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4 プレイ 1☆
男はまず、俺に立って服を脱ぐことを命じた。
Tシャツ、ズボン、靴下までは問題なく脱ぐことが出来たが、最後に残ったボクサーブリーフを自分から脱ぐのは、さすがにためらってしまう。
「下着も脱ぎなさい」
「……はい」
命令には服従するのが、この馬鹿げたプレイのルールだ。
俺は男の命令に返事をすると、思い切ってボクサーブリーフを脱いだ。
全部脱いで、男の前に気をつけの姿勢で立つ。
男は値踏みでもするように、俺の頭のてっぺんからつま先までじっくりと眺めている。
きちんと服を着てゆったりと座っている男に対して、自分は全てをさらけ出した姿で立たされているのが、どうにも落ち着かない気分だ。
「なかなか綺麗な体をしていますね。
乳首は初々しいピンク色だし、日焼けしていない白い肌も筋肉が付き過ぎていないところも、実に私好みです」
男の言葉に、水泳でもやっていて真っ黒の筋肉バキバキの体だったら目をつけられなかったのにと悔やむが、今更どうしようもない。
「みちる」
いきなり男に名前を呼ばれ、俺は反射的に背筋を伸ばしてしまう。
「褒められたら、お礼を言いなさい。
言ってごらん。
『ありがとうございます、ご主人様』、です」
命令には従うのがルールだ。
しかしそれ以上に、男の言葉には、どこか逆らえないようなものがあった。
「…ありがとうございます、ご主人様」
「うん、それでいい。
いい子ですね」
素直に男の言葉を繰り返した俺に、男は笑みを浮かべる。
それだけのことで、俺は体からふっと力が抜けたのを感じる。
「来なさい」
椅子から立ち上がった男は、ベッドの方へと歩きながら俺を呼ぶ。
「はい」と答えてそちらへ向かうと、さらに「ベッドに上がって横になりなさい」と命じられた。
言われた通りにすると、男はベッドに付いている手枷と足枷で俺を拘束した。
両手はひとまとめにされて頭の上に上げさせられ、足は軽く開いた状態で固定される。
男は身動きの取れない俺の頬をそっと撫でながら、こう問いかけてきた。
「今、どんな気分ですか?」
「どんな気分って……」
それは当然、最悪な気分だ。
けれどもプレイの前だったらともかく、今の男に対してはそんな減らず口を叩ける雰囲気ではない。
仕方なく俺は、今の自分がどういう気分なのかを考えてみる。
「不安、です」
それが一番、今の正直な気持ちのような気がする。
手足を拘束されて身動きできない状態で、男が俺にどんなことをするのか、その結果、自分自身がどうなってしまうのかと、不安を感じている。
「そうですか。
それでは、今のその気持ちをよく覚えておきなさい」
不安だという、ごく当たり前の気持ちを覚えておけという男の言葉の意図はわからないけれど、とりあえず「はい」と答えておく。
男は軽くうなずくと、今度は俺の胸に手を伸ばしてきた。
まず手のひらで胸の筋肉の張りを確かめるように全体を軽く撫でた後、指先で乳首の周りの色の違う部分にそっと触れる。
それだけでもなんとなく落ち着かない、ぞわぞわする感覚に襲われたが、男の指先が乳首に触れた途端、俺の体は自分の意思とは関係なくビクッと震えた。
男はそんな俺の様子を見てかすかに微笑むと、俺の左の乳首を親指と人指し指でつまむように触りだした。
つまめるほどの大きさじゃなかったはずの俺の乳首は、男の指先でつまみ出すように揉まれたり、爪で軽くひっかかれたりしているうちに、だんだん大きくふくらんでくる。
そしてその大きくなった乳首を、男が指先できゅっと強めにつまんだ時、俺は思わず小さく声をあげてしまった。
嘘だろ……乳首つままれて感じるとか……。
ゲイ動画を見た時、確かに乳首を触られた男が喘ぎ声をあげていたけれども、あれは演技か、そいつが特別感じやすいだけなのだと思っていた。
けれども今さっき俺が男に乳首をつままれてあげた声も、小さかったけれど、あれは確かに喘ぎ声だった。
嫌だ。
乳首で感じたくなんかない。
俺はあのゲイ動画の男優みたいに、乳首を弄られて派手に喘ぎたくなんかない。
そう思っても、今の俺は手も足も拘束されていて、乳首を触っている男を押しのけることも出来ない。
乳首を触るのをやめさせられないなら、せめて痛みで意識をそらせようと考えた俺は、自分の下唇を強く噛んだ。
するとその途端、男は乳首から手を放したかと思うと、俺のあごをぐっと強くつかんだ。
「みちる、覚えておきなさい。
快感も、痛みも、苦痛も、すべて君の自由になるものではありません。
君に出来るのは、主人 である私から与えられるそれらを、ただ受け取ることだけです。
いいですか?
君は私のスレイブ——奴隷なのですよ?
主人から与えられる快感を拒み、勝手に自分自身に痛みを与えて気をそらせようとするなど、もっての他です」
静かに、言い聞かせるような口調。
けれどもそこには、強い怒りが感じられる。
「すみません、でした」
怒鳴られたわけでも殴られたわけでもないけれど、それでも、男に反発しようという気にはならなかった。
すぐに謝ったのが良かったのか、男はあごをつかんでいた手を放してくれた。
「わかればよろしい。
それでは、改めて君に快感を与えましょう。
君は、それを受け取り、素直に感じ取るように。
いいですね?」
「はい、ご主人様」
俺が返事をすると、男はうなずいて、今度は両手で乳首を触ってきた。
きゅっきゅっとつままれたり、くりくりと弄られたり、ぎゅっと押しつぶされたりと様々な刺激を与えられ、その度に俺は体を小さく震わせる。
喘ぎ声も、ゲイ動画みたいなわざとらしい声は出ないけれど、逆に無理に抑えようともしていないので、小さな声は自然に出てしまう。
「おや、勃ってきましたね。
そんなに気持ちがいいですか?」
男に指摘されて視線を下げると、まだ触られてもいない俺のモノは、確かに半勃ちになっていた。
「……はい、気持ちいいです」
「顔が赤いですよ。
どうかしましたか?」
「その……恥ずかしくて」
快感を与える意図をもって触られているのだから仕方がないとはいえ、初めて乳首を弄られて半勃ちになるなんて、あまりにも恥ずかし過ぎる。
俺の答えに、男は少し微笑むとこう言った。
「そうですね。
確かにみちるは、ご主人様に乳首を触られてペニスを勃起させてしまう、恥ずかしい子です。
けれどね、みちる。
君は、私に快感を与えられて、それをきちんと受け止めることが出来たからこそ、そんな恥ずかしい状態になっているのです。
だから君は、恥ずかしい子だけれども、決して悪い子ではない。
むしろ素直に感じられる、いい子ですよ」
「ありがとうございます、ご主人様」
ほめられたら礼を言う。
教えられたそれを、反射的に実践すると、さらにいい子だとでもいうように頭をなでられた。
そんなふうに褒めるのも、きっと『飴と鞭』で、プレイの一環なのだとはわかっていたけれども、それでも頭をなでられて少し、ほんの少しだけだけど、うれしいと思ってしまった。
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