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その後…【杉田学・頬付銀】
銀がいなくなってから一か月がたった…
プルルルルルルルル…プルルルルルルルル…
耳に当てた電話の向こう側から呼び出し音が聞こえる
多分もう家に帰ってる時間だと思う…
『……まな…?』
「ッ!!ぎ、ぎん…」
がちゃっと音がしてなじみのある声が聞こえた
なんだかほっとして息を吐いた
『めずらしい~まなからかけてくれるなんて…ていうか初めて?』
銀が電話越しにケタケタ笑っている
銀だ…
つい二日前にも声を聞いたはずなのになんだか胸がじぃんっとした
俺と銀は約束通りこうやって何日かに一回電話で話している
始めのうちは銀から一日に何度も電話がかかって来たけどあまりにも頻繁だからやめさせた…
今はもっぱらどちらが決めたルールでもないけれど夜の7時頃に電話するようにしていた
大体銀から…っていうか銀が言った通り俺からかけたのは初めてかもしれない…
『もしもし~?まな?聞こえとる?』
「……聞こえてるよ…」
『おー良かった良かった、まな元気?無理しとらん?』
「それこの間も聞いた…」
『やってまなの事心配なんやもん』
電話の向こうから銀がははって笑う声が聞こえた
声だけなら銀がすぐ耳元にいるみたいだからなのか銀がとても遠にいるって言う実感があまり湧かなかった
「ぎん、は…その、学校…どうだった…?」
『オレ?オレはなぁ…』
なんだか電話越しに話すことにイマイチまだ慣れてなくて曖昧に銀に話を振る
すると銀はここ二日の間にあったことを離してくれた
『都会やからかな?やっぱりどこもバイト代ごっつ高いんで?時給1200円とかあるもん』
「…もうバイト決めたの?」
『ううん、とりあえずもうちょっと落ち着くまでは待とうかなって、何個か目星はつけてるんやけどな』
そんななんでもない事を話す
銀は元気でやってるみたいだった
学校でも友達ができてそこそこ楽しくやってるらしい
何でも入学してすぐに選択してる授業と学籍番号で割り振られた班が発表されてその班で課題とかをやったりするんだって
その班の中に女の子がいるか気になっていたら銀は自分から教えてくれた
4人の班の内2人が女の子なんだって…
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ不安だったけど銀の事を信頼してるから大丈夫だ…
俺も最近大学が同じな藻府や久遠さんとお昼を食べるようになった事や、たまたま寄った本屋で桜井さんがアルバイトしてた話なんかをした
『あ、せや、夏休みにはそっちに遊びに行くから待っとって?まだあんまお金ないから遠くへは行けへんけど日帰りで海ぐらいならいけるやろ、何なら健斗と猛…は勉強の邪魔しちゃ悪いか…猛以外誘おうや…』
「またそう言うこと言う…猛にあまり意地悪するなよ…」
『え?何まなやきもち?だーいじょうぶやって、さすがにあんな筋肉ゴリラと浮気したりせんわぁ』
「ちっ、ちがうッ!!」
別に猛に嫉妬したりはしてないけど反射的に顔が熱くなった
その後もそんな軽口をたたきながら話しているといつの間にか通話時間が1時間近くになっていた
そろそろ晩御飯食べて風呂入って課題やっちゃわないといけないかな…
『あ、まな、時間大丈夫?明日も授業あるんやろ?』
「えっ、あ…う、うん…」
すると銀に思っていたことを言われてなんだか驚いたけどおかしかった
ふふっと思わず声を出して笑う
『?なに?なんで笑うん?』
「ごめん、同じこと思ってておかしかった」
そう言うと銀もははっと笑った
なんだか銀と話すと気持ちが軽くなった
『そっか、じゃあまなもう今日ははよ寝なあかんな』
「……うん…」
『ははっ、そんな寂しそうにせんといてや、またすぐ電話するって、何ならまな明日とかに電話してくれてもええで?』
