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第47話 ふたりだけの宴 *「その恋の向こう側」番外編
涼矢が帰って、1ヶ月ほど経ったある日の夜。和樹は夕食を準備しようとして、涼矢が大量に作っていってくれたはずのミートソースが、いよいよ残り一食分ほどしかないことに気が付いた。今まではずっと普通にスパゲティにかけていたが、ふいに、涼矢が「なんちゃってドリアだ」と言って出してくれた時のことを思い出した。たしか、ミートソースは白飯にかけて、更にチーズをのせて、電子レンジで加熱していたはずだ。
同じ日の同時刻、涼矢は佐江子もいない1人の夜を過ごしていた。そろそろ夕食だが、食べたいものも思い付かない。そういえば、和樹のために作ったミートソース。それを思い出すと無性に食べたくなった。だが、自分が食べる分だけなら、手間かけて作る気も起きない。いくつかの調味料を省略し、大して煮込まずに仕上げたそれは、案の定コクにも旨みにも乏しい。それは承知のことだからと妥協して、いよいよパスタを茹でる段になって、パスタを切らしていることを知る。仕方なく、冷凍の白飯を使っての「なんちゃってドリア」にメニューを変更した。
和樹はうろ覚えのままに、「なんちゃってドリア」を作った。
涼矢は手抜きと知りつつ、「なんちゃってドリア」を作った。
同じ日の同じ夜、2人は1人で食卓についた。ほぼ同時にいただきますと言い、ドリアを一口、頬張った。あの時はすごく美味しく感じたのだけれど、今日のこれはいまいち美味しくない。
何が足りないんだろう。
和樹はタバスコをかけた。
涼矢はパルメザンチーズを削った。
さっきよりはマシになった気がするが、それでもやはりいまいち美味しくないままだった。かといって不味いというほどでもないから、黙々と食べ続けた。そして、最後の一口を口に入れた時に気づいた。今夜の食卓に何が足りないのかを。
和樹が食器を洗っていると、涼矢から電話がかかってきた。皿洗いを終えたら自分からかけようと思っていたところだったから、タイミングの良さに驚いた。
「なあ、晩飯、何食べた?」和樹がそう言うと、涼矢は少し驚いたように「今、俺もそれ聞こうと思ってたところ」と言った。それから「前におまえに食べさせたドリア、あるだろ? あれを作ったんだけどね」などと話し始めると、和樹がそれを遮った。「そうそう、それ、聞きたかったんだよ。おまえのミートソースで、俺もそのドリア、作ってみたんだけどさ」
「え、あのドリア作ったの? 今日?」
「おまえもあれ食べたの? 晩飯で?」
あの日食べたドリアはどう作ったっけ。今日のはどうしてだかあんな風にならなかったんだ。
そう言うはずだったのに、2人は同時に言ったのだった。
「あのドリア、結構美味いよな。」
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#うちの子版深夜の60分一本勝負
#本編「その恋の向こう側」→https://fujossy.jp/books/1557
宴感はないけど、宴です。
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