黒い髪、赤の瞳。絶世の美少年。服はヒップホップのダンサーのような服を着ている。 夜の飲み屋街は、キラキラと人工的に作られた光で輝いている。 ハクバは増えてきた人を縫うように、スキップをする。裏路地にはいると、さらに人工的な光が強くなる。裏路地にはいかがわしい店が様々あり、女たちの露出も高い。 ハクバは女たちを避けながら、裏路地を抜けると古びた神社の前に着く。 ここは行き止まりだ。神社の左右には何もない。境内には雑草が生え放題だ。人が来ないのか、手入れもされていない。 そこに着くとハクバは立ち止まる。鳥居の前に、アタッシュケースを持ちラフな格好をした青年がいた。黒い髪、黒い瞳。ハクバはその青年を珍しく思ったのか、近づくと、青年は顔を上げる。 「……えっと、君は?」 ハクバはキョロキョロと辺りを見回してみるが、当然人などいない。 「……見えてるの?僕が?」 ハクバは首を傾げ、自分を指差す。青年は、苦笑いを浮かべる。 「変わったことを言うんだね」 「……僕は、ハクバ。キミ、こんなところで何をしているの?そのカバン、キミに似合わないよ」 ハクバは、青年のアタッシュケースを指差すと困ったように笑う。 「えっと隣町から来たんだ。これは、売り物なんだ。手作りアクセサリーを売ってるんだ」 青年はしゃがみ、アタッシュケースを置き鍵を開けるとアタッシュケースを開ける。 色とりどりの髪飾りやネックレス、指輪が綺麗にレイアウトされている。 「……綺麗」 ハクバは髪飾りを見ると、わぁっと口を開き見とれている様子だ。それをじっとみていた青年は、ネックレスを1つだし手に取る。 「……つけてみる?」 ハクバはちらっとネックレスを見るが、目を伏せる。 「平気」 青年は少し残念そうにアタッシュケースにネックレスをしまう。 魔物は金属に触れられない。そのため、断るしかないのだ。 「そうだ、気に入ったものがあれば……」 青年はハクバを見上げる。 「残念ながら、お金がないんだ。売るなら、他の人にしてね」 ハクバは青年に背を向け、人工的な光が輝く方向へ歩いていこうとする。 「君につけて欲しいんだ!」 青年は顔を赤くし、ハクバを見ている。 ハクバは立ち止まるが、振り向く様子はない。 「なんで僕につけて欲しいの?」 「君が綺麗だから!」 ハクバは嘲笑うかのように吐息をもらした。 すると振り向く。冷たい表情を浮かべ、青年に詰め寄り胸ぐらをぐいっと引っ張る。 青年は顔が近いことに照れたのか、顔をそらし赤面をする。 「僕が綺麗に見えるなんて……可哀想に」 パッと手を離すと直様離れる。 青年は服を直すと、ジッとハクバを見る。 「けど、君は綺麗だよ」 「……馬鹿なんだな、キミ。……じゃあ、気が向いたらまた来てあげる。商売はどこで?」 青年の表情は明るくなる。天にも昇る心地というのは、このことだろう。 「明日から、商店街のカフェのスペースで、商売をするんだ。作業場と寝床は、そのカフェの2階」 商店街はこの通りの2本先にある。カフェと言ったら、一軒しかないなと頷く。 ハクバはまてよと、気になる単語を耳にした。 「……寝床?」 「うん。俺は隣町出身だから、呪いにはかかってないんだ。だから、睡眠が必要なんだ」 ハクバは自身より身長の高い青年をじっと見る。青年はふと顔をそらしてしまう。顔を赤くして。 「そうなんだ。……キミの名前は?」 「俺は……タキマ」 「タキマ、うん、わかった。カフェの仕事が終わったら、お邪魔するよ」 そういうとハクバは、ニコリと微笑みスキップをして再び人工的な光の世界へ。 タキマは顔を赤くしたまま、その場に残された。 ・・ 次の日の夜になり、初日の販売を終えたタキマがカフェの2階に来る。