銀の笑い声が聞こえて銀が俺の頭をポンポン撫でているような気がした
余裕そうに笑いながら話す銀がまぶたの裏に浮かぶ
「…まぁ、また電話するね……」
『あ、せや、まな待って』
「……?」
『……愛しとるで…おやすみ』
「ッ!!」
銀に突然そんな事を言われて顔が熱くなってその場にへたり込む
なんだか俺だけこんな風になっている気がして恥ずかしかった
『あれ?まな顔真っ赤』
「……ッ、うるさい、見えてないだろ…」
『そんぐらいわかるわ、もうすぐ2年やで?』
くっそ…
銀に言われてカレンダーを見るともう5月が近くなっていた
いろいろあったとはいえ…2年前の5月に付き合い始めたんだもんな…
銀が転校してきた日の事を思いだす…
『「苗字はほっぺたの頬に付属の付でほおづき、名前は銀色の銀でぎん、転校生、仲良くしてや~」』
「……心読むなよ…」
『あ、やっぱり?あたった?』
電話の向こうからあの日の言い回しと全く同じ声が聞こえてきた
もうずっと前のような、でもつい昨日の事のように思い出せた…
銀がからからと笑っている、なんだかおかしくてつられてオレも笑った
一通り笑うと銀が口を開く
『で、まなは?』
「…?で、って?」
『オレが愛してるで~おやすみ~って言ったんやで?まなは?』
「ッ!!」
電話の向こうで銀がにやにやしているのが見えるようだった
銀は俺が何か言うのを待っている
「…いっ、言わない!!好きじゃない!!」
『えぇ~、なんで?まなオレの事好きじゃないん?悲しい…』
銀が本当にへこんだような声を出す
いつもの構って欲しがりな演技だとわかっているはずなのに思わず慌ててしまう
「そ、そういうわけじゃ…」
『……じゃあ好き?』
「ッう…」
『…ううっ…やっぱりまなはオレとのことなんて遊びやったんや…』
銀がわざとらしい声を出す
遊びって…どの口が言うか…
溜息が出た…
「…き、嫌いじゃ、ない…よ…」
『……ふーん…』
「も、もういいだろっ…!!」
『愛してるは言うてくれへんの?』
「なっ!!」
思わず口の端が震えた
『別に嫌いじゃないんやろ?』
「ッ!!」
銀がにやりと笑う顔が浮かんだ
くっそッ~~~~~~!!!!
「あ……あ、ぁぃしてる……よ…ッ~~~~~~~~~~~!!!!!」
顔から火が出そうだった
銀がふふんっと満足そうに鼻で笑う
『そっかそっか、まなもオレの事「ア・イ・シ・テ・ル」んやな?良かったぁ~』
「………その言い方やめろ…」
『ホントやん?「ア・イ・シ・…』
「やめろ!!」
銀はまた芝居がかった様子でそう言った
知ってるくせに…知ってるくせに!!
恥ずかしくなってベットに倒れ込み顔を枕に押し付けた
銀はそれをわかっているのか満足そうに笑いながらしばらく黙っていた
『ふふっ、じゃあ…まなのオレへの愛が確認できたとこで寝るかぁ~、俺も実は明日1限あるんよね、未来のお嫁さんのためにも頑張らなあかんからな?』
「………お嫁さんじゃない…」
『あれ?別にまなとは言うとらんけど?』
「………」
『冗談やって…』
「……ふん…」
銀はここ最近何度も言っている『まなが一番やで』を付け加えた
『じゃあな、まな…おやすみ…』
「………ん…おやすみなさい…」
銀が電話を切るのをスマホを耳に当てたまま待っていた
しばらくは電話がつながったままの沈黙が続く
そしてほんの少しあとに…
『まな、愛しとるで…』
ぼそっと銀の真剣そうな声が聞こえた
きゅうっと胸がいっぱいになって思わず口をひらいた
「ぎんっ!!俺もっ!!」
あの日と同じように伝えずにはいられず大きな声が出た
そのまま電話は切れてしまう
最後の言葉が銀に通じたかはわからなかったが、それでも最後に銀が『ふふっ…』と笑った声が聞こえた気がした
【別に嫌いじゃないんやろ? 終わり】
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