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第1話

「これじゃ、家に帰んの相当時間かかるな」と八王子に住む先輩が窓を横目に呟いた。 外は横なぐりに雪が降り、都心でも道路は真っ白だ。 彼は時計を見ている。「仕事終わんないけど、帰れなくなったらまずいな」 眉間にしわを寄せている。 「せ、先輩」と俺は声をかけた。「もし、よければ、俺んちで」 「あ?」先輩は突然俺に話しかけられて、怪訝そうにしている。 眉間の皺をのままに、斜め向かいの席から中腰で話しかけてくる俺を見る。 「俺んち、来ませんか?」 「お前んち?どこだった?」 「池袋です。駅からちょっと歩きますけど、山手線だから、多少雪降っても電車とまらないと思いますよ」 先輩は、整った顔に迷いを浮かべている。 やっぱ、だめなのかなあ。 一週間も前から、今日は雪だと天気予報が言ってた。だから俺は、このチャンスを待っていたんだ。 家を掃除し、酒をそろえ、先輩が好きそうな食べ物を買い。 準備は万端だった。家に誘う言葉も練習した。 家に帰るまでの道も、帰ってからの話も。すべての段取りを考えて、ずっとイメトレした。 だから、今日、この寒い中、一人で帰ったりしたら相当落ち込みそうだ。 「八王子だと、今から帰ったら、何時になるかわからないですよ。途中で電車とまるかもしれないし。去年、大変だったって言ってたじゃないですか」 俺は、たたみかけるように言った。 先輩の眉間の皺がすこし解ける。 「確かに、去年は最悪だった」 「ですよね。だから、俺んち、どうですか?」 俺はしつこく言った。 そして、今日、先輩が泊まりに来る。 家についたら、雪を払ってあげよう。風呂を沸かして身体を温めてくださいと言おう。 先輩は、俺の勧めるままに服を脱ぐだろう。 無警戒に。 なんの疑いもなく。

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