肩を落とし、ぐったりとしている。タキマはこの街の住人たちに驚いた。住人たちは疲れないのだ。そのため、タキマ1人だけが疲労を感じる。そのズレと違和感を感じたまま、今日の仕事は終わった。 借りている仕事場のため、生活に最低限のものはない。また、ベッドはあるが使われていなかったのか、毛布の色があせている。 タキマは、ベッドに飛び込む。 「疲れた?」 「えっ!?」 起き上がり、後ろを見ると壁に寄りかかっているハクバを見つける。 「タキマ、寝るの?せっかく、僕が来たのに」 「どこからはいったの……」 「どこだっていいでしょ。タキマは、寝るの?寝て時間を消費するより、起きていて楽しいことしようよ」 「……ううん、いいよ」 「なんで?イヤなことも、楽しいことをすれば忘れられるのに。楽しいこと好きでしょ?」 ハクバは近づき、タキマに手を伸ばす。 「寝るのって、大切だと思うんだ。気持ちの整理もできるし」 「セイリなんて、面倒くさいじゃん。ね?」 「ハクバが言ってるのは、楽しいことをして、辛かったことを上書きしてなくそうってことでしょ?それは違うよ。整理して、次に繋げないと」 「……変なの、絶対に楽しい方がいいのに」 ハクバは伸ばしていた手を下ろす。そしてふいっと振り向き、玄関までトテトテと走っていく。 タキマはため息をつき、頭を掻く。 そしてベッドの上で体育座りをする。そして、顔を赤くする。 「照れてた、可愛い……」 玄関の扉に隠れていたハクバは、顔を赤くしどこかへ行ってしまった。 ・・ 営業を始めて数日目の夜。 タキマは風呂から上がったばかりのようで、タオルを肩にかけベッドに座っている。髪からは水がポタポタと滴っている。 玄関の扉の影に、ハクバは隠れていた。なんで隠れているのかと、自分で不思議に思ったらしく、ひょこっと顔を出す。 「ハクバ、また来てくれたんだ」 「……うん。なんか、胸がもやもやするんだ。多分タキマが変わってるからだ」 「え……」 タキマは何かを期待したのか、顔を赤くする。ハクバはゆっくりとタキマに近づく。しかし、一定の距離を取る。 「ハクバは楽しいはイヤ?ずっと楽しいんだよ?」 「……楽しいって、続きすぎると普通になっちゃうと思うんだ。そうしたら楽しいが楽しいって感じなくなる気がする」 「……どういうこと?」 「辛いとか悲しいとかを乗り越えるから、楽しいって感じるんじゃないかな」 「……じゃあ、僕の胸のもやもやが解決したら、楽しくなるかな?」 タキマは目を閉じる。 「どうかな。……もやもやが解決するのも、なくなるのも、ハクバ次第かなって」 「……僕の?……わかった。もやもや、解決するように頑張るね」 ハクバはニコリと笑う。その笑った顔は、そこらの女とは比べ物にならないくらい美しい。 タキマはその笑顔にドキッとし、生唾を飲み込み、今作れる精一杯の笑顔を浮かべる。 「……うん、頑張れ」 「……タキマはいつも顔が赤いけどなんで?」 ハクバはグイグイと近づく。タキマはハクバが近づきたび、後ろにズルズル下がるがベッドの上にいるため、壁まで追い詰められると、ハクバはタキマにまたがるように乗る。 「えっと……近い、かななんて……」 「……なんだろう、近いと……胸の奥が……ドキドキする……」 ハクバは自身の胸を押さえる。顔は赤く、目をを細めている。 「ね、ほら、離れよ?」 「タキマ、なんで、ドキドキするのかな?変だよ。……他の人間には、こんな、ならないのに。タキマ、教えて……」 艶っぽい表情を浮かべているハクバの肩を掴み、タキマは離れさせる。 「駄目、だよ」 「……教えて、くれないの?タキマ」 「……うん」 肩を掴みながら、下を向いている。