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2 見返り★

男の要求は、ある意味予想できるものだった。 つい今さっきまで自分がゲイだと認めることすらできなかった俺にとっては厳しい要求だけれど、男の手元に動画がある以上、俺はその要求を呑むしかない。 「……わかった」 俺が仕方なくうなずくと、男は俺と共に個室に入ってカギをかけ、トイレットペーパーを少し取って、ドアに開いていたのぞき穴をふさいだ。 少なくとも他の人にのぞかれる心配はないとわかって、少しだけホッとする。 「そこの壁に手をついて、少し足を開いて下さい」 言われた通りにすると、男は俺の腹側に手を回してベルトをはずし、ズボンと下着を下ろした。 緊張のあまりすっかり縮み上がったモノが男の目にさらされているのかと思うと、恥ずかしいのと悔しいので、頭が沸きそうだ。 トイレの電気が暗いせいで、あの動画ほどにははっきり見えていないのが、唯一の救いだ。 「…っ!」 いつの間か用意したのかローションらしきもので濡れた男の指が、いきなり尻の穴の中に入ってきて、俺は悲鳴を噛み殺す。 多分まだ、指のほんの先っぽしか入っていないはずだ。 それでも普段はものを入れたりしないところに異物を入れられているというのと、これからもっと大きいモノを受け入れなければならないことに対する嫌悪感で、気持ちが悪くて仕方がない。 男の指は俺の中の壁を探りながら少しずつ入ってきたが、しばらくするとその動きは止まった。 「おかしいですね。  まるで処女のような固さなのですが。  まさかとは思いますが、初めてではありませんよね?」 「……だったら悪いのかよ」 俺がムッとしつつボソッと答えると、男は微かに笑った。 「いえ、悪くはありませんよ。  ただ、こんなところで自慰をするくらいですからどんな淫乱かと思っていたので、少しばかり驚いただけです」 「てめっ……!」 からかうような物言いにカッっとなって、思わず男に殴りかかりそうになったが、自分の立場と今の状態を思い出し、どうにかそれは思い留まる。 「しかし、そういうことですと、見返りとしては少し貰いすぎかもしれませんね」 「えっ?」 男の言葉に俺は、もしかしたら最後まではヤラレなくて済むんじゃないかと、少しだけ期待する。 「まあ、いいでしょう。  貰いすぎる分、お釣り代わりということで君にも愉しんでもらえば済むだけのことです」 そう言うと、男は空いている手を前に回し、縮み上がった俺のモノを握ってきた。 そうして男が何回か軽く手を動かすと、それだけで、俺のモノはあっという間に半勃ちになった。 無造作に手を動かしているだけのように見えて、きっちり裏スジを刺激してくるあたり、男は相当に手慣れているようだ。 「ちょっ、やめろよ!  釣りとかいらないから、早く突っ込んで、とっとと終わらせろよ!」 「あいにくと、借りは作らない主義でしてね」 「脅迫してる時点で、借りとか関係ねーだろ!」 言い合いをしている間も男の手は止まらず、俺のモノはどんどん固くなってきている。 同時に後ろに入ったままの指も動かされていて、気のせいか、前の快感と連動するように後ろでも快感を得ているような気がするのが、不安でたまらない。 前を触っている手は、次第に動きが巧みになってきていて、気付けば先っぽからにじみ出した液体のせいで、卑猥な音がし始めている。 口から漏れる荒い吐息は、止めようとしてもうまく嚙み殺すことができない。 快感から気をそらすために何か小難しいことを考えようとしてみたけれど、とてもじゃないが思考に集中することなんてできなかった。 これ以上、勃起したくない。 ましてや、イキたくなんかない。 そう思った俺は、男の手の中にある自分のモノの根本を、ぎゅっと押さえて物理的にイケないようにしようとする。 俺の行動が意外だったのか、男が後ろで「おや」と小さな声を上げた。 「我慢しなくてもいいのですよ?  