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第20話

「…っ、忘れられなかった…ずっと。ずっと…っ…」 悲痛な声が、漏れる。 黒沢のことも、樹のことも、ーーー何もかも。本当は忘れられなかった。 「もっと…ちゃんと話し合ったりすれば、良かったですね」 不安を。未来を。二人のことを。 たった、それだけのことだったのに。 初めて見せる涙を、樹の手がそっと拭う。 記憶の中の体温より、少しだけかさついて、ーー温かかった。 「ねぇ、先生」 陽介の前に、手が差し伸べられる。 「これからデートに行きませんか?」 しどどに濡れた瞳が揺れる。 暫くして、陽介は穏やかに、そして、小さく嬉しそうに笑った。 「…そうだな」 そっと指先を絡める。 暖かな夜風が吹いた。 墓石に刺した桜も揺れる。 ひらりと、花弁が落ちた。それは、そっと優しく、開花前のーーーこれから開いていく蕾に触れ、ゆっくりと風に流されていった。 end

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