顔を赤くしながら。 「なんで?」 「……君にしか、その気持ちは、わからないから」 ハクバはタキマの手首を優しく掴み、離させる。すると切なそうな表情を浮かべる。 「……僕に、わかるわけ、ないじゃない」 ハクバはうつむきながら、離れるとトテトテと走り玄関から出て行ってしまう。 タキマはハクバに触れられた手首をみる。まだ少しだけ、ハクバの暖かさが残っている。 タキマはその手首を掴み、後悔したかのように奥歯を噛み締めてた。 ・・ 数日後、ハクバはタキマと出会った神社の鳥居の前に座り込んでいた。 「はぁ……」 そして深くため息をつく。すると、お腹をおさえる。 「お腹、すいたな。……けど、ご飯食べると、タキマまで……」 ハクバの食事対象は、この街全ての住人の眠気。そのため、タキマの眠気まで食べる羽目になってしまうのだ。 けれどなぜ、ハクバは拒むのか。 「……僕が眠気を食べると、コウサが寿命を食べにくる。それに、タキマが……眠りたいなら、僕は食べないほうがいい……」 ハクバは胸に手を当てる。 そして心臓がとくとくと動いていることを確認する。しかし、その心臓の動きは遅い。 「……少し、食べなかっただけなのに」 ハクバの瞳から大粒の涙が落ちる。 「あれ?なんでかな?まるで、人間みたいだ」 バチッと、人工的な光が消えた。あの光は消えたことはない。 ハクバはそれを不思議そうに眺める。 立ち上がり、明かりのついていた道を歩く。飲屋街にでると、飲屋街には人が1人もいない。 「なんで?」 すると、暗闇から酔っ払った男性2人が歩いている。 「なんか、こう、夜って感じだな」 「そうだなぁ。寝るのって、なんかこう、こんなに気分がいいものだったんだな」 「そうだな。今までなんであんなに馬鹿騒ぎしてたのか、不思議に思うよな」 そう言いながら、ハクバの横を通り過ぎて行く。ハクバはその場にストンと座り込む。 「……なんで?楽しいほうがいいのに。だってみんな、あんなに楽しそうにしていたのに」 ハクバは頭を抱える。そしてタキマの言葉を思い出し、頭から手を離す。 「……タキマのせいだ。だって今、楽しくない。苦しいだけだもん」 胸に手を置き、タキマが住んでいる場所へと歩いて行く。 すれ違う人は、1人もいない。 カフェにつくと、外についている階段を登り扉を開けると、ベッドで寝転びすやすやと眠っている。 その姿を見たハクバは、先ほど覚えた怒りより先に安心感を覚える。 そしてハクバはタキマの頭を優しく撫でる。すると、ハッとしたようにタキマから離れる。 うっすらと目が開く。ハクバはその様子を、ジッと眺めている。 タキマはぎょっとした表情をする。 「ハクバ……?なんで……」 「ううん。……なんでもないよ。ごめんね、起こしちゃった」 ハクバはタキマの頬を撫でると、タキマは気持ちがよさそうに目を細める。 「……ハクバも、寝る?」 「ううん。……タキマ、ゆっくり寝てね」 タキマはゆっくりと頷くと、目を閉じる。ハクバはタキマの頬を撫でながら、微笑む。 撫でているとハクバの手がどんどん透けていく。ハクバは声も漏らさずに撫でている。 「……そっかこれが……愛しい……か」 昔、誰かから聞いた愛しいって言葉を口にする。すると、ハクバの手は、消え最終的には、ハクバ自身がまるで何もなかったかのように、消えてしまった。 ・・ 朝になるとタキマは気持ちよく目を覚ました。 「……ハクバがいた、夢見たな。……ハクバ、まだ機嫌直してくれないのかな?」 体を起こし、スリッパを履く。ふと床を見ると、白いポピーの花がついたネックレスが置いてあった。不思議に思い、それを拾い上げる。 「ネックレス?なんで、どこから?