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第40話 朝食 *「その恋の向こう側」番外編

 和樹の部屋のトースター機能付きの電子レンジで、涼矢はパスコの超熟8枚切りを2枚並べて焼く。それは1人分なので、その作業をもう一度繰り返す。1人当たり「5枚切りを1枚」がちょうど良い気がするのだけれど、地元も東京も5枚切り文化圏ではない。ただ、地元の個人経営のパン屋なら好きな枚数にスライスしてくれる。和樹に聞いたところで、そんなことをしてくれるパン屋情報は得られないのは分かりきっている。だから涼矢は、黙ってパスコの超熟8枚切りを2枚焼く。  トーストする間にハムエッグを作る。ベーコンエッグのベーコンならカリカリがいい。ハムは温まる程度がいい。だから先に目玉焼きを作って、最後にハムを隣に置いて、水を少量入れて蓋をして、短時間蒸らす。蓋を開けて水分を飛ばしたら、またちょっぴり油を足して、白身の縁をカリッとさせる。黄身は表面だけ固まって、白く濁るところまでは行かない半熟。  出来上がったハムエッグを皿にスライドさせる。第二弾のトーストが焼き上がってチンと音が鳴る。できるだけタイミングを合わせて、紅茶の最後の一滴をカップに注ぎたい。今日はまあまあうまく行った。  欲を言えば、それらすべてをトレイに乗せてベッドまで持って行って、寝起きのぼんやりした和樹に「朝食ができたよ、ダーリン」と言って、うやうやしくサーブしてみたかった。  でも、高校時代は遅刻常習だったはずの和樹は、何故だか寝起きは良くて、今朝も既に洗顔も髭剃りも済ませ、何を言わずとも皿やフォークを並べ、果ては紅茶を注ぐ涼矢に「あと、何かすることある?」などと言うのだ。「手伝うことある?」ですらない、そのセリフは、世の主婦なら涙を流して喜びそうなのに、どこか淋しく感じてしまう。  塩と胡椒。あるいは、醤油派なら醤油差しを。でなければソースを。自分の使いたい調味料を持って行ってくれと言えば、挙げたものを一通り用意する。その日の気分で調味料を変える涼矢のために。 「涼矢は今日、どれで食べる?」とわくわくした顔で尋ねる和樹が、だから愛しくてならない。 --------------------------------- #うちの子版深夜の60分一本勝負 #本編「その恋の向こう側」→https://fujossy.jp/books/1557 2/14は和樹さんの誕生日。 ということで、Twitterワンライ企画で書いたものをUPしてみました。

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