男ならここを触られて気持ち良くなるのは当然のことです」 男はそう言うが、俺は自分が男の手でイカされてしまうのはいやだったし、それに……このまま男の手でイッてしまったら、自分が昨日までの自分とは全く違うものになってしまいそうな気がして、イッてしまうのが怖かった。 俺が根本を押さえる手を解こうとせず、子供がイヤイヤをするように首を振っていると、男が俺の耳元に唇を寄せた。 「手を放しなさい。  忘れたのですか? 君は脅されているのですよ?  だから私に命じられて手を放しても、そしてその結果、達してしまったとしても、決して君が悪いわけじゃない」 男が耳元で囁く声は、さっきまでよりも低く、そのせいか甘く響く。 その言葉はまるで、魔法の呪文のようだった。 ——そうか。俺は悪くないんだ。 男の言葉に、なぜか素直にそう納得した俺は、男の言うままに、自分のモノの根本を押さえていた手を離した。 意識はしていなかったが、いつの間にかこわばっていた体からも、自然と力が抜ける。 「いい子ですね。  そのまま力を抜いていなさい」 そんな男の言葉と同時に、後孔に入れられていた指が抜かれた。 少しの間、後ろで男が身動きする気配がして、それから、確かな質量を持つものが、俺の中に押し入ってきた。 「くうっ……!」 初めて受け入れる男のモノは、指とは比べものにならなかった。 あらかじめ男が中を広げていたので痛みはほとんどなかったが、太いモノが中を押し広げながら入ってくると、さすがに苦しくてたまらない。 俺が苦しさに耐えていると、男の手がまた前に回り、萎えかけていた俺のモノを握った。 「ああっ……」 前に快感を与えられると、それにまぎれて後ろの苦しさはあまり気にならなくなった。 「そのまま、前で感じていなさい。  これは、命令ですよ」 男に言われるままに、俺は自分のモノに与えられる快感を追う。 けれども、自分の躰の中でしっかりとその質量を主張しているモノを、無視することなどできない。 それでも、それが自分に与えているのは、決して苦しさだけではないということから目を背けたくて、俺は必死で前に意識を集中する。 「そろそろイケるでしょう?  イッてみせなさい」 「……あぁっ!」 男の囁きに導かれるようにして、とうとう俺はイッてしまった。 男の手に握られていた俺のモノは、いつの間にかハンカチらしき布に先を覆われていて、俺が吐き出したものはそれで受け止められた。 後孔で存在感を示していた男のモノも既に小さくなっている。 中が濡れているような感じはしないので、男はコンドームを使ったらしい。 ……俺、なんでこんなやつにおとなしくイカされてるんだよ……! 達して躰の熱が引いて冷静になってくると、素直に男の言葉に従ってしまった自分に対して腹立たしさを覚えると同時に、自己嫌悪に陥る。 「……自分でやるから」 そう言って、俺のモノを拭っていた男の手からハンカチを受け取ると、男はようやく俺の中のモノを抜いて体を離してくれた。 落ち込んだ気持ちのまま、後始末をして服を整える。 すっかり汚れてしまった紺色のハンカチをどうしようかと困っていると、不意に後ろから男の声がした。 「:七森(ななもり)みちるくん……ですか。  へえ、なかなかいい高校に行っているのですね」 驚いて振り返ると、男はズボンのポケットに入れてあった俺の財布と、その中に入れてあった生徒証を手にしていて、しかも丁度スマホで生徒証の写真を撮っているところだった。 あまりのことに呆然とするしかない俺に、男はにっこりと微笑みかけた。 「こんな場所にわざわざ身分証明書を持って来るなんて、ずいぶんと:迂闊(うかつ)ですね。  もう少し気をつけた方がいいですよ」 男は白々しくそんなことを言いながら俺に財布と生徒証を返してきた。 しかし実物を返してもらっても、男のスマホにはすでに俺の生徒証の画像が入っている。 「さてと、この写真を悪用されたくなかったら……どうすればいいかはわかりますよね?」 「あ……」 ああ、終わった……。 今回の一回きりでは終わらず、これからもずっと男に弄ばれ続ける未来が容易に想像できて、俺は目の前が真っ暗になった。

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