……けど、綺麗だな……」 持ち主が現れるまでならと、タキマはそのネックレスを首につける。 洗面所に行き、顔を洗う。そして身支度を整えると、店のある一階に降りる。 すると街はとても静かだった。いつもならどんちゃん騒ぎをしている街が、静かだったのだ。カフェを見ると、カフェの40代男性の店長があくびをしながら出てくる。 「あれ?タキマくん。おはよう」 「店長、おはようございます。あくびなんて、珍しいですね」 「そうだね、あくびなんてうん10年ぶりだ」 ヘラヘラと店長は、気分よさそうに笑う。 「そう、なんですね」 「昨夜も久しぶりに眠れたんだ。呪い、切れたのかなぁ」 「呪いが切れたって……」 「けど一部の人は、魔物が眠気をご飯で食べてるからいつまでも疲れないんだって言ってたなぁ。でね、面白いことにその魔物って、絶世の美少年で黒い髪、赤い瞳をしているんだって」 噂だけどねと、店長は付け足すように言いながら笑うが、タキマの顔は青白くなる。 「店長は、なんでそれを……」 「昔魔物が見える人がいたらしくて、その人が言っていたみたい。愛を囁くとそれで魔物たちは、消えてしまうらしいんだ。それで消えてしまうと愛した人の象徴と、その人と出会った場所に、自分の象徴の花を残して消えてしまうんだって噂で聞いたよ?」 「そう……ですか……」 小さく返事をすると、店長は思い出したかのように手を叩く。 「タキマくんが夜に出かけた日、あったでしょ?ほら、神社まで行っちゃったって言っていた……」 「え……あ、はい……」 「その時タキマくんが神社にいたの見た人がいて、その時にタキマくんが必死になって愛の告白をしてるのを見た子がいたんだよね」 タキマは勘違いかとほっとし、肩を落とす。 「はい」 「いいね、若いって。それで、誰に告白する練習をしていたんだい?」 タキマの血の気が一気に引く。そして店長の話に返事もせず、急に走り出す。そして静かな飲屋街を走り抜け、光の灯っていない裏路地を通る。神社に近づくにつれ、ちらほらと白いポピーの花が咲いている。 それを見るたびに心臓の動きが早くなるのを感じる。走っているからか?はたまた別の理由か?額から流れる汗は、走った疲れからか?はたまた別の理由か? そして神社の鳥居前に着くと、目を見開く。そこには、ポピーの花畑が広がっていた。古び、雑草だらけだった境内にポピーが代わりに咲いている。しかし、丁度出会った鳥居の前にポピーの花が集中的に咲いている。 タキマはフラフラとポピーの花畑に近づく。すると膝から崩れ落ちる。 「は……なんで、なんで……消えたの?俺に、何も言わないで……」 地面に手をつき、両手でポピーを握る。 「愛した人の象徴で、ポピーのネックレスだなんて……」 片手でネックレスを握りながら、瞳からはぼろぼろと涙を流す。 「勝手に消えるなんて……勝手に愛しているなんて、言うなんて……」 両手で顔を覆い、地面に突っ伏すとポピーの花びらがふわっと舞う。 「俺だって、ハクバの、っ……ことを……」 舞ったポピーの花びらが、ハラハラとタキマの上に落ちてくる。そして涙を流しながら、突っ伏したまま拳を握る。 「愛……して、いる……のに……」 ポピーの花畑で、哀れにも魔物に恋をしてしまった青年が1人。たった1人で残されてしまった。愛を伝えられることもなく、その恋は一体どこに行ってしまうのだろうか。いやきっと、その恋は、その思いは、彼の中にとどまったままだろう。その恋は、やり場のないまま涙となって、白いポピーに水をやるように流していたのだった。 <終>

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