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〈3〉解せぬこと
八代はスポーツマンで爽やかイケメン――その上性格もいい――というハイスペック野郎ゆえ、えげつないほど女にモテる。
なので拙者は八代に好かれて以来、そのファンのメス豚共によってこれまで数々の嫌がらせ――主に罵詈雑言――を受けてきた。
八代がしょっちゅう2年の教室まで会いに来るのは、そんなメス豚共から守ろうとしてくれているのかもしれないが……ぶっちゃけ迷惑が二倍になっただけでござるな。
火に油を注ぐ行為だと何故気付かないのか!
それに拙者、ブーブーと口うるさいだけのメス豚共なんか別に怖くないでござるし。
キモいとかブサイクとか死ねとかいうヒネリのない悪口は言われ慣れているので今更なんとも思わない。
そんなメス豚共も、拙者が『八代に相手にもされないお前らは拙者以下の存在でござるが?』などと正論をぶつけたら、それからはちょっと大人しくなった。
キモオタ代表のような拙者にそれ以下だと言われたのがよほど屈辱だったのでござろうな!
雨宮氏にも、『永田氏、それはエグいよ……』と言われた。
正論を言って何が悪い。
まあ、そんなことを言っても別に八代に好かれて嬉しいわけじゃないし、ふりだしに戻っただけなのでござるが……。
――しかし最近、妙に解せぬことがある。
「おっ、永田じゃん! 今日も八代先輩とラブラブだな! 浮気されて捨てられないようにしっかり見張っとけよ~!」
「あん?」
これだ。何故か今まで一度も話したことのないような奴ら――主に男子連中から、妙な応援をされるのだ。
まるで拙者の方が八代に惚れていて、八代がそれに絆されたかのような――……
奴らは通り過ぎたあとも、後ろで拙者たちの噂話をしていた。
「あいつらってマジで付き合ってたんだ、俺ちょっと八代先輩のこと見直したわ……」
「ほんとほんと。可愛い女をよりどりみどりなのに男の永田なんかで手を打ってくれて、俺達としては有難いよな! まあすぐフラれそうだけど、永田」
「そんなの当然だろ、八代先輩は優しいからヤローからの告白だろうと断りきれなかっただけに決まってんじゃん」
「だよなぁ~!」
「……チッ」
思わず舌打ちしてしまった。
拙者たちを傍から見れば、そう思ってしまうのも分かる……が。
解せぬッッ!!
何故そんな不釣り合いだと思われながらも、カップル認定をされなければいけないのでござるかぁぁ!?
拙者はこいつの告白にオーケーした覚えなどないのに!!
というか名誉棄損でござる!!
「ふふ、やっぱり手を繋いでるとカップルに見られちゃうよね。永田君の方が俺のことを好きだって解釈は間違ってるけどさー」
「原因はそれだよ! とっとと手を放せッ!!」
「やだ、放したいなら無理矢理振りほどいて?」
「ぐぬぬ……貴様、拙者が腕力では到底かなわないと知ってるくせに、卑怯だぞ!」
「あー永田くん可愛い。大好きだよ」
「人の話を聞けよ……」
ああもう、本当に嫌だコイツ。
拙者だってな、今までは人前で堂々と手を繋いだり、キスしたり、好きだよってささやいているような二人組を見たら、あいつら付き合ってんだなと信じて疑わなかったでござるよ?
でも今は、そんなラブラブに見えるカップルも一方が脅されている、もしくは一方的にそうされているという可能性を見出してしまったでござる……!
まさにここにいるからな!! そんな二人組が!!
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